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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
試練の狼森
43/81

奴隷市場の主

「それで、今日はどんな御用でこちらにいらっしゃったんです?」


「前に俺が来た時に襲われただろう?それに関する件だ」


「あぁ、ゲルグの野郎が売ってきたあの奴隷ですか……あの奴隷が欲しくなりました?」


「いや?戦闘力のある奴隷など俺はいらんよ。そうではなく、そのゲルグという輩はどうなった?無論、ただでは済まなかったのだろう?」


「そりゃあ、もちろん。奴隷ってのは、安全第一。誰かに売るなら、処置はきちっとしておくのが当然なんでさ。それを破った奴はタダじゃすみませんよ」


「そういうところはきっちりとしているんだな」


「そりゃあ、そうですよ。信頼が重要な商売なんですから、そういう事をきっちりするのは当たり前なんですよ。特にここではね」


「ほぅ……中々優秀だな。この奴隷市場の主というのは」


「はっはっは……でしょう?兄貴はそういう事以外にもうるさいんですよ。特に仁義に関わる事はね……え?」


「うん?どうかしたか?」


「……旦那、どうして兄貴の事を知ってるんです?」


「知らん。だが、これほどの規模だ。確実に元締めがいるんだろうと思っただけだ」


 そうでなければ、ここは完全な無法地帯になる。これほどまでの規模を誇る場所が無法地帯だった場合、ここまで頻繁に人は行き来していないだろう。していたとしても、半分以上は物々しい気配を漂わせているだろう。


「……俺が喋った事はどうかご内密にお願いします!」


「そもそも誰かも知らんのだから、話すも話さんもないだろう」


「そ、それはそうなんですが……」


「いーや、もう遅いぜ。なんせこの俺が話を聞いてたんだからな」


「そ、その声は……」


 突然聞こえてきたその声に奴隷商の男がびくついていると、入口から大柄な男が入ってきた。その男を見れば、なるほど只者ではないなと納得した。その後を続くように、数人の奴隷も入ってきた。声の主は奴隷商を蹴飛ばし、俺と向き合うようにソファに座り込んだ。奴隷商を憐れには思ったが、口には出さない。目の前の大男に神経を集中させるべきだと思ったからだ。


「いよう、お初にお目にかかるな。俺はこの奴隷市場を仕切ってるチャールズ•バルド。よしなに頼むぜ、黒魔の英雄殿よ」


「初めまして、チャールズ殿。俺はヴィント•アルタールだ。その称号は余り好みではないのでな。名前で呼んでくれ」


「そうか?なら、そうさせてもらうわ。まぁ、高名な騎士様だの魔導師でもなきゃあ、こんな称号好きにはなれんものな。平民出身者にはよくある事さ」


「ほう、分かるのか?」


「これでも元々は伯爵家の三男坊なんだぜ?まぁ、今は独立してここの元締めなんてやっちゃいるがな。それと俺に殿なんて敬称は要らねぇよ。背中が痒くなるからな」


「そうか、了解した。して、チャールズは何故ここに?」


「そりゃあ、巷で有名な英雄が来たってんなら歓迎するのが筋ってもんだろ。ここもお前さんには世話になった方だしな」


「世話に、ね……」


「おうよ。うちは人的資源を取り扱ってるからな。逃げられるのはまだしも、死んじまったらどうしようもねぇからな。ワイバーンや魔族の討伐に関しちゃ、感謝状の一つでもしたためたいぐらいだぜ」


 この男、奴隷の扱いを心得ている。チラッと見た感じ、酷い扱いは受けていないのだろう。それどころか、この男に仕えている事をどこか誇らしげに思っている。相当な人身掌握能力だ。そんな奴が元締めをしている、というのは一種恐ろしいものを感じるな。


「まぁ、そんな訳でだ。英雄とまでよばれているようなあんたが、態々こんな場所まで何の用かと思うのは当然だろ?なにせあんたは巷じゃ一番の人気者だからな。他の英雄の事は知っているか?」


