再建2 竜族の少女と仲良くなる!
ガレウス可愛いって思ってしまった……。
兵士は祝福ムードというか歓喜に湧いていた。
周りの者達で肩を組んで叫びあったり、号泣している兵士もいた。
まるで日本がワールドカップで見事に優勝したかのようだ。
二代目魔王の就任、そのことがここまでも人々を狂喜させるものなのか。
にわかに信じ難い光景だ。
「じゃあ、とりあえず魔王軍の詳細説明を頼む」
兵士たちに混じって喜びを分かち合っていたグリゼルに説明を要求する。
すると、グリゼルも我に返ったのか、目をキリッとさせてササッと玉座の隣まで移動し、俺の傍にまで寄ってきた。
「承知しました。まず、魔王軍というのは複数の傘下の軍団の総称になります。軍団には種類があり、技術研究軍や大兵隊、情報作戦部隊など多種多様な軍団が御座います。
そして、それぞれの軍団一つ一つに城が一つ用意されています」
さすが魔王軍。
数百名で構成されている小さな集団ではないらしい。
まぁ、ここにいる兵士の数を見ればそんなこと理解できることだが。
「ほうほう。それで、ここは何軍団の城なんだ?」
「ここは魔王軍総本山でありますから、軍団とはまたちょっと違います。
申し訳ありません。少々難しかったでしょうか」
グリゼルは申し訳なさそうに頭を深く下げた。
「いやいや、充分理解できた。頭を挙げてくれ」
「はい! 有り難き幸せです」
そう言って、グリゼルはゆっくりと頭を上げた。
すると、何かアイデアでも思いついたのか、閃いた顔をする。
「そうだ! 今から各軍団に魔王様が出向かれるというのはいかがでしょう。
魔王軍二代目総統閣下としての挨拶も兼ねてということで」
なるほど。確かに就任して時間も経ってないから他の軍団にはまだ伝わってないだろうし、挨拶は必要だな。
「そうだな。じゃあその各軍団とやらの城に案内してくれるか?」
「もちろんです」
グリゼルは満面の笑みを見せ、口元に手を当て響くように声を上げた。
「さぁ来い、ガレウス! お前の出番だ!」
「は、はいっ!」
グリゼルの呼び掛けに相変わらず歓喜ムードの兵士の山から白いショートカットと対照的な褐色の身体の小さい少女がひょこっとやってきた。
何この子、超かわいい。
「魔王様と私を乗せてアリュエスタに連れていけ」
「は、はい! お、お任せくださいっ!」
「おいおい、こんな小さい子に乗るとか正気か?」
「魔王様、この者ガレウスは竜族の者です。普段は面積を取るので人間態でいるように指示しているのです」
竜族……。やっぱりこのアフィルヴェレンは異世界なんだな、と深く実感した。 竜なんてファンタジーの世界でしかお目にかかれない生物だ。
当然、元の世界では実物なんてお目にかかれない。
「へー。面白いな、これからよろしくな」
俺はガレウスに手を差し出し、握手を求める。
「あ! あうぅぅ……」
しかし、ガレウスは顔を下に向けて胸の前で手をモジモジさせていた。
「ん? どうしたんだ?」
「ほっほっほ。いやいや、すいません魔王様」
俺が首を傾げていると、兵士の山から今度は杖をついた白髪の男性老人が出て
きた。
かなり高齢なのだろうか、足元がおぼついていた。
「ガレウスは魔王軍にいながら先代魔王様と関わりを持つことがなかったことからか、あまりにも立場が上の人と接するのが苦手でして、その上、少々シャイなタイプでして……」
老人がガレウスの傍に行くと、ガレウスは老人の後ろにひょこっと隠れてしまった。
「グリゼル、この者は?」
「その者はサヴィリスです。竜族の者で、ガレウスの祖父に当たります」
「そうか、よろしくサヴィリス」
俺はサヴィリスに手を差し出し、握手を求める。
「はい、よろしくお願いいたします。魔王様」
サヴィリスはガレウスとは対照的に快く握手を受け入れてくれた。
「///////」
ガレウスは顔を真っ赤にして俺とサヴィリスを交互に見ていた。
俺は腰を落として、老人の腰ほどの身長しかないガレウスに目線を合わせる。
「ガレウス。じゃあ俺と遊ぼうぜ!
あと、俺のことは『誠志郎』って呼んでくれたので構わないぞ」
俺の言葉にガレウス、老人、そしてグリゼルも目を見開いて数秒ほど唖然としていた。
何かおかしなことでも言ったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
「…………ッ!」
「な! なりません魔王様! そんなことをしてしまえば、魔王様の威厳と尊厳が――」
グリゼルは慌てて止めに入る。だが、俺が一度決めたことは変えない。初志貫徹の精神というやつだ。
「いいんだよ、俺は威厳とか尊厳とか気にしないし。
それに、魔王軍を立て直すことが第一の目標なら俺の評判なんて二の次だろうが」
「う、しかし……」
「……誠志郎……」
ボソッと今にも消えてしまいそうな声が、かろうじて耳まで届いてきた。
「あぁ、よろしくな! ガレウス!」
「はい! よろしくです! 誠志郎!」
ガレウスは老人の後ろからぴょこっと前に出てきて、俺に飛びついてきた。
思いの外、心を開いてくれるのが早くて助かった。
「よし、じゃあまずは俺がいた世界の遊びを教えてやる!
じゃんけんっていうんだが――」
「なるほどなるほど!」
俺とガレウスはすっかり目的も忘れて、遊びに夢中になっていた。
「……グリゼル殿、先代魔王様はとんでもない才能をお持ちの後継者を選んだのかもしれませんな」
「……どういうことだ?」
「このようなお方は近頃は滅多に見かけません。
いきなり魔王なんて赫々たる立場を与えられたら、普通は『魔王』という立場に呑まれて本来あるべき自分の姿を見失い、自惚れます。
しかし、このお方は自分よりも圧倒的に格下であるガレウスと心を通わせるためだけに、立場を大衆の面前で躊躇うことなく捨てて、ガレウスに立場を合わせたのです。
普通の者ならできませんよ、このようなこと」
「そうか、そうだな……」
「「じゃんけん、ポンッ!」」
「よし、俺の勝ちだなっ!」
「うぅ~、もう一回!」
俺とガレウスは本来の目的など忘れて、とにかく遊びに没頭した。
じゃんけんを楽しい、と感じたのはいつ以来だろうか。
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