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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
変化の王都
22/81

いざ、貴族家へ

 あの後、警備隊に事情を説明した。そしてその場で別れようとしたが、お礼をしたいと引き留められた。しかも狙っていたのかと思わんばかりに馬車が現れ、乗り込まされた。しかも割と有無を言わせぬ態度で。

 いや、マジでどうなってるんだ?事態が急変しすぎて割とついて行けないんだけど。助けた相手が貴族のお嬢さんだったのはまだ良い。可能性としてなくはないだろう。あんな暗殺者を差し向けられるぐらいだし、元々それぐらいの覚悟はしていた。だけど、その後の行動がちょっとありえないんじゃないか?なんでこんなに動きが早い訳?どこかで監視されてんじゃないかと思うぐらい早いぞ。


「アルタール様にはお嬢様を助けて戴いたご恩がございます。故に主人も丁重に迎え入れるように、と申されております」


「いやいや、そういう問題じゃないありませんよ。っていうか、こんな平民をよくもまあそんな簡単に家に招こうと思いますね?普通、こういうのはまた後日。とか言うもんじゃないんですか?」


「主は基本的に行動する際に三秒程度しか考えません。即決即断を旨としている方でいらっしゃいますので、答えがはっきりとしていらっしゃるのです。今回は招く事をお決めになった、という訳です」


「貴族がそれで良いんですか……?」


 普通、貴族ってもっと思慮深い物じゃないのか?まぁ、その人にはその人のあるんだろうし、俺が口喧しく言う事でもないか。どうせ言っても仕方がないしな。面倒くさいし、言う気は欠片もわかない。どうせ、今回限りの付き合いでしかないしな。


「そう言えば、今から向かう家――――エクセシア家、でしたか?どれぐらいの家柄なんです?」


「名誉伯爵になります。いわゆる領地を持たない貴族ですね」


「名誉伯爵?なんですか、それ。普通の貴族とは違うんですか?」


「ああ、一般の方には違いが分かりませんか。名誉貴族というのはですね……」


 話によると、この国にはどうやら領地を持つ一般的な貴族、そして領土は持たないが貴族に分類される名誉貴族というのが存在するらしい。領地を持つ貴族はその領地の仕事をし、名誉貴族は中央での仕事をこなす。そういう役割になっているそうだ。

 どちらが上という括りはないが、やはり立場上領地持ちの貴族の方が立場は上らしい。とはいえ、そんな事を堂々と口にする奴は恥知らずという扱いを受けるらしいが。それに、それで威張ったりした奴が過去に名誉貴族に叩き潰されたという話もあったらしい。行き過ぎる者は痛い目を見る事になる。当然であり、当たり前の理屈だ。そんな事で歴史に名前を残すというのは恥以外のなんでもないと思うが。

 そして案内された場所は貴族街にあるそれなりの規模の建物だった。一般市民であれば、少なくとも縁がないような大きさ。まぁ、縁があったとしても俺はここに住みたいとは思わないが。明らかに部屋が余るし。


「こちらが我が主、エクセシア家当主ゲイル・クラウスト・フォン・エクセシア様の邸宅になります」


「ここに俺を招くように言ったご当主殿がいると?」


「はい。私室にてお待ちしている事と思います」


 さて、どんな人物なのかね。こんな俺を態々呼ぶような物好きなんて、さ。いきなり現れた俺みたいな奴を招くなんて相当な物好きだとは思うが。そのまま歩いて行くと、道が二つに分かれていた。曲がり角に立つと、お嬢さんは頭を下げてきた。


「それでは私はここで失礼させていただきます。……あの、アルタールさん。助けていただき、本当にありがとうございました!」


「いえ、俺は勝手に戦っただけなんでお気になさらず。この一件に関して、あなたが俺に対して言うべき事なんて一つもないんですから」


 ただ目の前にいて、相手が襲ってきたから戦っただけだ。だからこそ、お礼を言われる資格なんてない。彼女は、俺が戦った結果助かっただけに過ぎない。だから、彼女は俺に礼を言う必要はないのだ。相手が俺の事を狙わなければ、放置した可能性が高いのだから。


「それでも、私は言いたいんです。ありがとう、と」


「……そうですか。なら、これ以上俺が言うべき事なんてありません。それではこれにて」


 そう告げると、お嬢さん――――クリュセイアさんは去っていった。その後ろ姿を少し見た後、俺も歩き始めた。そもそも関わり合うような関係ではないのだから。だから、一々関わるような事はしない。する必要がないのだから。そして執事先導の元、この屋敷の主人の元に案内された。そして辿り着いた部屋にいたのは、眼鏡をかけた小太りのおっさんだった。そのおっさんは仕事をしていたのか、机の上には書類が置いてあった。


