再建3 研究所長はピリッとしている!
名前を考えるのって大変なんだな、って思いました(小並感)
さて、本来の目的を思い出した俺とガレウスはグリゼルに「遊んですいません」と謝ってから各軍団に挨拶に行くことにした。
城外に出ると、そこには無限に続いているではないかと疑ってしまう草原が広がっていた。
「魔王軍総本山の外って意外と平和的なんだな」
魔王軍、と言うと魔物が辺りをうろうろしている光景をイメージしてしまう。
俺も、それを想像していた。
が、結果は平和な草原。
この世界は平和なんだろうな。
「はい。本来、拠点城というのは敵襲に備えて魔物が住みやすいような環境にするのですが、先代魔王様はそういうことを好ましく思われなかったようで」
「先代魔王は相当変わってる奴なんだな……」
そんなことを喋ってるうちに、ガレウスは全長20mほどの本来の巨大な竜の姿に戻っていた。
ゲームやアニメでよく見た竜だ。
「二人とも、僕に乗ってください!」
ガレウスの言葉に答えるように俺とグリゼルはガレウスの背中に乗った。
関係ないけど、ガレウスってボクっ娘だったんだな……。
「魔王様、ガレウスにしっかり掴まってくださいよ? 飛び立つ際の風圧がかなり強いですので」
グリゼルの言葉通り、俺はガレウスにしっかり掴まった。
「頼むぜガレウス!」
「はい! じゃあ行きますよーっ」
ガレウスは巨大な両翼を上手く使い、大空に羽ばたいた。
瞬間、とんでもない風圧が身体を襲ってきた。
確かにしっかり掴まっていなかったら落ちていただろう。
なんて心地いいんだろうか、間違いなく元の世界では味わえないだろう。
高層ビルが立ち並ぶ光景なんて見当たらない。
周りを見渡せば、少数の村人が生活している小さな村や大人数の人が行き交う街。
森や海、大自然にも恵まれている。
正直、この世界に来て後悔してないというのが本音だ。
何なら、あのつまらない世界よりも楽しいぐらいだった。
そんなことを考えながら、二十分ほど空の旅を満喫していると、
「あちらに見えるのがアリュエスタ城で御座います。あそこでシュヴァルツ率いる技術研究軍が活動しています」
グリゼルは突然、北西の方向に指をさす。
目を細めて見ると、そこには確かに城があった。
「そのシュヴァルツというやつが技術研究所長ということか」
「そうで御座います」
「よーっし! あと少しなので飛ばしますよーっ!」
そう言うと、ガレウスは北西の方向に加速し始めた。
快適な空の旅も束の間で、あっという間に目的地に到着した。
「到着しましたっ!」
ガレウスは徐々に減速し、ゆっくりと地上に降りた。
それはヘリコプターが着陸する光景に酷似していた。
俺とグリゼルがガレウスの背中からゆっくり地上に降り立つと、白衣を身に纏った研究員らしき者が出迎えてくれた。
「ぐ、グリゼル様!? い、いったい何用で御座いますか!?」
連絡は行き渡ってなかったらしい。
そもそも連絡してあるのかも怪しい。
しかし、アポなしで魔王が訪問するというのも怖いもんだな。
というか、いつの間にかガレウスはいつもの少女の姿に戻っていた。
すげぇ、全然気づかなかった。
「シュヴァルツのもとまで案内してもらえるか?」
「は、はいっ! こちらになります!」
グリゼルの言葉に戸惑いを見せながらも、研究員らしき者は俺たちを先導して城内にあっさり通してくれた。
先頭に研究員、次に俺とグリゼルとガレウスの三人が並んで城内を進んでいた。
城内はさっき俺たちがいた魔王軍総本山と構造こそ似ているものの、白を基調とした近未来的な景観になっていた。
「そういえばグリゼル。関係ないんだけど、お前ここに俺を移動させるときに俺の身体に何の小細工をしたんだ?」
「誠志郎、グリゼル様に何かされたの?」
グリゼルに問いかけたが、最初に言葉を発したのはガレウスでグリゼルからの応答はなかった。
「いや、何されたのかは分からないんだけど何か違和感を感じるんだよなぁ」
「…………」
ジト目でグリゼルを見つめてみるものの、グリゼルは沈黙を貫いていた。
「……おい、グリゼル」
「申し訳ございませんッ! 魔王様をこちらの世界に転移させる際に、魔法を掛けてしまいましたッッ!!」
グリゼルは、すぐさま両膝を地につけ土下座した。
その姿には魔王軍軍団統括長というプライドの微塵も感じられない。
「魔法、だと?」
「はい……。
何せ魔王様が元々いた世界と我々の世界アフィルヴェレンは根本的に言語が違うので魔王様がこちらの言語を喋れる、且つ理解できるようにと思いまして……」
グリゼルは俺の機嫌を窺っているのか、俯いては俺をチラ見、俯いては俺をチラ見を繰り返していた。
「魔王様の実力を図るような細工をしてしまい申し訳ございませんッ!!
