再建1 異世界に飛ばされ魔王軍二代目総統閣下になる!
どーも、作者です。
太陽の光が燦々と大地を照らしていた。
今の時刻、高校や会社では「昼休み」と呼ばれるものだ。皆昼飯を食べて至福の時間に浸れる時間であろう。
だが、俺にそんな一般的な「昼休み」は存在しない。
「おいおい、こんなもんかよ」
高校の校舎屋上にて俺、綾瀬丸誠志郎は倒れ伏す相手に向かって問いかけていた。
「ひ、ひぃぃ! もう勘弁してくれええぇぇぇーー」
男は何かに怯えるような表情を浮かべていた。
その視線の先は俺が左手で握っているものだった。
「これが何か気になるか? これはな【万物貫く絶対なる槍】っていう俺がたった今創った武器だ」
男は絶望を感じていたのか、体ががたがたと震えていた。
「聞いたことあるか? 神話上のグングニールっていうのは――
「た、助けてくれえぇぇーーー」
男は必死に逃げるように屋上から立ち去って行った。
一人になった屋上は、どこからか涼しげな風が吹いていた。
「まったく……、あっちから仕掛けておきながら、逃げるとは。どいつもこいつも力量ぐらい見極めてから喧嘩を仕掛けろよ」
男が残していった学ランの第三ボタンを拾いながら、俺はぼっそり呟いた。
とはいえ、こんなことは俺にとって日常茶飯事だ。
見た目が悪いのか、はたまた俺の普段の行動に問題があるのか。
そんなことは本人である俺には分からないが、とにかく俺は頻繁に喧嘩を仕掛けられる。
もちろん、仕掛けられた喧嘩は正々堂々受ける。
でも、喧嘩に勝てば、また新たな雑魚が芋掘りのように続々湧いてくる。
その度に敵をぶっ倒すという恒例行事を昼休みに行っている。
先程のも、その一例だ。
「はぁ……。ため息しか出てこねぇや」
この世はなんてつまらないものなんだ。
そうつくづく思いながら、教室に戻ろうとしたその時――
白い光が周囲を包み、視界を奪う。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次第に光は弱くなっていき、目を開けられるほどにまで収まったので目を開けてみる。
すると、そこには何百人もの兵士らしき人たちがいた。
え……?
中世の騎士を彷彿とさせる騎士たちは、銀色の鉄鎧を着用していた。
まるで、映画の撮影現場のようだ。
「来られたぞ! このお方が先代魔王様の遺言にあった『二代目魔王』となられるお方だ。皆のもの敬礼せよ!」
この声に何百人もいるであろう兵士らしき者達は一斉に整列し、俺に向かって敬礼をした。
状況が飲み込めないが、とにかく俺はだだっ広い城の中らしき場所にいた。
RPGでよく見るボス部屋のような場所だ。
それにしてもどこなのだろうか、そんな疑問が頭をよぎる。
目の前には玉座があった。
本来王様が座るべきその場所には誰も座っていない。
玉座の隣には冷静な雰囲気を醸し出す碧眼の瞳に肩付近まで伸びた綺麗な白銀の髪。
魔法使いが着るような黒いローブに身を包んでいる者は、俺に対して口を開いた。
「どうぞこちらへ、魔王様」
美形なため男か女か判断がつかなかったが、今の声でようやく判断できた。
彼は美形男子だ。
リア充ですら嫉妬してしまうほどのイケメンだ。
何この人、一瞬で殺意が芽生えたぞ。
いやいや、今はそれどころではない。
「いや、俺が魔王? 何かの間違いじゃないのか? そもそも、ここはどこなんだよ」
俺は美形男子に今思っている率直な質問をぶつけてみる。
「申し訳ありません、今から説明いたします」
そう言うと、コホンと咳払いをした。
「まず、私は魔王軍軍団統括長グリゼル・カッシュバーンと申します。
以後、よろしくお願いいたします。
次にここはアフィルヴェレンと呼ばれる世界で御座います。
魔王様が元々おられた世界とは全く異なる世界、即ち異世界です。 そして、綾瀬丸誠志郎様。貴方は魔王軍二代目総統閣下となられるお方です」
「……は?」
意味不明な単語の羅列。
そして、俺が二代目魔王とかいう肩書きになっていることに更に状況が複雑化していく。
とりあえず、ここがアフィルヴェレンっていう異世界で俺がさっきまでいたはずの世界とは違うということは理解できた。
だが、なぜ俺が魔王軍二代目総統閣下なのか。
俺、何かしましたっけ……。
単純な疑問を思い、記憶の糸を辿ってみる。
「あ、あのさぁ……何で俺が二代目魔王とかになってんの?
