首都へ来たは良いが身分証がないので、とりあえず冒険者ギルドへ
昨日投稿できなかったので、本日は連続投稿です。
あのゴブリン襲撃から暫くの間、本当に暇な時間が続いていた。基本的にゾーネさんに魔導を教えるか、寝るか、食事をするかしかしていない。まぁ、あまりに暇だったので休憩中にある程度動いてはいたのだが。
そうこうしていると、ついに首都と呼ばれる場所に着いたらしい。ここまで声が聞こえてくる訳ではないが、それでも道中に食料などの関係で寄った街よりかは明らかに栄えていた。良きにせよ悪しきにせよ、栄えているのは良い事だろう。
「そういえば今更なんですけど、この国なんて名前なんですか?あと首都名も」
「……本当に今更な質問を、本当にギリギリになってしてきましたね。我が国の名前は私の家名であるエルスティーナ王国。あの首都の名前はフィガレスと言います」
「ふ~ん……そうなんですか」
「本当に興味なさそうですね……まぁ、ヴィントさんが国に関わる事なんてそうはないでしょうからね」
「まぁ、それもあるんですけどね。訊いたからって、こんな場所に来る事がもう一回あるとは思えないんですよね」
「ああ……確かに」
魔導の研究なんてどこでもできる。施設や設備という条件さえクリアできるのなら、それこそ辺境にある森の中だろうと研究する事はできる。街中にいる必要があるとすれば、それは自分の書いた論文や研究成果を発表する場合だけだろう。
俺はそういう自己顕示欲が少ない。あんな場所に住んでいれば、そういう欲も必然的に薄くなる。そもそも婆さんからして、その辺は本当にどうでも良かったらしい。婆さんが研究を発表したりしたのは、より早く神秘の研究を深めたかったかららしい。結局、その願いは叶わなかったそうだが。
神秘を探求し、世界の理を見つける。それが婆さんの生涯の研究テーマだったんだ。それ以外には興味がなかった。魔導を研究していたのは、それが一番身近にある神秘だったからだ。
逆に言えば、神秘であれば何でも良かったのだ。魔獣でも人以外の種族でも、それこそ今ではほぼ伝説と成り果てている魔族。はたまたかつていたとされる魔王や勇者なんて御伽噺こ存在でも良かったのだ。あの婆さんにこだわりなんて物は欠片もなかった事を知っている。
結局、それが神秘に繋がるのなら。世界の真理に触れられるのなら、それが何であっても良かった。ある意味において、婆さんほど魔導という物を蔑ろにし続けた存在を、俺はきっと終生知る事はないだろう。そう断言できるほどに、婆さんは魔導を大事にしてはいなかった。
「どうしてこんなに人が集まるのかね」
「国の中心には人が集まる物ですよ。商売のために来る人、技術を伸ばしたいと思う人、生きるための糧を求めている人。探し始めたらキリがないくらい」
「多くの人や物が集まるから、か。やっぱり俺には分からんな」
生きるための糧なんて、物心ついた時から自分でどうにかしてきた。誰かに頼った事なんてない。婆さんもその辺りは自分でどうにかしていたし、自分の事は自分でするというのが当たり前な世界だった。だから、誰かを頼るなんてした事がない。
「まぁ、俺は自分の目的さえなんとかなるならそれで良いんですけど」
「無理ではないと思います。父上は魔導の教授を広く行っていますし、なにより強い魔導士の方が好きですから。ヴィントさんは間違いなく気に入られると思います」
「それはどうでも良いです。出世とかそういうのにはさっぱり興味ないので」
出世とかそういうのにはさっぱり興味がない。婆さんもそうだが、基本的に出不精だからどうせ3日と続かないだろう。だからと言って、誰かの下に付けとか言われても困る。まず間違いなく、その相手に迷惑をかける事になるからだ。そんな事を気にするような性格ではないが、他人に迷惑をかけるのは趣味ではないのだ。
そうこうして首都の門に着いた訳だが、ここで一つ問題が発覚した。俺は生まれてからずっとあの森で暮らしてきた訳で、二人が当たり前に持っている物を持っていなかった。そう、身分証だ。
ゾーネさんは俺が不審人物ではない事を知っているが、周りからすれば俺は身分証も持っていない不審者だ。そんな人物を王城に案内する訳にはいかない、という事でひとまず冒険者ギルドという場所に向かう事になった。
