国王陛下たちと話し合い
昨日投稿できなかったので、本日は連続投稿となっております。前話をご覧になってから読んで下さい
それから連絡が行ったのか、それほど時間も経たずに首都の中央にある王城に案内された。あの家では時間の値など意味がないのだが、この世界ではグリウス・へルテス・レシアという時間の単位が存在する。60グリウスは1へルテス、60へルテスは1レシア。そして1日は25レシアという扱いだ。今回は20へルテスといったところか。
案内されたのは謁見場────ではなく。私室と呼ぶべき場所だった。そこには朱色の美しい髪のゾーネさん似の美人さんと、金髪のどことなくちゃらそうなどちらかと言えばおっさんという感じの青年がいた。その2人はゾーネさんを見ると一目散に近づいてきた。
「ああ、ゾーネ!無事だったのね!?」
「……はい、お母様。ご心配をおかけした事、大変申し訳なく思っています」
「良いんだよ、そんな事は。まずはお前が無事だった事を喜ぼう。それで……君がゾーネを保護してくれたという青年か?」
「……お初にお目にかかります。ヴィント・アルタールと申します」
「……アルタール?今、アルタールと言ったか?」
「は?確かにそう言いましたが……それがどうかしましたか?」
「もしかして君の親は……メーア・アルタールか?」
「確かにメーア・アルタールは私の育て親ですが、それが何が?」
国王様はいきなり笑い始めた。皇后様も大層驚いたような顔でこちらを見ていた。一体、なんだと言うのか。あの婆さんはこの2人に昔、何かしたんだろうか?……したんだろうな、きっと。明らかにそうっぽい気配がしてるし。
「クククッ……ああ、いや、失敬。随分と懐かしい名前を聞いたのでな。つい昔を思い出して笑ってしまった。許してくれ」
「それは構いませんが、婆さん────母が何か?」
「昔、少しあってな。娘が世話になったようだしな。メーアは結構面白い女だった。なにせあの女、俺からの求婚を拒んだ上に平手打ちまでしてきたからな」
「あれは豪快というか痛烈でしたわね。あなたも思わず尻をついて呆然としていらっしゃいましたものね」
「当然だ。王族として生まれて以来、誰からも叩かれた事がなかったのだ。まさか求婚した相手に殴られるとは思わなかった。まぁ、今となっては良い経験だがな」
「あれ以来、物凄い勢いで勉強し始めましたものね。学園でも底辺に近かったのに一年後にはトップに名前を載せていましたもの。あれは皆、呆然としたものですわ」
「死ぬ気でやれば、あれぐらいはできるさ。まぁ、結局求婚は受け入れてもらえなかったが……立場が違ったのだ。仕方がないと言えば仕方がないな」
なんか俺たちそっちのけで会話が進んでいる。それにしてもあの婆さん、国王に求婚された事があったのか。まぁ、されるかもしれないな。あの美貌だったら、全然おかしくないし。見てくれだけは、上級だったんだろう。いや、当時のことはよく分からんのだが。
「おっと、済まないな。ゾーネはまず旅の疲れを癒しなさい。色々と大変だったんだろう?今日はひとまずゆっくりしてそれから話をしよう」
「分かりました、お父様。それでは、私はこれで失礼いたします。お父様、どうかヴィントさんにお礼をして差し上げてくださいね」
「分かっている。娘の窮地を救い、尚且知人の息子だ。決して悪いようにはしないさ」
「ありがとうございます、お父様。それではヴィントさん、また後ほど」
「また後でお会いしましょう」
ゾーネさんが部屋から出て行くと、国王陛下は俺にゾーネさんとの出会いを訊かれ、まず俺が知っている範囲の内容を喋った。ゾーネさんを行かせたのは、こういう話を聞かせたくなかったからだろう。誰だって、自分の生命が狙われていると知ればいい気分ではないだろう。
「……というのが、俺の知っている内容です」
「『滅びの森』……か。メーアといい、君といい、素晴らしい実力を持つ魔導士というのは、危険地帯にいるのが当たり前なのか?」
「その辺はなんとも言えません。俺、いえ、私は婆さ……母に拾われただけですので」
「ああ、いつも通りの喋り方で構わんよ。私も家内もその程度の事を一々気にしたりせんよ。それに、そのために私室に案内させたのだからね」
「そうですか?それでは、そうさせていただきます」
「……やはり君は彼女に似ているな。彼女も私が敬語は要らないと言ったら、躊躇いなくタメ口になったからな。彼女ほど私に遜らなかった奴は他におらんよ」
「まぁ、俺も婆さんも他人の評価なんてどうでも良いと思うタイプですから。他人が自分の事をなんと言おうと、心底どうでも良い。自分のしたい事さえできれば良い。それがメーア・アルタールという人間ですよ」