俺は一般人の子供だぜ? 確かに異能力を持ってるけど魔王になる要素なんて……」
「それが正直言って、私達にもよく分からないのです。
しかし、先代魔王様の遺言には『人間の綾瀬丸誠志郎、こいつが俺がいなくなった跡を継ぐから。まぁよろしく』と書いてありましたので」
何だそのやる気のない遺言は……。
本当にこの軍を統括していた魔王なのかを疑うレベルの軽さだな。
「おい、ふざけんな先代魔王とかいう奴! どこにいるんだよ、連れてこい!」
俺はちょっと怒り気味に問いかけてみるが、皆が俯いて静寂な雰囲気になってしまう。
「……先代魔王様は百年前の戦争にて亡くなられました……」
しばしの沈黙を破ったのはグリゼルだった。
しかし、その口調は実に重いもので言葉から心底先代魔王を尊敬していたことが窺えた。
「わ、悪い。別に悪気があった訳じゃないんだ」
「いえいえ、お気になさらないでください。
先代魔王様をお守りできなかったのは我々の責任ですから……」
この言葉に、空気は更に重々しいものに成り替わる。
思わず、唾をゴクッと飲み込む。
兵士達の中には悲しみに堪えきれず大粒の涙が頬を伝っている者も多くいた。
「……我々魔王軍は以前アフィルヴェレンを支配していました。
魔王軍の名に恥じぬ強さでしたが、百年前に帝星軍に破れたことが機となり、我々魔王軍は衰退の道を辿り現在に至ります。それで――
「俺に立て直してほしい、と?」
「そういうことです」
ようやくバカな俺でも話が理解できた。
だが、そんな話を簡単に引き受けるわけがない。
「だけど、俺は別世界の人間だから――
「その点はご安心ください! 我々、魔王軍の者が全力で魔王様の手助けをいたします!」
あと一押しで落ちると思ったのか、グリゼルは俺のもとまで駆け寄ってきて俺の手を両手で包み込み声量をグッと上げて喋ってきた。
新手のキャッチセールスのように。
「いや、でもねぇ……?」
おそらく不満があるであろう兵士たちに助けの視線を送ってみる。
俺としては、
「ふざけんな! こんな奴に魔王軍を任せられるか!」
「そうだそうだ!」
「ほら見ろ、俺には魔王なんて無理だ」
「ぐぬぬぬぬ……」
というのが理想形だ。
しかし、結果は大きく異なった。
「「お願いします!!」」
「えぇ……」
声はピタリと揃って、俺に送られた。
こいつらには迷いがないのだろうか、誰一人遅れることなく声を揃えることができたのは称賛に値することだ。
「皆の衆もこう言っておられますし、ね?」
グリゼルは目をグッと見開いて、見つめてきた。
やめてくれ、何か狂気じみた人間に見える。
「……分かった分かった。できることはやってみるけど、俺の好きにさせてもらうからな?」
そう言い、俺は空席になっていた玉座に鎮座した。
「はい! もちろんです! 皆のもの、よく聞けっ!
今、この瞬間、
魔王軍二代目総統閣下が誕生したッ!!」
グリゼルは高らかに城内の兵士たちに告げる。
その声は城内に共鳴するように響き渡った。
それに賛成してくれたのか兵士たちも大声で呼応する。
というわけで、よく分からないまま俺は二代目魔王になりました。
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