再建5 小さな村・スタナキア!
魔王命令という言葉の汎用性の高さに気づいた今日この頃。
朝食を終え、着替えや歯磨きなどの日課を終えて、俺たちは城外に出ていた。
いつ見ても綺麗な草原である。
「にしても、面倒くさい格好だなぁ」
俺はボソリと不満を漏らす。
それもそのはずで、全身を覆う茶色のローブを着させられていた。
グリゼルに至っては、その上に顔をも覆うフード付きのものを着ている。
「我慢してください。魔王様はともかく、私はあの村の者たちに魔王軍の者と知られています。私一人がこのような格好をすれば怪しい集団と思われるじゃありませんか」
いや、全員がこの格好の方がよっぽど怪しいと思うんだが……。
まぁ、そこは我慢しよう。
「それで、スタナキアまではどれぐらいの距離があるんだ?」
「そうですね。歩いて三十分、ガレウスに乗れば十分弱で到着できるでしょう」
思いの外時間がかかるようだ。
「一番近い村でも、それぐらい時間かかるもんなんだな」
俺の問いかけに、グリゼルはすぐさま返答してくれた。
「はい、村で一揆が発生することも稀にありますから、村とは距離を置いているのです」
やっぱり魔王軍は悪役なんだな。
どうせなら、勇者とかを任されたかったとかいう願望は心の奥にしまっておこう。
「じゃあガレウスに乗っていくか。ガレウス大丈夫か?」
「任せて!」
元気よく返事をしたガレウスは、ピカッと身体が光り始め眩い光に包まれる。 まるでポ○モンの進化のようだ。
「グリゼル、竜族ってみんなこんな感じなのか?」
「えぇ、おそらくはそうだと思われます」
「よし! 二人とも乗って!」
本来の姿になったガレウスの背中に俺とグリゼルは乗り、しっかりと掴まる。
「しゅっぱーつ!」
大きな掛け声を言って、二人を乗せた竜は晴天の青空に羽ばたいた。
「あれが、スタナキアか」
大空から下を見ると、小さな村が確認できた。
「はい、あれがスタナキアです。人工約二百人ほどの小さな村で、そのうち老人が三分の一近くを占めています」
「よっし、じゃあ近くの森に着陸しますよーっ」
ガレウスは村の近くにある森の中に密かに着陸した。
密かに、とはいえ正直バレている可能性の方が高いような気がする。
「あそこがスタナキアで間違いないんだな?」
「はい、間違いありません。ここから村までは歩いて向かいましょう」
三人は村に向かってゆっくりとした足取りで歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
小さな村――スタナキアと呼ばれるその村は確かに小規模の村だった。
古い景観を大事にしている町並みは、どこか落ち着くような安らぎを感じさせる。
村に入ってすぐの場所には村人のために設置された掲示板があった。
そこにはいろいろな村の情報や都の情報まで載ってあった。
見ていると妙な張り紙を発見する。
「これは?」
俺は一枚の張り紙を指さしながら、グリゼルに聞いてみる。
「それは盗賊でしょう。懸賞金は金貨50枚ですか。巷で話題の盗賊みたいですね」
俺は「へぇ~」と軽く相槌を打つ。
「金貨50枚でそれぐらいなのか。
……もしかして、俺達魔王軍も懸賞金掛けられてたりすんの?」
「それが、魔王軍発足当初は幹部級の者には懸賞金が掛けられていましたけど、規模が巨大化するといつの間にか懸賞金なんて消えてましたね。
私も情報作戦軍長官の時には掛けられてましたけど、軍団統括長になった時には消えてましたから」
「ち、ちなみにどれくらい……?」
「最後に確認したのは3000万枚ほどだったような気がします」
「…………」
予想を遥かに上回る数字に言葉を失う。
これが味方だから心強く思えるけど、敵だったら絶望感が心を支配するんだろうなぁ。
宇宙の帝王とか称される戦闘力53万の宇宙人みたいに。
村の周囲を見てみると老人の姿が多く目立ち、子供が多くいるという若く活気づいた印象はあまり感じられなかった。
「しっかし、ほんとにこの村って過疎ってるな」
第一声。その一言に俺が思ったこと全てが凝縮されている。
「人、いないね」
ガレウスも俺の思いに同調した。
「仕方ありません。ここはかつて帝星軍と魔王軍との戦いで最も被害を受けた村ですから」
全身をローブで覆っている大賢者風のグリゼルが言うと、妙な説得力を感じる。
「おい、そこのお前たち!」
瞬間、体がビクッと僅かに跳ね上がる。
前方から俺たちに声がかかった。
見ると、スキンヘッドで身体の大きいムキムキの男が立っていた。
