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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
来たる異世界人
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魔導の種類解説

お久しぶりです!長い間お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした!

 翌日、再び授業を行うために教室を訪れたヴィントは人数が減っているのを確認した。そう言ったのはヴィント自身であり、それに関して思う所はない。ただやはりか、と思っただけに過ぎない。それから数日の間、一通りの歴史を説明したヴィントは次のステップに進む事にした。


「それでは授業の続きをするとしよう。先日で魔導の歴史についての説明は終わったんだったな。それではこれから魔導の体系の話をするとしよう」


 魔導の種類は大別して三つ存在する。

 それが詠唱系術式(スペル・グラフ)紋章系術式(エンブレム・グラフ)、そして魔石術式(ストーン・グラフ)。この三つが主だった魔導術式の種類だ。


 この上記二つの違いを端的に表現すると、呪文による術式か紋様による術式かという違いである。もっと分かりやすく言えば、音声を必要とするか否かという話である。


 詠唱系術式の本質は魔力と音声を介する事で世界の状態を歪める事。つまり、本来そこに存在しない筈の物を音声によって自分に誤認させる。誤認させた現実を魔力を介する事で現実化させ、現実化させた魔力ひいては魔導によって世界に影響を及ぼすという物。

 メリットは音声によって構築することが出来るので、即興で行う事が出来る。つまり、事前に準備する事もなくその場で行う事が出来る。その場その場で対応を変える事が出来る多様性を強みとしている。

 デメリットは効果時間の少なさ。火を飛ばすとか、水を出すとか簡単な事ならばこちらの方が簡単だが、結界を張るとか重傷を回復させるなど長い時間かかる物には向かない、という事だ。


 紋章系術式の本質は紋章に魔力を流し込む事で世界の認識を変換させる事。魔力というのはそれ自体が一種の異物だ。異物によって構築された紋章系術式は異界に近い。つまり、魔力によって異界の法を疑似的に再現し、それを現実に適応させるという物なのである。

 メリットは長期間使用できるという点である。詠唱系とは異なり、多少の手間があるとはいえ魔力を流している間は機能は続く。結界など長期間使用する必要のある物は大体、紋章系術式が使用されている事が多い。

 デメリットは応用力のなさ。一つの用途のために術式が形成されているため、他の用途で使う事が出来ない。火を出す事を目的にした物から水を出すことは出来ないし、守る事を目的にした物で攻撃することは出来ない。


「ここまでで何か質問は?」


「普通に暮らす分には詠唱系は必要ない気がするんですが……」


「そんな事はない。コップ一杯分の水が欲しいなら詠唱系の方が早いし、何より調整しやすいとはいえ紋章系を連続して使えるほど普通の人間の魔力は多くないからな」


「そうなんですか?」


「俺や君たちのように魔力量の多い人間というのは珍しい。普通は一日にコップ五杯分とか、マッチぐらいの火力の火を少しだけ使う事が出来るとか……魔導を使うには全然足りないぐらいの魔力量しかない。最低でも火球一発分くらいは作れなくては魔導士などとは名乗れないさ」


 本音としてはそれでも足りないくらいだ。しかし、魔導士となるための最低限必要な魔力量がそう言われている以上、それで納得する他ない。魔力量を増やすには世代を経るか、或いは世代回帰する事で千年前レベルの魔力を身に着けるか……或いは内臓魔力の多いモノを食べるか。

 要するに、時間をかけるか普通から逸脱するか。その二択でしか魔力量を増やす術はない、という事である。因みに世代回帰の話は昔の方が人々の潜在魔力の量が多かったという話が影響している。


 千年前というのは、丁度『最後の勇者伝説』の舞台であった時代――――魔族とそれ以外の種族による頂上決戦たる神話大戦が行われていた時代だ。世界に今よりも魔力が大量に存在していたため、その時代に生きていた人々は魔力を多く持っていたのではないかと言われている。


「とはいえ、だ。魔力だけが魔導士に必要な物ではない。必要なのはその魔力をどう効率的に運用できるかだ。どれだけ魔力が多かろうと、それを無駄に消費しているようでは一流の魔導士とは言えない。魔導という道具を上手く使いこなしてこそ、一流と言えるんだからな」


 どんな物も使いようだ。学者気質の奴は否定するかもしれないが、少なくとも俺にとっては魔導とは道具(ツール)に過ぎない。それを使いこなすどころか、振り回されているようじゃ二流どころか三流が良いところだろう。

 俺にとっては魔導などその程度の物だ。生きていく上で使える道具。婆さんも俺もこの力にはそれほど重きを置いてはいない。だからこそ、俺も必要なくなればこの道具を捨てる事を躊躇わないのだろう。そう思えてしまった。


