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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
変化の王都
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武器選びに武器屋へ

 狩りをした翌日、俺は武器屋を訪れていた。いや、別に言われたから来ようと思った訳ではない。まったく関係ないとは言わないが、単純にどんな武器が置いてあるのか気になっただけだ。どうせ金も足らないし。それに今の俺の腕ではろくに武器は使えないだろう。身体が(・・・)慣れてないし、なにより余計な武器を持っても仕方がない。特に両腕が塞がる武器は駄目だ。最低でも片手、望めるなら両手が空く武器でなければならない。そうなると、選ぶ武器は必然的に限定される。


「それに、そこまで武器が欲しい訳じゃないしな……」


 言ってみれば冷やかしに近い。少なくとも、買おうという気はあまりない。魔法を交えた近接戦闘を行う俺に、武器なんて正直意味がない。それでもなんとなく気になるから、見に行くだけだ。何件か冷やかしした後、バダックから教えてもらった武器屋に向かう。教えてもらった時、武器を持っていない事に大層驚かれた。俺と外の世界のズレって相当な物なんだろうな、と思わされた。改めないけど。


「ここか……」


 そうして到着したのはバダック推薦の『クセル武具店』。バダックの話では性能の割に安い武器が多いし、なによりもここを運営している親方は職人気質で実力を認めてもらえれば、そいつにあった武器を作ってくれるらしい。どんな奴だ、という感じがぷんぷんする。実に興味がある。


「……舐めんのも大概にしろよ!」


 店の中に入ってみると、まずその罵声が聞こえてきた。何かと思って見てみると、そこにはそれなりの値段がしそうな一見高級そうな鎧を着た男がカウンターにいる誰かに怒鳴っていた。一体何なのかと思いながら、立てかけられている武器を眺めていく。確かに、冷やかしで見てきた武具やに比べればいい作品が多いのかもしれない。よく分からないが、何となくそう思った。


「何度言おうと、こっちの答えは変わらん。それが気に入らんのなら、とっととこれを持って帰れ」


「これは紅龍(クリムゾン・ドラゴン)の鱗だぞ!これで鎧を作ってくれれば良いんだよ!」


「この俺を見縊るな。紅龍(クリムゾン・ドラゴン)の鱗なら何度も触った事がある。あの龍の鱗はここまでざらついておらんわ。精々、翼竜(ワイバーン)の鱗を紅く塗りでもしたのだろうが。まぁ、大方、偽物を掴まされたか或いはこれで俺を嵌めるつもりだったのだろう?残念だったな」


「ぐっ……もういいさ!潰れちまえ、こんな鍛冶屋!」


「ならば、精々自分の身を崩さんように気を付けるんだな。とある地方には他人を呪わば穴二つという諺もあるらしいからな」


 男が悪態を吐きながら出て行き、俺はカウンターの方に視線を向けた。そこにどんな奴がいるのかと思えば────明らかに生後10年行くか行かないかレベルの男の子がいた。俺の視線に気付いたのか、あちらも俺に視線を向けてきた。不快な物を見たかのような表情に、客商売がそれで良いのかと言わざるを得ない。


「なんだ。見せ物ではないぞ」


「あれが見せ物だったって言うなら、金を払ってるよ。ちょっと武器を見せてもらいに来ただけだから、別に気にしないでくれ」


「どんな奴だろうと、この店にいる以上は俺の客だ。誰かの紹介で来たのか?そうでもなければ、こんな場所は見つけられまい」


 確かにこの武器屋は入り組んだ路地裏にあって、俺も事前に聞いてないと分からなかっただろう。集客率がそんなに高いとは思えないが、やっていけるぐらいには稼いでいるんだろう。見栄えには気を付けられるぐらいに、内装はしっかりとしていた。他の店でも、これほどしっかりとしている場所はほとんどなかった。


「バダックって冒険者からだよ。ちょっと武器を探してる、って言ったら、ここを教えてくれたんだ」


「ほう……あいつが。それはまた面白い。それにしても、お前は俺の事を子供とは見ないのだな」


「身体が小さかろうが、ちゃんと仕事をこなしている奴は立派な大人(プロ)だ。プロの仕事に文句をつける趣味はないよ。そもそも、しっかりと能力のある人間を貶せるほどこの道に聡い訳じゃないし」