誰でもと言ったが、それは大きな街に住んでいる者なら。という前提が付く。辺境の村とか小規模の町では持っていない者も多いそうだ。とはいえ、首都に来る者なら誰でも持っているのが当たり前だそうだ。だから、持っているのが当たり前。
だが、門衛の話ではごく稀ではあるが、俺のようなおのぼりさんもいない事はないらしい。そういう連中のため、という訳ではないが首都には様々なギルドと呼ばれる集合体がある。
商業ギルド、料理人ギルド、魔道具ギルドなど資格を取得するための場所がギルドと呼ばれる。その中でも手頃に登録できて、身分証として使える物が冒険者ギルドだ。冒険者、という響きからも分かるかもしれないが、様々な未開地を探検したり張り出された依頼をクリアしたりと様々な仕事をこなす、言ってしまえば何でも屋のような仕事だ。
そんな仕事だからこそ、信用は大事になってくる。このギルドに入るという事は、その意向には従うという事でもある。きちんとした決まりがあり、それを犯す者は冒険者ギルドが総力を結集してでも叩き潰す。事実、昔もそんな事があったらしい。
ともかく、複数挙げられたギルドの中でそれを薦められた俺はその冒険者ギルドに向かった。特に汚い所はなく、寧ろ小奇麗な印象を受ける場所だった。まぁ、依頼を受ける者だけが来る訳ではないのだから、当然と言えば当然かもしれないが。
中に入っても、強面のおっさんに絡まれるとか物語のような展開はなかった。そんなに忙しい時間帯でもなかったのか、そんなに人もいなかった。受付まで行くと、栗色の髪の美人さんが座っていた。俺が近づくと、にこりと笑ってみせた。勘違いする人多そうだな。
「冒険者ギルドへようこそ。ご依頼ですか?それともご登録でしょうか?」
「登録でお願いします」
「かしこまりました。私は受付のフレアと申します。以後、お見知りおきください」
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。それでは、こちらの紙に書ける範囲で構いませんのでご記入はいただけますか?あ、代筆いたしましょうか?」
「いえ、書けますのでお構いなく。ありがとうございます」
俺がさらさらと紙に書いていると、何やら視線を感じた。そこには変わらず受付嬢がいたが、首を傾げるとまた書く作業に戻った。そしてある程度書き終えると、紙を渡した。
「終わりました」
「拝見させていただきます……ヴィント・アルタールさんですね。それではこれからカードを作らせていただきます。その間、説明をお聞きになりますか?」
「はい。お願いします」
「分かりました。まずお渡しするカードですが、最初の色は銅となります。次に銀、その次に金となります。冒険者ギルドとして取得できるランクは金が最高となりますが、これで限界ではありません」
「その色分けには何か基準となる物があるんですよね?」
「……はい、その通りです。冒険者の枠組みとして銅はI~G。銀はF~D。金はC~Aになります。そしてこの上に赤・青・緑・黄・白・黒のカードが存在します。厳密に差がある訳ではありませんが、基本的に赤より黒の方が上として扱われます」
「冒険者ギルドでの最高が金という事は、何か別の要素でそれらのカードに変わるんですよね?例えば、国からの推薦とか」
「本当によくお分かりになりますね。その通りです。国家、または複数の貴族の方からの推薦状などによって変化します。しかし、金に至っている事が前提ですからね?」
「それは流石に分かっていますよ。ランクアップの条件は?あと、ランクが変化した際にはカードも何か変わるんですか?」
「ランクアップの条件は一定数の依頼のクリア、或いは規定額まで素材を換金する事です。ランクが上がった際には右端の方に一つ星が浮かびます。これを三つ貯める事でカードのグレードアップ、といったところですね」
「なるほど……それで依頼はどこにあるんですか?受付で紹介して貰えばいいんですか?」