「……なんにせよ、だ。基礎を修めなければ話にならん。この授業はあくまでも基礎的な内容しか教えないが、教えた基礎を軽んじないように注意する事だ。総ては基礎に立ち返る物なんだからな」


 思考を切り替え、次の内容に進む事にした。


「さて、魔石術式の話をするとしよう。と言っても、これは単純だ。一定以上の魔力が含有している石の事を魔石と呼び、その魔石に刻印術式を刻んで使用する……分かりやすく言えば魔導具だな」


「それは魔導術式と呼ばないのでは……?」


「通常ならそうだな。しかし、魔石内の魔力は常に流動している。それを術式という形で構築する、というのは他の術式とは違う難しさだ。それ故に魔石術式は誕生した、という訳だ」


 それだけは俺もまだお目にかかった事はない。いや、魔石に属性付けした物は見た事がある。しかし、術式と呼べるほどに難解な物を付与された物は見た事がない。一度は見てみたいが、アレはとんでもなく金がかかるので見る事はないだろう。


「これの主なメリットは魔力の消費量だな。詠唱系術式は手軽さ故に魔力の消費量が些か多いし、紋章系術式は詠唱系よりマシとはいえど魔力を消費する。しかし、魔石に宿る魔力を利用しているからか、こちらの魔力消費量はほぼゼロと言って良い。精々起動する時ぐらいだろうな」


「お手軽なんですね」


「そういう事だな。さて、こうして講義しているだけもつまらないだろう。少しは魔導に触れる機会を作るとしようじゃないか……とはいえ、軽くだがな」


 すると、教室にいる連中の眼が輝いた。どうもこの辺りはまだまだお子様と言ったところだろう。魔導はそこまで仰々しい物ではないんだがな。そう思いながら、冊子を配っていく。その中には初等部で習うようなごくごく簡単な術式が羅列されていた。


「これは簡単な見本だな。初めはこれに書いてある途中に練習すると良い。ここに書いてある物が出来るようになったら、俺のところに来い。分からない場合も来い。単純な術式しか書いていないとはいえ、人に危害が及ぶ可能性があるからな」


「分かりました。それで、何処で練習すれば良いんでしょうか?」


「ふむ……とりあえず今日は紋章系の結界術式の練習でもするか。アレならまだ誰にも危害が及ぶことはないだろうし、何より君たちには必要だろうしな」


 魔力を指先に集中させ、術式を描いていく。必要な要素は『囲い』と『守護』。それを円陣の中で組み上げる。魔導人が完成し、その形を変える。俺の身体を囲うように四角の形状の壁が現れた。手首を捻り、その壁を叩いた。すると、何もないはずの空中から音がした。


「おぉ……スゲェ、本当に魔法じゃなかった魔導なんだな」


「とまぁ、こんな風にしていく訳だが。君たちはまだここまではいかない。ひとまずは術式を覚えてもらう事から始めてもらう。それに……」


 拳に魔力を集中して振り抜く。すると、ガラスが割れるように結界が粉々に砕け散った。砕け散った欠片は空中に溶けるように消えていった。


「魔力によって作られた物はより強大な魔力に敗れる。これは単純な耐久力の差だが、それが適応されない物もある。それが、詰まれた年月による神秘の差だ」


「神秘の差?」


「そう。一の質のある魔力を十集めるのと十の質のある魔力を一集めるのは同等なんだ。つまり、より長い年月を生きた魔力はそれだけ強大な力を持っている、という事だ。赤子の持つ一の魔力と老人の持つ一の魔力は違う。積み込まれた神秘が違うからだ」


 積みこまれた魔力の歴史こそが神秘の力。神秘の大きい魔力は神秘の小さい魔力よりも強い。神秘の小さい魔力は神秘の大きい魔力よりも数を集めるしかない。だからこそ、魔導士の歴史のある家の子供はそれ以外の家の子供よりもそれだけ強大な魔力を有している。


「覆す方法がない訳ではないが……まぁ、関係のない話だからな。君たちはそこまで気にする事もないだろう」


「そんな風に言われると気になるんですけど……」


「課題が終わったら話してやる。今は口じゃなくて手を動かせ」


 まぁ、隠すような事じゃないんだけどな。より強大な神秘を得る方法――――それは魔力含有量の多い物を食べる事だ。より強大な神秘を取り込むために、違う神秘を取り入れる。それは究極の手段だ。何故なら、それは体内に毒素を入れているに等しいからだ。