「クククッ……面白いな、お前は」


「それに、どうせ見た目通りの年齢じゃないだろ?」


「……どうしてそう思う?」


「まぁ、まずは態度だな。大人に物怖じしない(そんな)態度をとるガキなんて、そうはいない。これは理屈としては弱いけど、次に魔力だな。明らかに見た目とは量が隔絶している。ここまでの魔力量にしようと思ったら、普通は数十年はかかる」


「お前……魔力が見えるのか?」


「見えないさ。ただ感じているだけだよ、漠然とな。後は……ここにある武器の出来具合だな」


 素人目から見ても分かる。ここにある武器を作った奴は凄いと。本当に上手いと言える事が出来る物はそれだけで人を魅了する。素人も玄人も関係なく、それは確かに人の心を掴んでくるのだ。そしてこれらの武器がたった1人の手で作られてきたのは、武器に書いてある名前を見れば分かる。


「これだけの武器が一朝一夕でできるものか。長い年月を費やしてきたのは見て取れるさ」


「……お前は物に対して敬意を払えるのだな。最近では珍しい逸材だ」


「物というか作り手だな。学ぶ者として先人に敬意を払うのは当然だし、先人が作り出した物に敬意を払うのもまた当然だろう?」


 歴史を繋ぐ事も難しいが、初まりを作るのもまた難しい。それを成した者、繋いできた者、どちらもが尊敬を払うに値するし自分たちは紡がれてきた物をありがたく思うのは当然だと思えと教えられてきた。だからこそ、こういう物を作る事のできる人間にはきちんと敬意を払う。


「そりゃあ、俺にはここにある物の正確な善し悪しまでは分からない。物心ついてから、俺はずっと魔導の研究しかしてこなかったからな。だけど、これだけの物を作るのが凄いってのは分かるよ」


「……変わった奴だ。まぁ、良い。お前の武器を見繕ってやろう。お前は一体何を使うんだ?」


「いや、別に良いよ。ところで、ここだと自分で素材を持ってきたりしたら、何か作ってくれるのか?」


「うん?まぁ、やらん事はないな。そいつの力量に見合うような物なら、やる時はある。バダックの奴には昔、ワイバーンの鱗でレザーメイルを作ってやった事がある」


「そっか……じゃあ訊きたいんだけど、これが何か分かるか?」


 昨日と同じ魔導陣を描き、1本の牙を取り出した。男は俺が使った魔導について訊いてきたので、昨日のように説明した。すると、男はありえない話を聞いたかのように眉間に皺を寄せていたが、暫らくすると眉間を揉みほぐし始めた。そして眉間から指を離すとこう言った。


「鑑定する前に言ってやる。人前でほいほいとそんなキチガイ染みた物(魔導)を使うのは止めろ」


「はぁ?なんで」


「なんでだと?ならば教えてやる。どうも、お前は自分がどれだけ画期的な事をしているか、まるで分かっていないようだからな」


 男の話によると、基本的に何かを収納する魔法は異空間収納の魔導だけ。魔導具に魔導袋という魔物の体内にあるとされる魔石の魔力に応じて、容量が決まっている物があるぐらいだ。それだけ魔導による物の管理とは難しい。

 だが、俺の魔導はそんな理屈を一気にひっくり返す。明らかにコストと難易度が軽いと言わざるを得ない魔導。そんな物が明かされれば、戦闘はもっと大規模な物となりいずれは戦争が起こるかもしれない。そこまで大げさな物かと思っていると、男は目を細めた。


「大げさと思うかもしれんが、戦争では戦闘力などよりも補給の方が重要なのだ。いくら力があろうと、補給できなければその力を発揮する事などできんのだからな」


「そんなもんか……とりあえず言いたい事は分かったよ。これからは留意する」


「そうしておけ。それで、これは……トリタニアイーグルの爪、か?いや、それにしてはデカい気が……これはどこで?」


「『滅びの森』で」


「は?今なんと言った?『滅びの森』と言ったか?」


「ああ、確かにそう言った。俺はあの森で育ったからな」


「お前……分かっているのか?『滅びの森』は特殊災害指定地域(・・・・・・・・)だぞ!?あんな頭のおかしいキチガイしか行かんような場所に行ったと言うのか!?」


 そう、旅の道中で初めて知ったのだが、あの森は特殊災害指定地域という扱いを受けていたそうだ。まぁ、あそこは立地的に複数の地脈が交錯しているから、大量の魔力が充満している。そこで育つ果物や植物を食べる魔獣に、その魔獣を食べる魔獣。文字通り、人外魔境なのだそうだ。そんな命がいくつあっても足りないような場所に行くのは、頭の狂ったキチガイだけらしい。