「彼が娘を助けてくれたという人物かね?」


「はい、旦那様。ヴィント・アルタール様になります」


「アルタール?ほう……『操星の魔女』と同じ姓とはな。彼女の知り合いかな?」


「メーア・アルタールは俺の義母です。あなたがエクセシア卿……という事でよろしいですか?何故、こんな平民を態々お呼びになったのか窺っても宜しいでしょうか?」


「アルタール様!?」


 失礼に当たるんだろうが、正直どうでも良い。それより早く帰りたいという感情の方が強かった。ぶっちゃけ腹が減ってたし、貴族との付き合いなんて面倒くさくてやっていられない。寧ろ、ここで気に入られる方が面倒だ。貴族に目を付けられるなんて面倒としか言いようがない。


「クククッ……歯に衣着せぬ少年だな。本当は失礼なんだが、良しとしよう。その為に私の私室に招いたのだからね。それで私の目的だったかな?君と個人的な繋がりを作っておきたかったのだよ」


「俺と?それはまた何故?」



「何故、とはまた愚かな質問だ。君には心当たりがあるだろう?なにせ、ゾーネ王女をこの城に連れてきたのは君なのだから」



 その瞬間、肌に差すような殺気を感じた。それも目の前の人物から。実力的に見て、決して恐ろしくはない相手だ。俺との戦力差もはっきりしていると言っていい。だが、この瞬間、俺は確かに目の前の男を脅威だと感じた。


「それは……王城でも人気のある噂なのですか?ゾーネ王女が王城に戻ってから数日も立っていないと思いますが。それに彼女を連れてきたのは俺ではなく、エイなんとかという騎士の手柄になっていると思いますが」


「騎士エイルーナの事かね?確かに公にはそういう事になっているが、真実はそうではない事は誰もが知っている。騎士エイルーナやゾーネ王女と共に来た君がゾーネ王女を助けた、というのは公然の秘なのだよ。誰だってそれぐらいは分かる。騎士エイルーナは優秀だが、突出している訳ではないからね」


「それは俺が突出した存在だなんて理由にはならないでしょう?他に何かあるんじゃありませんか?そう確信させるだけの何かが」


「それなりに頭も回るようでなによりだ。まず、昨日君が狩ってきた獲物の数だね。たかが狼ではあったが、君はほぼ総て無傷で殺している。しかも傷の一つも負う事なく、だ。この段階でそれなりの戦闘力がある事は分かっていた。そして今日の一件だ。君は君が倒した連中の事を分かっているかね?」


「いいえ、欠片も。だってそんなの俺には全然関係ありませんから」


「……彼らが聞いたら激怒しそうなセリフだな。まぁ、それは別に構わん。娘と君を襲ったのは暗殺者ギルドの中でもそれなりに名の知れた連中でね。『漆黒の翼』という複数で動きながらも、一切の動きを悟らせない事で有名な暗殺者なのだよ」


「まぁ、確かに首都(ここ)に来て以来、初めてあったそれなりに強かった相手ですけどね。あれでそれなりなのか……」


 だったら、一番強い奴は俺を殺せるかもしれないな。と言っても、相手は暗殺者だし期待はしないでおこう。少なくとも現段階で、俺の事を殺そうと思うような相手はいないだろうし。まぁ、可能性程度で考えておくとしよう。


「それなりに強かった、か。それは君基準でどれぐらいなんだね?」


「それを、あなたにお教えする理由が俺にはありません。これでよろしいですか?」


「アルタール様!」


「執事さん、俺にだって答えたくない事ぐらいはある。たとえ相手が貴族であっても、義理も何もない相手に教える事など何もありませんよ」


「……確かに。君の言う通りだな。ところで、そろそろ良い時間だが、一緒に食事でもどうかね?娘も君と話したい事はあるだろうしな」


「遠慮しておきます。貴族の食事は俺には合わないでしょうし、何より俺にはそういったマナーに関する知識がありません。それに、宿の食事を既に注文していますので、これで用件が済んだのなら帰らせていただきたいのですが?」


「ふむ……長く引き留めるのも良くないか。ならば仕方ない。ウィルゼ、彼を宿まで運んで差し上げなさい。今回の礼はまた後ほどさせてもらうよ」


「いえ、結構です。お嬢さんにも言いましたが、彼女は結果的に助かっただけに過ぎない。俺に報奨など寄越すぐらいなら、彼女の事を慮って下されれば結構です」


「言われなくてもそのつもりだったが……謙虚だな。君は」


「不要な物を貰っても仕方がないだけです。それでは、俺はこれにて」


 これ以上、ここにいても得られる物などない。相手の顔を立ててここまで来たのだ。早く帰って宿の飯を食いたい。だが、懸念事項が一つあった。


「まぁ、また顔を合わせる機会もあるだろう。その時はよろしく頼むよ」


 あのおっさんが言ったその言葉。その言葉の意味を俺は測りかねていた。結局その時になったら考えればいいか、と思考を投げたのだが。実際、この言葉の後に分かるのだが、それはまた後の話。

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