「2人ぐらいはな。他国の事はまったく知らないが」


「まぁ、そんなもんか。うちの国には認定されているだけでも五人の英雄がいるんだ。あんたは除いての話だぜ?『嵐空の英雄』。『斬華の英雄』。『風塵の英雄』。『神弓の英雄』。それに『凱裂の英雄』」


「そんなにいたのか……結構な事だ。そんな状況でなんで俺が英雄なんぞに選ばれるのか、甚だ疑問だ」


「象徴が欲しいんだろうさ。なんせ今はまだその風潮はねぇけど、いずれ戦争は起こる。ここにいる奴隷たちの多くだって、何時かは戦争に送られる。千年振りの魔族との大戦争……被害がとんでもない物になるのは明白だ。勝つにしても負けるにしても、必ずな」


「兄貴、それは……」


「分かってるっての。これは俺の個人的な意見さ。でもな、上層部の連中だって同じ事を考えてる筈だ。だからこそ、必要なんだよ。人が拠り所とする事ができる、『英雄』って存在がな。これからの時代はより英雄の生まれやすい環境ができるだろうさ」


「ご大層な事だ。そんな物に俺が嵌れと?ふざけすぎだろう」


「上は上で必死なんだろうさ。本当なら『勇者』でも呼び出したい所なんじゃねぇか?象徴としてこれほどピッタリな存在なんてそうはいねぇしな」


 かつて存在したとされる勇者の存在。いまだ謎に包まれている存在。確かに、これほどまでに象徴的な存在はいないだろう。だが、そんな不確定要素の塊みたいな存在は呼び出せない。


「神話でもあるまいし、そんな事はありえねぇがな。千年も前に何があったのかは知らねぇけど、もう俺らは神様に愛想つかされてんだ。だったら、自分たちの手で何とかするしかねぇよ。その結果、俺たちが滅んだとしてもそれはそれで運命なんだろうさ」


「……珍しい考えを持ってるんだな」


「だって、しょうがねぇよ。そりゃあ、俺だって死にたくはねぇけどよ。そういう部分はあるんだよ、やっぱりな。……まぁ、こんな事を言っててもしょうがねぇ。それで話は戻るんだけどよ、ヴィントは何をしに来たんだ?」


「俺を襲った奴隷の元持ち主がどうなったか。それを訊きに来ただけだ。何も変わってないなら、それはそれで構わないさ」


「ああ、ゲルグの野郎か。あいつならとっくに海の……じゃねぇな。陸の塵行きだ。用件はそれだけなのか?なんだったら、詫びの代わりに奴隷の一人や二人見繕っても良いんだぜ?」


「要らんよ。俺は宿住まいだし、戦闘だけなら俺だけで何とかなる。なにより……馬鹿はいらん」


「ハッハッハッ!中々言うじゃねぇか!お前さんに一つ頼みごとがあるんだが……良いか?」


「……内容次第だな。個人的にはお前とはこれからも仲良くしたいと思っているからな」


「嬉しい事を言ってくれる。で、頼み事なんだがな……お前さんを襲った奴隷を覚えてるか?」


「当然だろう。それで?あの狼人(ウェアウルフ)がどうした」


「やっぱり勘違いしてるな……あれはただの狼人(ウェアウルフ)じゃねぇ。天狼人と呼ばれる、分類的にはハイウェアウルフだ。だが、実際はそんな生易しい存在じゃねぇ。神殺しの狼と称されるフェンリルに最も近い種族と呼ばれる存在だ」


「ふぅん……それで、それがどうした?頼み事と何か関係があるのか?」


「あぁ……頼みってのはな。お前にあの娘を預かってほしいんだよ」


「はぁ?」


「あいつの種族は力こそを絶対視する。自分より上回っているか否か。それだけを重要視するんだ。それでだ……あの娘は自分に勝ったお前さん以外を認めようとしない。つまり、お前さんに引き取ってもらう他ない訳だ」


「はぁ?」


「もちろん、タダでとは言わねぇ。こっちの不手際が多分に存在するんだからな。そっちが欲しいもんがあるなら、出来る限り手配しよう。だからさ……頼むわ」



「………………………………はぁ?」

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