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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
来たる異世界人
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バダックたちとの模擬戦

 バダックに遅れて訓練場に着くと、そこにはそれぞれ武装した異世界人たちがいた。俺が来たことがそんなに意外だったのか、唖然としている者も多くいたが反応するなのも面倒だったので放置しておいた。


「さて、それじゃあお待ちかねの戦闘訓練に移るとしようじゃねぇか。とはいえ、今日は初日だしな。まずは見学だ。武器の振り方とかはまた明日からだな」


「俺は俺の用事があるから、そちらに投げていたが……どうするつもりなんだ?バダック」


「最初は俺たち『青嵐の牙』とお前さんの戦いだな。何の事情があるのかは知らねぇが、英雄の戦闘なんて早々見れないんだからよ。いっちょ、見せてやってくれよ」


「断る……と、言いたいところだが。俺も俺なりに仕事を受けた責任がある。乗ってやろうじゃないか」


「おっ、太っ腹じゃねえか!なら「ただし」……なんだよ。何かあんのか?」


「俺は手加減が苦手でな。――――大怪我したとしても怒るなよ?」


 別に挑発したつもりは欠片もない。ただ、俺は俺としてありのままに事実を語っただけだ。しかし、バダックたちはそうは思わなかったらしい。目に見えて闘志が強くなっていた。今のバダックたちの相手をするのは中々に骨が折れそうだ。


 上着代わりに使っているローブとジャケットを脱ぎ、カチアに預けた。インナーとズボンだけの状態になり、腰に差してある剣を引き抜いた。その際、何やら異世界組から視線を感じたんだが、何だったんだろうか?

 引き抜いた剣は最早、最初の頃とは別物になっている。黒い刀身に鍔には黄金の宝玉が埋めこまれていた。俺の魔力と黄金の炎を受け止め続けた事で起きた変化だ。最早、伝承における聖剣や魔剣にも劣らない逸品となっている。少なくとも、普通の剣とは一線を介した物となっている事に疑いはないだろう。


「さて、それじゃあ……始めようか?カチア、合図を頼む」


「はい、かしこまりました。それではいざ尋常に……始め!」


 カチアの合図が響いた瞬間、俺たちは動いた――――なんて事はない。流石にまずは相手の動きの探りあいだ。少なくとも、俺はバダックたちの動きを知らない。役割程度しか分からないのが実状だ。


 だからこそ、動きがあるとすればそれは――――この近郊が破られた時だろう。


「……行くぞ!」


 バダックの掛け声とほぼ同時に刻印の力を解放する。と言っても、全開ではない。流石に異世界組への配慮は必要だ。何せ、彼らはまだまだ弱い部類の人間なのだから。俺が全開の力で動けば、その余波で死ぬ可能性だって少なからず存在する。


「ガイアウォール!」


 ディルクが使ったのは壁役(タウント)の基本スキル、ガイアウォール。その効果は要するに視線の集中にある。つまり、相手の視線を自分に釘付けにさせること。パーティーの戦闘では必ずと言っても良いほど必要となる物だ。


 少し話は変わるが、人間が他の種族と今までどうやって対抗してきたかという話をしよう。人間はあらゆる面で平均的な種族だ。


 獣人族のように突出した身体能力がある訳じゃない。

 森人族のように突出した魔力量を有し、精霊と対話する力がある訳でもない。

 鉱人族のように超一級とも言える道具を作れる訳でもない。


 そんな俺たち(ニンゲン)が、どうやって他の種族に負けずに生きてこられたのか?それは職業とそれに付随するスキルの存在があったからだ。職業の存在は人間という種族に、他の種族に負けないだけの力を与えている。

 まぁ、世の中にはなぜこんな職業が?と首を傾げたくなるような職業も存在するらしいが、此処では割愛しよう。重要なことは、職業とスキルの存在が人間にとってとても大きな武器であるという事実だけだ。


「邪魔だ」


「グゥッ!?」


 とはいえ、この程度の壁なら砕くだけだ。決して弱い訳ではない。寧ろ、基本スキルにしては硬い方なのではないだろうか?しかし、俺の攻撃を防ぐには少々役不足だ。

 干渉を力づくで砕き、他の面子に視線を向ける。するとイリーナとバダックが剣の間合いにいた。ルーカスの姿は見えず、ディアナはディルクの治療をしていた。基本的な動きであり、こちらとしては非常に嫌らしい動きだ。


「オラァッ!」


「ハッ!」


 身軽な分イリーナの動きは早く、剣の間合いはすぐに拳の間合いに変化した。バダックはイリーナの隙をカバーするように剣を振るった。そのタイミングは絶妙で、どちらかを対処すればどちらかにやられる。そういう攻撃だった。普通なら、そこで終わりだっただろう。


 まぁ、俺は自分が普通じゃない自覚があるんだが。二人をまるごと薙ぎ払うつもりで剣から放出させた魔力を叩き込んだ。威力はそれほどでもないが、衝撃はかなり強い。少なくとも、後退を余儀なくさせられる程度には。

