表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
試練の狼森
46/81

移動開始

 集団馬車が集まっている場所には、冒険者たちが既に集まっていた。生徒たちも少しはいるようだが、殆どはいない。俺は冒険者用の馬車にでも乗ろうかと考えていると、教師の一人が近づいてきた。正直、名前を覚えていないので誰かは知らないが。


「これはこれはアルタール先生。今日は教師として参加ですか?それとも冒険者として参加ですか?」


「……一応、教師としてですが?」


「そうなのですか?学園長からは何も聞いていないのですが……」


「……………………」


「では、色々と準備がありますので。これにて失礼」


 聞いていないと言いながら、口の端が若干上を向いていた辺り、嫌がらせだろう。って言うか、言いに来ただけか。くだらない事をするもんだ。まぁ、この分だと俺の乗る馬車はないと言いたいんだろう。さて、どうしたものか……。


「ん?どうしたんだ、ヴィント」


「ディルか……しょうもない嫌がらせを受けたところだよ。聞きたいんだが、荷車か馬車を売ってる店ってあるか?」


「……?よく分からないけど、あそこがそうだよ。でも、馬もないのに馬車を買ってどうするんだい?」


「魔導士には魔導士なりのやり方があるものさ」


 既に開いている店に入り、小型の馬車を買い取った。無駄な出費だとは思うが、懐事情としてはそこまで痛くはない。まぁ、後で学園長に請求するが、それは置いておくとして。地面に手を当て、魔法を起動させる。すると、地面から馬の形をしたゴーレムが現れた。


「ほぅ、ゴーレム馬車か。こんな簡単にゴーレムを生み出すなんて凄いね」


「ディルにディアナか。そっちの準備は良いのか?」


「私たちは用意しておいた荷物を馬車に詰め込むだけですから。依頼主とはバダックたちが話し合っています。……それにしても、何故ヴィントさんだけ馬車を個別に用意しているんですか?」


「そりゃあ、俺の分はないからですよ。まぁ、端から俺の事を気に入らないと思っていた連中だし、当然といえば当然の対応ではあるが。思い通りに動くのも気に入らないし、勝手にするだけさ」


 素材変換は魔法の中でも割と基本的な領分だ。何かを得るには何かを犠牲にする必要がある。かくいう俺も、婆さんにはまず素材変換から叩き込まれた。そうして何をどうすれば効率よく、かつ最大限に効果を発揮させる事ができるのか。自分で確認させられた。


「この石畳は正直、ゴーレムを作るにはあまり適していない。そこは自分で工夫するしかないんだけど、あの教師はどうせ知らないんだろうな。配合がどのぐらいか、どういう構成で作るのか、なんてことはね」


 さてと、荷物を馬車に積みこむと馬車置き場に置いておく。どうせ、こいつは俺の魔力を注がない限りは動かない。そういう風に魔法式を設定しているし、そうでなくてもこいつを動かせるほど魔力を精密に動かせる奴がいるとは思えない。


 こっちに来てから分かった事だが、魔導士や魔術師は魔力の使い方が荒い。どうも、日常的に魔力を精密に動かす練習をしていないらしい。生徒たちに方法を教えると、魔法の威力が上がっていた。これは、魔力の量を重視しているからだろう。


 つまり、精密性の質を犠牲にして量を優先している。先天的な物を重要視しているせいで、後天的に得られる物を蔑ろにしている。まったく、もったいないと言わざるを得ないが、それはここで話していても仕方がない事だろう。


「グレイ、悪いがここで荷物番をしていろ。突っかかって来る奴は基本的に無視していれば良い。どうせ、碌な奴ではないからな」


「うん、分かったよ。ご主人」


 グレイに任せるだけでは正直、不安な部分がある。信用していない訳ではないが、信頼している訳でもない。裏切るとは思えないが、それでも俺の言いつけを破る可能性はある。なんと言うか、若干バカの気があるからな。


 馬車に軽く守護の結界を張っておく。心配しすぎな気もするが、俺が主となる事を了承した以上は責任が生まれる。こいつが悪かった、なんて言い訳するのは外道のやる事だ。

 責任を負うのが嫌だと言うなら、軽々しく物事を決めるべきではない。決めた以上は、それに対して責任を負わなければならない。それが俺なりの流儀だ。だから、ゾーネさんの時も俺なりに責任を全うしようとした。


「それで、五人は何でこんな依頼を受けようと思ったんだ?バダックは経験もあるとか言ってたけど、何か用事でもあるのか?」


「う~ん、用という程の事じゃないんだけどね。城砦都市はモンスターが大量に発生する場所だから、おいしい依頼も多いんだ。何より、この前の魔族襲撃騒動で武器が摩耗しちゃってね。クセルさんのところに頼んでも良いんだけど、あそこは少数精鋭だから……今回はあっちに頼もうと思ったんだ」


「私とルーカスの物はそうでもないですけど、バダックとディルとイリーナの物はちょっと整備が必要なんです。あそこは少々(・・)騒がしいですけど、コツを掴めばそれなりに過ごしやすい場所なんですよ?」


少々(・・)、ねぇ……」


「ええ、少々(・・)です」


 なんとも引っかかる物があるが、これ以上突っかかってもしょうがない。どうせ、俺にはそんなに関係ない事だ。それよりは目先に待っている研究に集中しなければならない。なんせ、何が待っているのか分からない。関係ない事に気を配る余裕はない。


「そろそろ時間か……それじゃあ、失礼」


「ああ。それじゃあ、また後で」


 そうして俺が馬車に戻ってみると――――困った顔をしたグレイと、馬車に乗り込んでこちらに手を振っているゾーネさんと苦笑しているクリュセイアさんがいた。それに深いため息を吐きつつ、馬車に乗り込んで手綱を握った。


「それじゃあ……行くとするか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