「正鵠を射ていますね。確かに、彼女はそういう人間でした。世界の真理を追求し、そのためなら努力を惜しまなかった。私は彼女ほど魔導――――いえ、魔法の研究に没頭していた人を他には知りません」
「そうだな……それで、メーアの奴は今はどうしている?相変わらず研究に没頭しているのか?」
「……300日ほど前に死にました。まぁ、健康的な生活を送っていたとは到底言えませんし、仕方がないと言えば仕方がないのかもしれませんが」
「そうか……それで、君はメーアの研究を引き継いだんだな。死に顔はどうだった?」
「いつも通りの寝顔でしたよ。次の瞬間に起きてもおかしくないと思うぐらい、苦しんだ様子はありませんでした」
「そうですか……亡くなってしまった事は悲しいですが、せめて安らかであった事を幸いとしましょう」
皇后様はそう言いながら目端に涙を浮かべ、手を組んで神に祈っていた。俺と国王様はそんな皇后様を黙って見つめるのだった。国王様がどう思っていたのかは知らない。しかし、そんな光景を見せられたても、何とも思わなかった。婆さんは冥福を祈られるような人ではなかったからだ。
それ以上に神に祈ってもなにも叶えられない、という事を教わっていたからなのかもしれない。神に祈っても、何かが帰ってくる訳ではないのだ。ならば、そんな事をしても無駄という物ではないだろうか?
「……さて、それでは報酬の話をしようか」
皇后様が祈りを止めると、国王様はそう切り出してきた。俺としても別に急いでいる訳ではないが、こういう話は早くに済ませておいた方が良いと思っているので丁度良かった。
「普通であれば、金や勲章などで済ませたりするものだ。しかし、君にそれは意味がないのは分かっている。それで訊きたいのだが、君はどんな物が欲しい?」
「よく分かりますね」
「当たり前だろう。私は君の育て親を知っている。ならば、君の育て親が欲しがらないような物を君が欲しがる訳がないと分かるのは当然だ」
「……なるほど。婆さんの無欲ぶりはここにいた頃から健在だったんですね」
「ここ、というか私と彼女が知り合ったのは国で運営している学園の魔導科の授業だった。本当に型破りの授業だったな、あれは」
「彼女の授業は教科書なんて使わずに自力で魔導術式を作らせる物だったんです。教師と生徒が一体となって、一つの魔導を作る。作る過程も作りあげた魔導も今でも覚えています」
「彼女ほど生徒を平等に扱った教師も知らないな。彼女はあれだけ魔導に精通しながらも、魔導を絶対視しなかった。私も国王となって以来、魔導に偏っていた比重を別のところに向けられるようになった」
「……そもそも、なんで婆さんは教師なんてしていたんですか?確かに、教えるのは上手かったですけど、そんな性格してませんよね?」
確かに、あの婆さんは教えるのが上手かった。答えに関しては解き終えるまで教えなかったけど、その答えに至るまでの道のりは丁寧に教えてくれた。それがなければ、俺もここまで魔導の研究をしてこなかっただろう。
「ああ、それは学園にある施設を利用するために教職になる必要があったからだ。得体の知れない者に触れさせる事は出来ないからな。学生よりも教員の方が見れる幅が広いんだ」
「そうなんですか?俺はその施設を利用したいんですが……」
「そうなのか?しかし、これは規則だからな。特別扱いする訳にはいかん。だが、ゾーネにああ言った以上、何もしないのは私の沽券に関わる。さて、どうしたものか……」
俺としては論文さえ読めればいいので、教職をする事自体は面倒だが構わない。だが、俺みたいな素性も分からんような奴がいきなり教職になれるほど甘くはないだろう。さて、どうしたら良いものか。実力主義社会だったらもっと楽なんだろうけど、違うからなぁ。
「……?何を悩んでいるのですか?」
「いや、彼に施設を利用できるにはどうすれば良いか、考えているんだよ」
「そんな事、簡単な事ではないですか」
「何?」
「ですから、ヴィント君が研究資料を閲覧できるようにすれば良いのでしょう?」
「そうですね。そうできると幸いですが……」
「でしたら、こうすれば良いのですよ……」
そうして皇后様に挙げられた案に俺も国王様も乗る事にした。現状、それ以外に案など浮かばなかったし、閲覧できるのならそれで良かったからな。面倒ではあっても、それ以外に手がないのなら乗る事は吝かではない。
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