 確かに、魔力は増加するだろう。魔力に宿る神秘はさらに強大な物へと変貌していくだろう。しかし、それは結局別の歴史なのだ。器に耐えられない程の神秘を取り込めばどうなるか、想像に難くない。当然の如く崩壊するだろう。

 俺も環境的にはそうだったが、俺の場合は器の拡張に使われていたような気がする。刻印と煌焰の二つがある以上、俺は器の強化を行う必要があった。そのために必要だったとはいえ、割と危険な橋を渡っていた物だと今なら思える。


 魔力含有量の多い魔物の肉は高値で取り引きされる。それは神秘の増加以外にも理由がある。それは単純に味が他の食材に比べて美味いという話だ。神秘云々は関係なく、単純に美味なる物を求める美食家が多いらしい。

 金を持っているところに集まるそれら。それを食べている連中の所には優秀な魔導士が生まれやすい。かなり微妙な匙加減ではあるが、それでも人々にとってはそんな事はどうでも良いんだろう。リスクを考えなければ、安い買い物だろうからな。


 その後、俺はそれぞれの術式を見た上でアドバイスをした。次の授業までに最低でも一つは術式を覚えてくるように指示を出し、そこで授業は終わった。流石に複数の授業を持つと色々と準備をしなくてはならないので大変だなと思った。


「アルタール先生、少しよろしいでしょうか?」


「ん……?君は確か、武藤光毅くん……だったか?」


「はい。英雄と呼ばれる先生に一つ、頼み事があるのですがよろしいでしょうか?」


「……とりあえず話だけは聴こう。そちらの時間は大丈夫なのか?」


「はい。この後に授業は控えていませんから」


「そうか……どうせロクな願いではないだろうし、俺としては聞きたくないんだが。しかし、君が生徒として接するというのなら、俺も教師として接しよう」


「……ありがとうございます」


 俺と武藤くんは研究室に赴き、茶を飲んだ。その場で彼は俺に向かってこう言った。


「先生はこの国の英雄とお聞きしています。それを踏まえた上でお願いさせていただきたいんです。私たちの後見人になっていただけませんか?」


「断る。用件がそれだけならさっさと帰れ」


 どんな願いかと思えば下らない。態々俺に救いを求めるなどと馬鹿馬鹿しいにも程がある。教師としてではなく、英雄として乞われた事にハイハイと乗る訳がない。何を考えているんだ、こいつは。


「なっ……ま、待ってください!」


「待たん。俺はそのような些事にかかずらっている暇はない。そもそも君たちの後見人は別にいるだろう。それも国という巨大な物をバックにしている連中がな。何故、俺を頼る。何故、自分でどうにかしようとしない」


「あなたは、あなたは英雄なんだろう?皆の希望となる存在なんだろう?俺たちは被害者なんだから、あんたたちに頼って何が悪い「黙れ」……!?」


「君たちが被害者?ああ、確かにそれはその通りだ。しかしな、俺は君たちの召喚に関しては反対した。こうして授業を受け持っているだけでも、俺は既に義理を果たしている。それに英雄は希望だから、頼るのがあたりまえだって?……甘えるのも程々にしろよ」


「……………ッ」


「……確かに君たちの境遇は同情に値する。しかし、それは君たちが努力を放棄していい理由ではない。戦う事から目を逸らして良い訳ではない。君たちはいつの日か、戦力として扱われるだろう。だからこそ、この国の人間は君たちに丁寧な姿勢を取るんだ。

 戦い方を教わりたいなら、別の人間を頼れ。俺が君たちの力になる事はない。それに……戦い方など自分自身の手で見いだせ」


「俺は……俺には皆を守る義務があるんだ!なりふりなんて構っていられないんです!」


「それこそ知るものか。君がなりふり構っていられない事と俺が協力しなくてはならない事は合致しない。他の人間の無事を願うなら、君がすべき事は別にあるんじゃないのか?」


「俺は……」


「……君の境遇を俺が語る事は赦されない。いかなる言葉を尽くそうと、俺が君たちを巻き込んだ世界の住人である事に違いはないからだ。だが、俺が君たちの力になる事はない。それだけは心に命じておけ」


「……はい。分かりました」


 そう言うと、武藤くんは出て行った。

 辛い事を言ったかもしれないが、それが事実なのだ。俺には彼らを保護する事などできない。何故なら、彼らは国に保護される存在だ。国に保護されている存在を英雄が保護しようとするなど意味不明にも程があるだろう。

 いや、それが他国の英雄であればまだマシだ。自国の英雄が国から保護権を分捕ろうなどと意味不明にも程がある。だからこそ、彼ら自身は彼らで守る他ないのだ。


 英雄だろうと何だろうと、他人に自分の身を任せて良い事など欠片もないのだから。

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