処分ならば私、グリゼル・カッシュバーン、責任をもってお受けしますッ!!」
土下座しているため、地にべったりついている頭だったが、ガンガン地面に打ち付けていた。
反省の意を表しているんだろうが、狂気じみている。
「いや、いいよ別に……」
「……グリゼル様……」
さすがに俺もガレウスも引いていた。
「本当ですか!? おぉ、魔王様! 何と心の広いお方だ!」
グリゼルはすぐさま立って、俺を崇めていた。
「あっ、はい……」
グリゼルは怖い人、そう思いました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「現在、シュヴァルツ様は約三十人の研究員と共に、こちらで研究なさっています」
辿り着いた先は当然の如く研究所なのだが、かなり近未来じみていた。
さっきまでのファンタジーな外観とは相反し、SF映画にでも出てきそうな一室だ。
「そうか、お勤めご苦労。本来の職場に戻ってくれても構わんぞ」
「ははっ!」
研究員らしき者は、グリゼルに敬礼して走って去って行った。
「失礼するぞ」
グリゼルは間髪入れずにすぐさま入室した。
心構えとかしてないんですけど……。
ブイーン、と機械的な音を発してドアが開く。
「ぐ、グリゼル様っ!?」
「な、なぜここに!?」
中にいた複数の研究員も全員白衣を着用していた。
なるほど、ここにいるやつは全員白衣を着用してるんだな。
さすが、技術研究軍。
理系の方々が集まっているんですね。
「……やはり君は常識というものが欠けているんじゃないのか? グリゼル」
その者はツンツンに尖った深緑の髪に加えて眼鏡をかけていた。
グリゼルを呼び捨てしたその者は、皆と同じ白衣を着ているはずなのに、明らかに身体から放つオーラが違っていた。
間違いない、こいつがシュヴァルツという奴だろう。
「事前に連絡をしなかったことは悪いと思っている。
私の顔に免じて許してくれ」
「私が言ったことはそんなことではない。
なぜ人間をここに連れてきているんだと聞いているんだ」
瞬間、空気が張り詰める。研究員たちも空気を察し、口を閉じる。
「このお方は魔王軍二代目総統閣下となられたお方だ」
グリゼルの言葉に、研究員一同は言葉を失う。
「「「え、ええぇぇぇーーー!?」」」
「…………ッ!」
唐突な説明だなぁ……。
とは思いながらも、一応流れに乗っておく。
「まぁそういうことだ。
俺が二代目魔王に就任した綾瀬丸誠志郎だ、皆の者よろしく」
「綾瀬丸、誠志郎……」
シュヴァルツは何かを思い出したかのように、考える姿勢をとる。
研究員たちも動揺が隠せないのか、ざわざわしていた。
まぁ、無理もないか。
「正気かグリゼルッ!?
人間を我々魔王軍の……、しかも、総統閣下だと!?
寝言は寝てから言えッ!」
「黙れっ!!