 とはいえ、そこで終わらせるつもりは欠片もない。すぐさま距離を積め、追撃を行おうと一歩目を踏み出そうとした━━瞬間に後方に退避した。


 それと同時に踏み込もうとした場所に複数の矢が叩き込まれた。


「……チッ。そう上手くはいかないか」


「流石に分かるさ。もう少し意思を消した方が良いな」


 先ほど俺が踏み込もうとした場所にはほんの少しだけ窪みが出来ていた。日常的には本当に些細なもので、何だったら上を歩いても気付かない可能性すらあっただろう。

 しかし、戦闘中はそういう些細な感覚のズレというものが本当に厄介になってくる。何せ気を張っている状態なのだ。ほんの数センチ程でも地面のコンディションが異なれば、それだけで大きな違和感を生み出しかねないのだ。一瞬が重要な戦闘中において、そういう感覚の差異という物は馬鹿にならない効果を生む。


「まったく……少しは手加減してほしいもんだな!」


「だからさっき言っただろう?俺は手加減が苦手だ、とな」


 相手の攻撃を紙一重で回避しながら剣を振るう。バダックは単体では決して強くはない。いや、強いのだろうが、俺の領域には遠く及ばない。バダックに単独で挑まれたとしても、俺は欠片も怖いとは思わないだろう。

 しかし、それもその筈だ。バダックは集団戦闘においてその才覚を発揮する。前衛と後衛の役割を把握し、相手がどう動くのかを予想する。それはつまり、戦場を俯瞰する能力だ。一人称ではなく、三人称で戦場を観察することができる。それは非常に強力な力だ。


 おそらく、バダックはその能力の稀少さを認識してはいないのだろう。個人で強い存在など怖くはない。

それ以上の力で押さえつければ良いだけの話だからだ。しかし、集団による力というのは中々に厄介なものなのだ。何せ、一人で戦っている訳ではない。

 人一人の心を折るのはそれほど難しくない。純粋に力の差というものを叩き込んでやれば良い。だが、本当に屈強な戦士の集団はそうはいかない。隣の戦友が折れない限り、連中は折れない。その精神的支柱が強力且つ強大な連中は本当に戦いにくいものなのだ。


「まぁ、そんな事は関係ないがな」


 戦いずらかろうがなんだろうが、勝てば同じことだ。そして、俺が戦う戦場で敗北は許されない。勝たなければならない。どれだけ力の差があろうと、どれだけ絶望的な状況でも、どれだけ悲しみや苦しみがあろうとも、必ずや俺は勝利を手にしなければならない。さもなければ、俺には存在する意味がない(・・・・・・・・・)


 だからこそ、勝利するのだ。勝てないなら勝つための手段を絞り出す。勝つために持ちうる手札の総てを使い尽くす。恥も外聞もなく、ただひたすらに勝利のために力の限りを尽くす。今の手札で足りないなら、新たな手札を作り出すまでの事だ。


バダックside

 ヴィントとの戦闘が始まって幾らか過ぎた後、ヴィントの気配が急に変化した。顔面に刻まれている刻印が一瞬、鼓動のように動いたように感じられた次の瞬間、黒色の魔力がヴィントの腕や足を覆うように現れた。


「おいおい、なんだよそりゃあ……」


「悪いな、バダック。次の段階(ネクスト・ステージ)だ。死に物狂いで抗えよ。さもなきゃ……死んじまうぞ?」


 ヴィントの言葉通り、それからのヴィントの動きは激変した。魔力による防御手段を得たことによって、回避か刀身による防御以外の選択肢が増えた。それに加えて、ヴィントは防御が割と上手い。玄人ばりの防御を可能とし、それを上手く攻撃にも運用できていた。


 土壇場による成長。それは英雄と呼ばれる人種に顕著に備わっている能力だ。基本的に敗北を許されない彼らにとっては、勝利のために様々な能力を飛躍的に上昇させるというのはない話ではないらしい。

 俺も噂話程度しか知らないが、その話は本当なんだと素直に思った。それだけヴィントの成長速度は尋常ではない物だった。


 ヴィントから発せられる気配、そして俺にはよく分からないが魔力が高まっていた。本能的に勝てないと思わせられるレベルで、ヴィントの力は高まっていた。きっとそこに悪気はなかったし、悪意なんてもんは欠片もなかったんだろう。


 ヴィントは次の瞬間に自分の顔面を殴った。その行動と共にヴィントの力の上昇は止まり、ヴィントは殴った衝撃で片頬に痣を作り唇から血を流していた。ヴィントはそれを気にする事なく拭い、審判役のお嬢ちゃんに視線を向けた。


「カチア、もう良い。これ以上は続ける必要はない。俺たちの目的は互いの優劣を決定する事ではないんだからな」


「おいおい、良いのか?俺たちはまだ戦えるぜ?」


 嘘だ。いや、完全に嘘という訳ではない。戦う事自体はきっとできただろう。しかし、ヴィントに勝てるようなヴィジョンは欠片も浮かんでこなかった。それを知ってか知らずか、ヴィントは微笑を浮かべてその場を離れるのだった。

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