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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
始まりの龍森
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薬草集めと狩り

 ゾーネさんが家に来てから数日、精霊も交えて共同生活を行った結果として分かった事がある。


「ゾーネさんって、本当に家事の類ができないんですね……」


「うぅ……申し訳ないです」


 洗濯や炊事などを初めとした総ての家事でゾーネさんは失敗していた。まぁ、端からそこまで期待していないから別に構わないのだが。

 結局、俺の仕事が増えた────俺としては戻ったと言ったところ────だけだが、別に気にはしない。今はそんなに急ぐ用事もないし、それほど負担にはなっていない。相手も居候として必要以上の我がままを言ったりしないのも大きいようだが。


 ゾーネさんには一先ず婆さんが使っていた服を使って貰っている。少し大きいようだが、着れない訳ではないらしい。サイズ調整とかしなくて良いから、俺としては楽でありがたい。

 だが、そろそろ食糧と研究用の薬草が切れそうになっていた。やはり人数が増えると面倒な事が多い。生きるためには仕方のない事ではあるんだが、それでもやるしかないのだ。


「どこか行くんですか?」


「森にちょっと薬草を取りに。ついでに狩りもしてくるので、戻るのは少し遅くなりますけど気にしないでください」


「……薬草が必要なんですか?」


「ええ。今朝確認したら催促の瓶まで置いてありましたし、そうでなくても研究用の分を切らしてましたから」


「誰が催促するんですか?この場所まで来れる人なんてそういないと思いますけど……」


「婆さんがつながりを持っていた薬屋ですよ。向こうが注文した薬を用意して魔導陣で送る代わりに、向こうは薬代に相当する食糧を用意する契約なんですよ」


「……つまり、長距離の転移術式という事ですか!?」


「正確に言うと、長距離の輸送型魔導術式です。設定された重量以上の物は送れません。精々、回復薬の入った瓶5ダース位が限界ですね」


 それ以上は魔導陣の方が持たない。魔力だまりの魔力を利用してもそれが限度である以上、どうやっても人1人を送ることすらできない。送れたとしても、1桁代の子供を1人送れるぐらいだ。パフォーマンスとしては悪すぎる。


「そうなんですか……あの、私もついて行っても良いでしょうか?」


「え?ゾーネさんが態々?……何のためにですか?正直、行く理由に心当たりがないんですけど」


 正直な話、そうとしか言いようがない。研究用に送る用の薬草を取りに行く必要性など皆無だ。はっきり言って婆さんの研究範囲が広すぎるから研究用の薬草が必要になるのだ。この薬はぶっちゃけ魔導学じゃなくて、薬学或いは錬金術の分野なのだから。

 魔導の勉強をするなら、薬草を集める必要なんてない。ゾーネさんがついて来るなんて言うのは、はっきり言えば彼女の時間を無駄にするだけだ。俺がこう言うのもなんだが、そんな事をさせるのは心苦しい。

 この家の書物を読みながら勉強しているだけで、魔導の勉強としては十分すぎる。薬学の勉強など、この森のように材料が豊富でもなければ婆さんもやらなかっただろう。俺も婆さんから言われてなかったらきっとやらなかっただろうな。場所が分かっていても、取りに行くのはかなり面倒だから。


「学べる事は学びたいと思うんです。総ての出会いには意味がある。だからこそ、私はその時その時に可能性があるのなら出来る限り接していきたいんです。時間が有限であるからこそ、より多くの事を知っていきたいと思っています」


「……なるほど。まぁ、それでしたらついて来ても良いですよ。あんまり、というか全然楽しくはないでしょうけど」


「ありがとうございます!」


 まったく、変わっていると言わざるを得ない。短い人生だと分かっているなら、自分のしたい勉強だけしておけば良いのに。そう思わずにはいられない。ただでさえ、生きている時間が有限であることに変わりはないのだから。

 でも、どんな知識であろうとも貪欲に取り込もうとする、その姿勢は良いんじゃないかと思う。真似したいかと尋ねられると返答に困るんだが。そこまで積極的な性格してないしな、俺。基本的にそこにある物で納得する性格だからな。


「それじゃあ、出る前にこれ飲んでおいてくださいね」


「……なんですか、これ?」


 ゾーネさんに渡したのはただの水ととある薬だ。外に出るのに俺ならまだしも、この森で活動するのがほぼ初めてと言っても良いゾーネさんは必ず飲まなきゃならない。俺も最初の方は婆さんに飲まされた。凄まじく苦い上に不味い代わりに、その効能は強力な物だ。


「まぁ、飲んで下さいよ。でないと、連れていけませんよ?」


「……分かりました」


 覚悟を決めたかのように真剣な表情になっていた。その表情はまるで、決死の覚悟を決めた人物のようだった。まぁ、薬がやたらと毒々しい紫色をしているからなんだろうが。調合した本人としても飲みたくない一品だ。だからと言って、薬がその外見に反しているかと訊かれると首を傾げる。


「うっ……マズすぎませんか?これ……」


「良薬は口に苦い物です。これで準備は出来ましたし、行くとしましょうか」


 薬草を積む籠を持つと、家を出た。しばらく歩いて行くと、多くの草花が咲き誇る丘に着いた。ここには多くの薬草が生えており、送る用の薬の大部分はここで採取される。そして積もうかと思った瞬間、ゾーネさんに肩を叩かれた。