「らしいですね。でもまぁ、特に支障はないんで大丈夫ですよ。それで、その爪なんですけど、風を纏った鷹が持ってた物なんですよね。名前なんて知らなかったんだけど、そんな名前だったんだ」


「……ち、ちなみにどうやって狩ったんだ?」


「え?そりゃあ……魔導で防御ごと頭を吹き飛ばしてですけど」


 どんな魔獣だろうと、最後には必ず接近してくる。そりゃあ、遠距離からバンバン撃ちまくって獲物を狩る奴もいる。だが、基本的に最後は近接戦闘になる。だからこそ、カウンターで殺す事がセオリーになってくる。まぁ、タイミングをミスったりすれば、こっちもお陀仏っていう意味なんだけど。


「あそこにいる連中に対して、自分から仕掛ける時なんてほとんどない。相手の運動エネルギーを利用する事で、ようやく殺せる奴の方が多い。後は、骨を折ったりする方が効果的な場合も多いな」


「そ、そうか……思った以上の実力者だったようだな。というか、お前は拳闘家なのか?」


「拳闘家とはとても言えないな。基本的に我流だし、五体しか武器として使う物がなかっただけだからな。刃物の類なんて、精々が包丁くらいしかなかったし」


「そんなレベルか……なら、お前が使うとしても籠手や脚甲ぐらいの物か。これを機に剣などに手を出してみるのもありかもしれん。どうする?」


「そんなに余裕もないからなぁ……ん?ここにあるのは何なんだ?なんか、やたらと安いけど」


 一本銅板三枚という立て看板と、長剣が何本も乱雑に入れてあった木箱を見つけた。他の武器とは明らかに扱いが違う事に疑問を感じた。他の武器は一本一本、個別に保管されているからこそ首を傾げざるを得ない。男もそれを見て、ああと言った。


「それは数打ちの品だ。うちの弟子が作った物がほとんどだが、中には俺が作った物も入ってる。金がないのにうちみたいな所まで来るような奴に対する、運試しみたいな物だな。普通に金を持っている奴はもっと使える奴を買うからな」


「そっか……それじゃあ、一回挑戦してみようかな」


「良いのか?俺が言うのもなんだが、下手くそな品が多いぞ。俺だったら絶対に売り物に出来ないような奴ばっかりだ。俺が打った奴も失敗した奴が殆どだ」


「別に構わないよ。運試しなんだろ?こういうのに興じるのも、偶には悪くない」


 手をかざし、1本1本柄を握っていく。どの剣も柄は同じだが、重さは異なる。俺にとって最適な重さだと思う物を選ぶ。誰が作ったにせよ、大事に扱って行こうと思いながら1本の剣を抜く。引き抜いた剣は多少傷はあったが、飾られている武器と遜色ないぐらいの出来具合であるような気がする。


「これは……結構当たりなんじゃないか?」


「……どこに行ったのかと思ったら、そんな場所にあったのか。いや、これもまた運命か」


 なんかぶつぶつ呟いていた男に首を傾げ、銅板を三枚渡した。男はため息混じりにそれを受け取り、おまけだと言って剣を入れる用の鞘と剣帯を作ってもらった。それを腰に吊るして動きやすいように調整した。そして剣を取り出しながら、軽く振ってみた。


「そういえば今更なんだけどさ。あんた、名前はなんていうんだ?」


「本当に今更な質問をしてくるな……グリファス。グリファス・クセルだ。まぁ、名前でなど呼ばれ慣れていないし、親方とでも呼べ。そういうお前は?」


「ヴィント。ヴィント・アルタールだ。今後ともよろしく」


「こちらこそ、と言うべきだろうな。それは」


 握手を交わすと剣を受け取り、武器屋を出た。しばらくはこれに慣れるために使っていくとしようかね。それにしても、大丈夫なんだろうか?剣を振るなんて(・・・・・・・)久しぶりだからな(・・・・・・・・)

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