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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
試練の狼森
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奴隷市場にて

 そんなこんなで普段よりも早く学園から出た俺は、調査のための準備を整えた。そして歩いている最中、来たばかりの頃に見た奴隷市場が見えた。少し嫌な想い出も一緒に浮かんできたが。考えすぎても仕方がないんだが、どうしても思い出しちまうんだよな。


「そういえば、あいつはどうなったんだろうか……」


 俺を襲った方だけではなく、あの奴隷を売った奴もだ。何かしらの制裁的な措置を受けたのだろうか?別にそれほど気になる訳ではないが、訊いてくるか。どうせ準備を整える以外にやる事なんてないんだかし、訊いておいたとしても損はないだろう。


 入ってみると、そこは画期に満ち溢れていた。いろんな商売人がそこには集まっている。奴隷と一口に言っても、様々な種類の奴隷がいるからだ。奴隷に堕ちる理由にも様々な理由がある以上、そうなってしまうのも仕方がないんだろうが。

 典型的な力のある奴隷もいれば、学のある奴隷もいるし、娼婦としての奴隷もいる。中には特別な能力を持っていて、高額な奴隷もいる。文字通り、千差万別であるがそうなってしまった理由は決まっている。身売りしたか、借金が払えなくなったか、或いは――――浚われたか。この三択だ。


 奴隷というのは、基本的に人としての扱いを受けない。そんな身分に堕ちるにはそれなりの理由がある。奴隷業者もそれを生業としているので、その辺の理由はかなりシビアだ。まぁ、俺も詳しい理由がどうとかは気にしないので割愛する。

 それに奴隷になったとしても、普通の身分に戻る方法はある。自分が売り払われた金額分のお金を主人に収め、主人が書類を破棄すれば奴隷から解放される。まぁ、この手法を取ってくれる主人はそんなにいないそうだが。態々買った奴隷を解放するような主人などいる訳がないのだから。


「おい、あれって……」


「『黒魔の英雄』がなんで奴隷市場に……誰かを摘発にでも来たのか?」


「ここで英雄と繋がりを作っても良いか……」


 ヒソヒソとうざい。何か言いたい事があるなら、直接目の前で言えよ。こういう噂話じみた話し方が俺は嫌いだ。聞こえていないと思っているんだろうが、完全に聞こえている。聞こえていないと思われているのがむかつく。丸聞こえな辺りが尚ムカつく。


「……あ、あの時の旦那じゃないですか!」


「うん?……ああ、あの時の。元気だったか?」


 俺に声をかけてきたのは、俺が初めて奴隷市場に来た時に助けた奴だった。どうやら周りの奴隷商や客が騒がしかったので覗きに来たらしい。まぁ、ここで会えたのは好都合というべきだろう。こいつに訊くのが一番手っ取り早いだろうしな。

 奴隷商に近付くと、その奴隷商の他に女が一人立っていた。女という概念を具現化したかのような風貌だが、何かおかしくも感じた。まぁ多少は気になる部分もあったが、今は気にしないようにする。気にしすぎてもしょうがない事だろうしな。


「少し訊きたい事があるんだが、良いか?」


「え?ええ、大丈夫ですよ。……あ、そうだ。こっちも少しお話があるんですけど、良いですかね?」


「うん?構わんないが……面倒事か?」


「少なくとも、こちらとしては面倒事ですかね。まぁ、何はともあれ、とりあえず中へどうぞどうぞ」


 案内された天幕の中では幾つかの牢屋があったが、中にはほとんど奴隷はいなかった。逃げられたという訳ではないのだろう。もし、そうだったとしたら、この奴隷商は落ち着き過ぎだ。俺の後ろにいる女奴隷に訊いてみるか?