「いえ、あそこにあります依頼板でご確認ください。もちろん、受付で相談していただけるなら見繕わせていただきますので、いつでも相談に来てください。それと、以来の紹介料として報酬の二割ほどをギルドが徴収しておりますが、ご了承ください」
「では、個人的に依頼を受けた場合はどうなるんでしょうか?」
「それは全額冒険者様の物になります。しかし、こちらでは責任を負いかねますのでご了承ください」
「なるほど……」
制度事態はしっかりしているらしい。まぁ、当然か。そうでもなきゃ、こんな仕事やっていられないだろうしな。それにしても、国の関与も認めているとは珍しいな。普通はこういうのを認めないと思うんだが。国の介入を赦せば、組織という物を運営するのは儘ならないからだ。
「ちなみに金以上の冒険者は国に仕えている方もいらっしゃるんですよ?ですから、まずはヴィントさんも金を目指して頑張ってくださいね」
「そうですね。どれぐらいまでに依頼を受ければいいんでしょうか?」
「そうですね……基本的に一つ上がるのは簡単ですので、最初は三ヶ月程が期限になります。それ以降は特にそういった制約はありません。ただ、あまり放置していると引退したか死亡したかと思われる可能性もありますのでご注意ください」
「分かりました」
「それでは、説明は以上になります。何か質問はございますか?」
「そうですね……ランク以上の魔物を狩ってそれを換金した場合、ランクはどうなるんでしょうか?やっぱり一つずつ上がるんですか?」
「いえ、その場合は一足飛びで既定のランクまで上がる事になります。しかし、そんな事は滅多にないので参考にはなりませんよ?」
「万が一の話ですよ。そんな事態に陥るとは思っていませんから」
「それなら良いんですが……それではこちらがヴィントさんのカードになります。初回は無料ですが、紛失した場合は再発行のお金がかかりますのでご注意ください」
「分かりました。……この欄はなんですか?」
「その欄はヴィントさんの物である事を証明するための物になります。申し訳ありませんが、これで親指の先を突いて血印を……」
親指の皮を噛み切り、浮かんできた血を四角い枠の中に押し当てる。すると文字が輝き始め、端っこにあった丸い灰色の宝玉が青色に光った。どういう原理で作られているのかは分からないが、中々面白い仕組みだな。
「…………」
「これで良いですか……って、どうかしましたか?」
「あ、いえ!それよりも早く血を止めないと!」
「大丈夫ですよ。そんなに気にするような量じゃないし……それよりこれで完了という事で良いですか?」
「ほ、本当に大丈夫なんですか?登録に関してはそれで完了です。こちらにもきちんと登録されました」
「そうですか。それじゃあ、これで失礼します。また会えたら会いましょう」
「あ、はい……頑張ってください」
「ありがとうございます」
微笑を浮かべながらそう告げると、フレアさんは顔を真っ赤にしていた。その事に首を傾げながら、その場を後にした。何か後ろで騒いでいたようだが、詳しくは聞こえなかった。
そして表で待っていた馬車に乗り込んだ。そこでは暇を持て余していたのか、本を読んでいるゾーネさんがいた。俺が戻ってきたのを確認すると、エイなんとかが馬車を動かし始めた。
「まったく、貴様のせいで余計な時間を食ってしまったじゃないか」
「しょうがないだろ。っていうか、お前だって忘れてたじゃないか。俺のせいにばっかりするの止めろ」
「ぬ……だが、しょうがないじゃないか。普通、身分証も持っていないとは思わないだろう?」
「俺が普通じゃないのは重々承知しているだろう。ほら、さっさと行け」
「だから、偉そうにするなと言っているだろうが!」
「ふふっ。二人は本当に仲が良いですね」
「誤解です!そんな訳ないではありませんか!」
「ごちゃごちゃ騒いでないでさっさと行け。遅れてると思ったのなら尚更な」
「ぐぅ……分かっている!」
エイなんとかが歯噛みしながら、馬車を動かしだした。ゾーネさんはそんな俺たちのやり取りに苦笑を浮かべ、俺はその両方を無視して手元に本を取り出して読みだした。
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