「あの、ヴィントさん。ここにあるのって全部薬草なんですか?」


「全部とは言いませんけど、ほとんどはそうですね。まぁ、初めて見ると圧倒されますよね。俺も最初はそうだったし……っと、危ない危ない。見落とすところだった」


「それは?」


「これはルナリヒト。万能薬の材料の一つですね。これ単体でも大体の傷に効くんですよ。切り傷、打ち身、火傷等々ね」


「万能薬って……あのどんな傷も癒す、っていう薬ですか?死に瀕した人を救ったって言う?」


「その話は知りませんけど……そうですね。でも、あんなのは要するに回復薬の延長線上にある薬ですよ。ただ、回復薬と比べて常軌を逸する回復力を持っているだけですよ。あ、そうだ。耳を塞いでもらって良いですか。後、出来れば眼も瞑っていてくれば良いんですけど」


「えっと、なんでですか?」


「割とショッキングな絵が繰り広げられるので。見て倒れられても困りますから。まぁ、凄い煩くなるんで必然的に耳を塞ぐと思いますけどね」


「はぁ……」


 ゾーネさんは不承不承といった雰囲気で耳を塞ぎ、明後日の方向を向いた。それを確認すると、俺は足元にあった植物を掴んだ。そして一度深呼吸すると、一息で引き抜いた。ぶちぶちという嫌な音を響かせながら現れたのは――――人面植物と言われるマンドラゴラだ。

 マンドラゴラは無理矢理引き抜かれると、驚いて悲鳴を上げる。その悲鳴を聞くと、大概の生物は耐え切れずに死んでしまう。昔は犬に引かせて手に入れるという手法を取っていたらしい。だが、俺はそんな事はしない。そもそもこの土地に犬なんていないしな。


 では、どうするか?答えは――――引き抜いた瞬間にマンドラゴラの顔面を殴る。そうする事で、マンドラゴラの意識を強制的に飛ばす。飛び出したら悲鳴を上げるなら、悲鳴を上げる前に意識を飛ばせばいい。或いは悲鳴を上げる前に真っ二つにする。


「ふぅ……」


「……もう良いですか?」


「良いですよ。これも用意しなくちゃいけないの忘れてました。鳴かれる前に対処できて良かった。運が良かったですね、今日は」


「えっと……それはまさか」


「マンドラゴラですよ。こいつを使って一級品の鎮痛薬を作るんです。いろんな所が買って行くらしいですよ?なにせ一瞬で痛覚が麻痺しますから」


 物によってはそのまま動く事も出来るぐらいだとか。まぁ、これから作った鎮痛薬なんて飲まされるような奴はよくて重傷、悪くて致命傷だろうけど。死ぬしかない奴に与えるっていうのも豪勢な話だよな。俺ならそうなる前に魔導で何とかするか、無視するがな。


「な、なななななんて物を無造作に掘り起こしてるんですか!一歩間違えたら私たち死んじゃうじゃないですか!」


「だから耳を塞いでください、って言ったでしょう?」


「そういう問題じゃ……あ、いえ、もう良いです。ヴィントさんがそういう人だって分かってましたから。ええ、本当に」


「……まぁ、良いですけど。次行きますよ」


「あ、ちょっと待ってください!」


 結局、その場で幾つか薬草を集め終えるとすぐさま家に戻る事にした。ひとまず、このマンドラゴラに止めを刺しておかないと気楽に狩りも出来ないからな。そう思っていると、目の前にやたらと角のでかい鹿が現れた。


「ふむ、あれで良いか。ゾーネさん、これ持っていてください。あと離れておいてください」


「え、あ、はい!」


 ゾーネさんが籠を受け取り、その場を離れた瞬間に突っ込んできた。とりあえず横に飛びのいて回避する。その突進は意図も容易く木をへし折るかに見えたが、そんな事はなくただ揺れただけだった。俺も鹿もその事に驚く事はなかったが、ゾーネさんは驚いていた。

 俺はすぐさま鹿に突っ込み、巨大な角の右側を掴む。それと同時に肘と膝で挟み込むように叩きつける。逃げ場の無くなった衝撃が鹿の首の骨を蹂躙し――――へし折った。絶命した鹿を下から抱き上げ、そっと地面に下ろした。


「ふぅ……まずは邪魔なこの角を切り離しておくか。運ぶ時に邪魔にしかならないからな」


「……ヴィントさん、大丈夫ですか?」


「大丈夫ですよ。ゾーネさんこそ、怪我なんてしてませんよね?」


「はい、大丈夫です。……この森の木って本当に丈夫なんですね。まさかさっきの突進に耐えるとは思いませんでした」


「この森は基本的に魔力を宿していますからね。普通の木に見えますけど、この土地の魔力をふんだんに栄養としています。だから、見た目に反して硬いんですよね。樹齢としては十年くらいですけど、数十年分ぐらいの硬さになっていると思いますよ……よし、取れた」


 角を切り離した俺は鹿を抱えた。これだけで数日分の食料になるだろう。薬草の準備が整ったらさっさとばらそう。そう思っていると、驚愕の表情を浮かべながらゾーネさんが木々を見ていた。一体何をそんなに驚いているんだろうか?


「……どうかしました?」


「これ、そんな凄いんですか?」


「魔力だまりの土地はどこでもそんな物だ、って婆さんは言ってましたよ。他の場所の事はよく知りませんけど、そうなんじゃないですか?それよりも早く戻りましょう。目的は済んだんですから」


「わ、分かりました」


 う~ん、なんかすごい驚いてるみたいだけど、そんなに凄い事なのかな?そう思ってしまう俺がいたのだった。この土地で育った俺にとっては、それが常識だ。ここ以外の場所ではどんな風になっているのかはよく分からない。それにしても……そんなに驚く事なんだろうか?

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