先代魔王様の御意向を最大限尊重し、私が出した答えだ。
異論反論は魔王軍軍団統括長、及び魔王軍副総統であるグリゼル・カッシュバーンが認めぬ」
「貴様……ッ!」
「このお方の名は先代魔王様の遺言にあった、そのことはお前も覚えているだろう?」
「…………」
シュヴァルツは急に黙り込む。
しかし、その沈黙もすぐに消えてなくなった。
「お前が、この百年間異世界を調査していることは知っていたが、まさか本当に後継者の人間を捜していたとはな……ッ!」
シュヴァルツとグリゼルの間に険悪な雰囲気が流れ出したところで、俺も会話に加わる。
「まぁ、文句はいくらでも出てくると思うが、俺の言うことには従ってもらうぞ」
「あ、あうぅぅ……」
ガレウスはおどおどしていた。
無理もない、いきなりこんな場に連れてこられた上に、目上の人との関係がないんだから。
「おい何者だ、小僧」
シュヴァルツは眼鏡の奥から力強い視線で俺をギッと睨み付ける。
「シュヴァルツ!」
グリゼルは声を荒らげる。
「グリゼル! 別にいい」
「しかし……」
「……小僧、お前からは微塵の魔力も感じられん。
それにどこからどう見たって異世界から来た人間であることは間違いない。
一体、何が目的だ……?」
グリゼルを手で抑止しつつ、俺はシュヴァルツの質問に答える。
「一つ一つ答えてやろう。
まず、俺は魔力なんかない異世界から来た人間だ。
目的は魔王軍の立て直し、かな」
「ふざけるなッ!」
シュヴァルツは俺の言葉を聞き終わる前に俺の胸ぐらを強く掴んだ。
「シュヴァルツッ! いい加減にしろ!
それ以上魔王様を侮辱するのであれば、この私が――
「下がっていろグリゼルッ! 魔王命令だ」
「くっ……」
グリゼルは下唇をぐっと強く噛みしめて堪えていた。
「立て直す、だと……?
異世界から来た人間如きに我々魔王軍の何が分かる!
私達は我々を救ってくださった先代魔王様の下だから従ってきたのだ!
お前のような人間に従う義理はない!」
「……そうだな。 確かに俺は魔王軍なんて分からないし、そもそもアフィルヴェレンもまだよく分かんねぇ。
でも、お前らの先代魔王とそこのグリゼルに依頼されて、魔王の立場に成ってるんだ。全力でお前らの期待には応えるつもりだ」
しっかりと自分の意思をぶつける。
「どこまでも我々を侮辱するのか小僧……」
「お前らが俺に不満や文句を抱くのは十分に理解できる。
だから、俺は少しずつお前らの魔王に相応しい魔王に成る。
時が経ったときに、もう一度魔王軍を天下に轟く名前に俺がしてみせる」
「……なぜだ、なぜそのような大口を叩けるんだ小僧。
魔法も使えない人間風情が、なぜそこまで胸を張って言える……」
シュヴァルツは少しずつ力を緩めていき、遂に俺から手を退けてた。
一歩、また一歩と後ずさりする。
「魔法が使えなかったら魔王になれないのか?
それは違うだろ。この世界において魔法が全てなんだとしたら、そんな固定観念は俺がぶっ壊す」
「…………」
シュヴァルツは無言で俺を見つめていた。
その眼差しは最初のときほど力強くはなかった。
「……明日の夜、二代目魔王就任パーティーを開催するから、研究員の皆も来てくれよ。よし、帰るぞ」
俺はシュヴァルツ達研究員に背を向けて、グリゼルとガレウスに共に帰るように促す。
「あ、お待ちください。魔王様」
「ま、待って~。誠志郎」
二人は俺を追いかけるように小走りでついてくる。
「あ、シュヴァルツだっけか。お前、気付いてないかもしれないけど――
「あれ? 所長! MSU28の一部分が破損しています!」
「所長、こっちもです!」
「JAX―SB―090の一部分も破損しています」
研究員たちは相次いで故障している機器の報告をする。
「な、に……?」
シュヴァルツは衷心から仰天していた。
括目させて故障した機器一つ一つを自らの手で確かめる。
「まぁ、あんまり俺には刃向うなよ、という最初の忠告だ。
んじゃ、また明日パーティーに来いよ」
「……待て!」
「待ちません」
俺はゆっくりとした足並みで技術研究軍の城を去った。
「所長、何があったのでしょうか……?」
「決まっているだろう! 二代目魔王とかいう奴の仕業だッ!」
シュヴァルツは部下たちに強硬に言い張る。
「……損傷した機器一つ一つが丁寧に一部分だけ破損している」
「それは一体……」
「すぐに機能を復活させることができるように、ということだろう。
……おかしい、魔法を使った痕跡が全く見つからない」
「所長、それって」
「あぁ。あいつはあの短時間で、且つ魔法ではない何らかの力を利用して報いを受けさせた、ということだろう。
……何者だ、あの人間」
シュヴァルツは再度、頭を抱えることとなった。
評価をして頂けると幸いです。