「なぁ、ちょっと良いか?」


「はい、何でしょうか?」


「ここには何でほとんど奴隷がいないんだ?奴隷についてはあまり詳しくないのでな。教えて貰えると助かるんだが」


「かしこまりました。奴隷がつけるこの首輪には総てとある術式が刻まれています。それが『逃走防止』の術式です」


「『逃走防止』?聞いた事のない術式だが、どういう術式なんだ?」


「簡単に申しますと、持ち主の魔力が届かない場所まで行くと激痛が奔ります。距離が離れれば離れるほど、その激痛は強くなる。そういう術式になっております」


「なるほどな……」


 そんな術式があるからこそ、この奴隷商は心配していないんだろう。たとえこの場にいなくとも、逃げたとは微塵も思わないんだろう。実力のある奴ならそんな物、どうとでもしてしまえそうな気がするが。俺だったら無理矢理にでも首輪を引きちぎる、ぐらいはするだろうがな。


「それと、無理に首輪を外そうとする場合にも激痛が奔るようになっています。一見壊れやすそうに見えるかもしれませんが、特殊な素材で出来ているのでそう簡単には壊れません。この首輪を壊したいなら、猛獣に噛み千切らせるしかないとも言われています」


「ほぅ……よく出来ているんだな。それで?他の奴隷は何をしているんだ?まさか売り切った訳ではないんだろう?」


「その前に、お客様は『現しの水晶』はご存知ですか?」


「知っている。その水晶に触れた者の経歴を調べる魔道具だろう?確か、冒険者ギルドなんかで犯罪記録がないかどうかを探したりする場合に使っていたと思うが」


「はい。確かに冒険者ギルドなどでは、そのように使われています。しかし、それは本来の使い方ではありません。本来は触れた者の職業適性を調べるための物なのです」


「触れた者の職業適性?」


「はい。人々はそれぞれが生来、職業を持っています。それは奴隷商人であり、狩人であり、農家であり、騎士であり、商人であり、魔導士であり、そして――――英雄でもあります。

そして、それぞれが保有している職業適性に合った部分を鍛え上げ、お客様の要望にあった奴隷を提供する――――それが一流の奴隷商人という物です。まぁ、ほとんどの者は『現しの水晶』の事をよく知らないようですが」


「まぁ、無理もないだろうな。その魔導具は滅多に作れるような代物ではないだろうし、何より作れるほどの技量を持っている者も少ないだろう。そこまでの精度を誇る魔導具なんて、滅多にあるもんじゃない」


「お客様は魔導具の製造もされていらっしゃるのですか?」


「いや。だが、作れない事はないだろうな。家にあった魔道具の整備をしてきたし、内容も構造も大体の物は把握している。それでも、この『現しの水晶』というのは中々な難物だぞ。これを考えた奴は相当な技量を誇っていたんだろうな」


 後で調べた事だが、実際この魔導具は結構な難易度を誇る。というより、この魔導具を創った魔導技師サイファス・ジェンドが作った作品は大体がそうだったようだ。中には比較的簡単な物もあるが、それはあくまでも比較的であって、難易度は一般的な物とはレベルが違う。


「ささっ、こちらにどうぞ。おい、茶の準備を」


「かしこまりました。それでは失礼いたします」


「いや、こちらこそ中々楽しい時間だった。また時間があれば、お相手願えるかな?」


「私でよろしければ、いつでも」


 そう言うと、妖艶な微笑を浮かべてその場を離れた。その後ろ姿をしばらく見つめた後、部屋に入って行く。ニヤニヤと笑っている男の顔が少しムカついたが、気にしすぎない事にした。どうせ下世話な事を考えているんだろうしな。


「さて……それでは俺に一体何の御用なんでしょうか?旦那」


 中々面倒な話し合いになりそうだな。まぁ、偶にはこういうのも面白いだろう。こんな風に商談みたいな事をするのも珍しくなってくるだろうしな。何かを買うような機会は滅多にないだろうし、これからもないだろう。だからこそ、こういう風にするのは中々楽しいしな。

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