「村の者じゃねぇな。どこの者だぁ?」
男は疑いながら、一歩一歩着実にこちらに近づいてくる。
それを見て恐怖を感じたガレウスは静かに言葉を紡いだ。
「……ど、どうするのコレ」
「……ま、魔王様。どうなさいますか」
「……よ、よし。俺に考えがあるから任せろ」
こそこそと会話をしている間に男はあっという間に近づいてきた。
「……仕方ない、村人よこれを見ろ」
俺は瞬時に「創造神」の能力で一つの剣を創り出し、それを村人の男に見せつける。
「これは聖剣。私は勇者なのだが、とある事情で身を隠している」
俺の額からは冷や汗がどんどん湧いてきていた。
しかし、ここは誤魔化すしかない。
実際は勇者とは真逆の存在である魔王なんですけどね。
「ほうほう。良いことを一つ教えてやるよ。現在の勇者は女性が務めてんだよ」
男は額に青筋を立てて、手を組み合わせてポキポキと音を鳴らしていた。
「どこの者か知らねぇが、勇者を名乗るとはいい度胸じゃねぇか。
もちろん覚悟はできてんだろうなぁ、アァン?」
仕方ない。魔王ということは黙っておいて、この男は気絶でもさせよう。
「ちっ、しゃあねぇな。こうなったら――
男性を気絶させようと剣を構えた瞬間、
「きゃああぁぁぁーーー」
村の奥から女性の悲鳴が聞こえた。
「ど、どうしたッ!?」
幸いなことに男はそっちが気になったのか、悲鳴の下へ向かった。
結局、俺たちのことなんかどうでもよかったんだな。
「助かりましたね……」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ、行くぞ」
「そうだね! 助けなきゃ!」
「え、ちょっと」
俺とガレウスは走って行った男を追って走る。
「ちょっと待ってくださいよー」
グリゼルも数歩遅れて俺達についてきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「――ッ!?」
そこでは母親らしき女性と、その娘らしき者が男三人組に襲われているという衝撃的な光景が繰り広げられていた。
だが、その中の一人の男に俺は見覚えがあった。
「あれってさっきの懸賞金掛けられてた盗賊じゃねぇか」
先ほど見た掲示板に貼られていた張り紙の男。
グリゼルの元懸賞金を聞いてしまったが故に、小物に感じてしまったあの盗賊だ。
「ほんとだ! あの特徴的な眼帯。間違いないね!」
「よし、助けるか」
「うん!」
ガレウスは大きく返事をするが、
「悪い、ガレウスはグリゼルと一緒に待機しててくれ」
「えっ、何で?」
「グリゼルは魔王軍の者だと村の者に知られているから迂闊に目立つわけにはいかない。
ガレウスだって、傍から見たら竜族の子供だ。
不審に思われることは免れないだろうからな」
「そっか……。分かった! 気をつけてね、誠志郎!」
「あぁ、もちろん!」
「あっ! ちょっとー魔王様――ッ!」
俺はガレウスとグリゼルを置いて、事件の渦の中に飛び込んでいった。
「おいおい、金貨20枚とかなめてんのか、あん?」
黒いバンダナが特徴的な男が二名、そしてその二人を配下につける眼帯の男。眼帯の男は懸賞金金貨50枚という盗賊だ。
「我が家の全財産はそれだけです……」
「ちっ、じゃあそこの小娘でももらっておくか」
「やめてくださいっ!
お、お金なら幾らでも払いますから、娘の、娘の命だけは!」
意識を失っている娘を庇うような体勢で、母親は男たちに怯えてながらも必死に懇願していた。
「知らねぇよ。金が無い庶民は死ぬしかねぇんだよ。お前ら、やれ」
「兄貴、この女たち、どっちともなかなかいい身体してるんで、おもちゃにしませんか?」
すると、一人の配下が提案を出した。
それに同調したのかもう一人の配下も言葉を続ける。
「そうですよ兄貴! こっちの小娘なんて絶対処女ですよ、壊れるまでおもちゃにしましょうぜ」
「馬鹿野郎、俺は田舎者の穴に突っ込む趣味はねぇんだよ。
いいからさっさと殺しちまえ」
「へへっ、兄貴は上品な女しか犯さねぇ趣味だったな」
部下は笑いながら会話を弾ませていた。
それを見て母親は震え上がる。
「じゃあ、遠慮なく殺させてもらうぜ。後悔はあの世でするんだな」
下っ端の男は拳を振り上げた、その時――
「おい、そこまでにしたらどうだ。下賤なゴミクズ」
しっかり腕を捕まえたおかげか、拳は振り下ろされずに宙に止まっていた。
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