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元々天使とはたかが人間に

相容れない存在である。

そう母に教えられたことがある。

相容れない存在、すなわち肩入れを

してはならないしされてもならない。

されるならば私達のいる

この世界から追放してやるといい、と。

もしも―このまま逃げて

逃げ切れないならば…。

せめて“それ”だけは。

またせめて售だけは。

明音は彼の手を掴みながら

もう片方の手を後ろの羽へと触れる。


 (私が天使でなければ。)


後ろの妖怪…いや山城慶を

思い出して口走ってしまっが

あれは妖怪じゃない。

天使を狩る者、さしずめ死神だろう。

今のところ私は規律を破っている。

だからこそその異端者を殺しに来たのだ。

人間に肩入れをしてされている。

このままでは售も助からない。

售を助けるためにもまた

これ以上首を突っ込ませないためにも

どこかで、この逃走劇に締めを

持たせなければならない。

―だからこそなのか。私は售の手を離した。


 「えっ――」


そうして私に追いついたそれに

対して羽根を大きく見せしめる。

それは私よりも遙かに大きく

そして黒いマントの奥に骸がちらちらと

見えるのを確認する。

その状況に手を離された售も

怯えて腰を抜かしている。


 『―』


私にしか分からない言葉で

話すそれに私は答える。

だがその言葉も售が理解できる

ようなものでもなかった。

それが二人の扉を開けるとも知らずに。

言われた言葉を聴いて私は

心底どうでもいいとは思わなかった。

どうせ人間と別れよ、だとか人間を

最終的には殺せと言うのだろうと

思っていたからだ。

返答は違う。


 『―』


 「どういうこと…?」


そしてその目の前の死神は

大きく見せしめていた骸を

引っ込め人間サイズの身長や

見た目になるとどこへとも分からず

闇夜に老けて消えていく。

だがその黒フードの中の真剣な

眼差しはどことなく儚い形を

持ちながら私を見ていた。

遂に消えると腰を浮かし未だ足を

ふらつかせる售は私のところへ

なんとか戻ってくる。


 「どうして手を…あ、いや。

  それは良い。何を言われた―」


言われたんだ?

と售は明音に聞こうとする。

だが明音はそれが聞こえていない

のかもしくは聞こうとしないのか。

目が泳いでいる。


 「―…どうしたって言うんだよ」


それを見た售が呆れるように声を出す。

それにようやく気づいた明音はああ、

と呟くと自身の右手になにかが

握られているのを確認した。

何かの紙切れのようなものだ。

まさか?


 「明音…大丈夫か?

  てか何言われたんだよ」


 「“日記”」


え?と呟く困惑した售に明音は続ける。


 「日記は日記よ。

  言われたの。さっきあの死神に。

  “身体は純潔だが心はやはり

  抱かれたままだったか”

  “無くされた日記は

  今どこにあるのだろうか”

  …この2つを言われたわ。

  心当たりある?」


 「いいやまったく。」


だよねぇと明音は呟く。

だが何故だろうか心に

靄が掛かっているのは。

それにこの紙。

見覚えのある白地の紙だ。

ルーズリーフとかそこに近い。

安価で買えるくらいの安さだろうか。

でもそれは私たちにとって

どうでもいいことに変わりは無かった。


 「まぁ取り敢えずここを抜けよう。

  学校は…休んじゃうけどまぁいいか。」


售の提案で明音はその場を跡にした。









帰路につき家へと帰る2人は居間には

行かずそのまま2階の部屋へと入っていく。

售は心底うんざりしていた。

母は仕事に姉は大学に。

この家に帰ってくるのは

遅くても夜を過ぎる。

それまでは明音と一緒にいるということ

にうんざりしていたのだ。

嫌いとかではない。

だがだからと言って好きではない、

とはならない。

確かに僕は明音のことが気になるし

今の気持ちは片想いだ。

だからといってこの状況はまずい。

誰もいないんだ、いつでも明音に

体に手を伸ばすことができる。

それがいやらしい意味でも

純真無垢な気持ちでも。

だがその意味と気持ちを售は振りほどく。


 (駄目だ駄目だ。俺は男である前に

  まだ明音とは友達という仲じゃないか。)


として自分に言い聞かせて明音を見る。

明音の横顔は真っ直ぐとしていた。

真っ直ぐと事柄に向き合う姿は勉強

していても癒しとなっていた。

見ていても飽きることのない笑顔、

といったところが良い表現だろうか。

だからこそ生理的、心理的であっても

自分のものにしたいと思うのは

辛うじて普通であると僕は唱える。

まぁそれはいい。

姉兼明音の部屋にドアノブを回す

明音が最初に見たものは


 「本?」


辞書よりも大きい本だった。

中は真っ白で何も書かれていない。

だが最初のページは破れていて

その断片のようなものは見覚えがあった。


 「この破れてるやつって…。」


と右手に握ってあった紙をポケット

から出すとそこにあてる。

すると既に1枚の紙であったかの

ようにすっと直る。

そして直ったページにペンも

当ててないのに黒い文字が浮かび上がる。


 「何これ…」


と售が呟く。

黒い文字はあのとき喋った

言葉ではなくれっきとした

日本語表記だった。


 「変ね…」


 「何が?」


 「だってあのとき私があの死神に

  喋った言語は書き言葉もあるのよ。

  だからこういう魔法がかった本とかには

  そういう言語が書かれているはずなの。

  だから変なのよ…これ。

  それに…。」


本はまだ走り書きされるように

次々と浮かび上がってくる。

そうして印字が終わると

ぴたりと走り書きも終わりその

次のページを開いても何も無かった。

前のページ…最初のページには


 「“アリスィアの手記”」


そう書かれていた。

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