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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
始まりの龍森
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変化の前兆

「ガツガツ……ムシャムシャ……」


 黒龍に救われた日から更に翌日。がっつりと眠ったおかげか、疲労も大半が消えてなくなっていた。そして食事を取って魔力をさらに回復しようと食事をしようとしたのだが、黒龍が拾ってきた奴の方ががやたらと食いまくってる。

 こいつ、誰だか知らないけど遠慮なさすぎだろ。疲れてるのかなんだかよく分からないが、家主よりも多く食べる上にしかもまったく遠慮してない。一体何様なんだよ、こいつは。


「ふぅ……満腹です。美味なる料理、大義です」


 その言葉を聞いた瞬間、思いっきり拳を振り下ろした。家にある食糧を食っておきながら、なんでこんなに偉そうなんだよ。普通は家主に遠慮するのが当たり前だろう。そうでなくても、もうちょっと殊勝な言い方ってもんがあるだろう。


「……何をするんだ、貴様は!」


「偉そうだから殴っただけだよ。それがどうした。大体、お前誰だ?いきなり来るなり、食事を提供しろとか偉そうにしてんじゃねぇよ。森に放り出すぞ」


「わ、私は……ゴホン。私はシリウス騎士団所属、エイルーナ・クリスタベル。今回はゾーネ・アウグスタ・イシス・エルスティーナ様の探索に来ました」


「……やはり、ですか。どうせ継ぐ気などないのにしつこいですね」


「何を仰るのですか!ゾーネ様はエルスティーナ王家の第二皇女殿下なのですよ!?陛下も皇后様も心配しておいでです。戻りましょう」


 つうか、ゾーネさんって王族なんだ。少なくとも貴族とは思ってたけど、そこまでか。まぁ、俺はそんな事どうでも良いんだけど。迎えが来たって言うなら送ってやるだけだ。どっちにしても俺がこの森から出るようなことはない。そもそも今更都会に興味なんてない。このまま魔導の研究をしながらこの森に骨を埋める。そういう覚悟を既に決めている。

 だが、ゾーネさんはそうではないだろう。戻れる家があるのなら戻るべきだし、こんな危険地帯にわざわざ居続ける理由なんてない。安全な環境を整えるのは大事な事だ。この森が基本的に危険地帯であることに変わりはないしな。


「その上で、ゾーネ様を救った者がいるのなら報酬を賜すとの事です。陛下と謁見の機会が与えられるのです。咽び泣いて喜びなさい」


「はぁ?それ、俺に言ってんのか?御免被る。俺はこの森から出て行く気なんて欠片もないぞ。大体、さっきから何で偉そうなんだ?いい加減にしろよ」


 なんかやたら偉そうに言っているので、強烈なデコピンをくらわせながらそう告げた。そもそも、俺は国家にも誰にも世話になっていない。謁見の機会があろうがなかろうが、俺にとってはどうでも良い事だ。それに陛下って誰だよ。


「なっ……何を言っているのか、分かっているのですか!?陛下の褒美などそうそう受け取る事など叶わないというのに、正気ですか?」


「分かってるに決まってるだろ。あんたこそ、分かってないだろ。俺は物心つく前から、この森で暮らしてきた。だから、俺は王族の世話にも貴族の世話にもなっちゃいない。だから、その陛下とやらが何者であっても、俺には関係ない。それと、なんでお前は助けられた分際でさっきから偉そうな訳?」


「まぁ、ヴィントさんには関係ありませんよね。父上も母上も、国では知らない人なんていないぐらい有名人なんですけどね……」


 そんなもん知るか。たとえどれだけの名君だろうと俺は知らないし、知ったこっちゃない。それに、知っていたとしても行くかどうかは別問題だ。面倒な事になるのが目に見えてる。誰が自分からそんな問題が起きそうな場所に行こうと思うか。

 失礼だろうと何だろうと、俺は必要もないような場所に行く気はない。大体、そんなところに行って貰うような物など何もない。こんな場所で暮らしていれば名誉もなにもまったく役に立たない。褒美をくれるなら飯をくれという感じだ。ここじゃあ、それ以外は何の役にも立たないし。


「し、しかし、絶対に連れてくるように厳命を受けている。それを反故にする訳にはいかない!」


「そんなの、そっちの都合だろ?俺には関係ない。勝手にやってろよ。俺がついて行ってどんな利益があるって言うんだ?何の得もないなら俺は行かんぞ。態々そんな場所まで行くメリットなんて存在しないんだからな」


「うっ……貴様は一体何が欲しいのだ?」


「何もいらん。俺はただここで研究をしていられればそれで良い。あえて言うなら、下手に干渉するな。俺はここで研究さえしていられればそれで良い。お前らがここに来て迷惑をかけられるのはごめんだ。俺はこの場所で骨を埋めると決めているからな」


 婆さんは絶えず外の魔導士や魔女はクソだ、と言っていた。真理を探究する者でありながら、他人の足を引っ張る事にばかり執心しているそうだ。そんな連中に俺の邪魔をされても困る。俺は俺なりの研究をするだけなんだから。


「森の外に送り出すのは別に良い。その程度は俺の負担にもならないからな。だけど、ついて行く気はない。俺は外に興味はないんだ。大体、そういう付き合いは鬱陶しいから要らないしな」


「……ヴィントさん。私は国でとある学園に通う予定なんです。そこでは一応、魔導を専攻しようと思ってるんです」


「それで魔導に興味を持っていたんですか。まぁ、それは良いですけど。それで、何が言いたいんですか?これからする話と何か関係でもあるんですか?」


「その学園には学園の関係者だけが読める、魔法の論文が所蔵されているそうなんです。保存し始めてから今までの論文が保存してあるそうです。父上にその権利を要求する、というのは如何でしょうか?」


「ゾーネ様!?」


「ほう……ちなみにどれぐらいの年月ですか?」


「詳しい年月は覚えていませんが……少なくとも2・300年は経っていたと思います。状態保存の魔法を使っているので、劣化する事もありません。中にはメーア・アルタール様の論文もあったかと」


「婆さんの?それは……ちょっと興味あるかも」


 あの婆さんが若い頃に書いた論文。かなり興味がある。魔法は世界の真理だと謳った婆さんは、一体若い頃に何を夢見ていたのか。見てみたいと思う。それなら別に乗っても良いかもしれない。それに、婆さんが若かりし頃に書いていた論文というだけで面白そうだ。


「なるほど……それは大変に興味があるな。なんにしても、この家にある物以外も読んでみたい。魔法の知識を集めるならそれも良いかもしれないな」


 これからの研究なんてすべて独学でやっていくしかない訳だし。そういう意味では、この誘いに乗る事にメリットはある。そのメリットが塵と化す可能性はない訳ではないが、可能性の話をしても仕方がない。そんな事を言いだしてはキリがなくなるからな。


「……しょうがない。この場はその誘いに乗りましょう。しかし、俺はゾーネさんの顔を立てただけだ。その事を、忘れるなよ」


 俺としては興味ないが、ゾーネさんが言ったから渋々従った。そういう体裁を整えておく。ごちゃごちゃと言われるのを避けるためだ。これで俺がこの家に戻ってくるような事があれば、それはゾーネさんの顔に泥を塗る行為であり、ひいては王族に対する侮辱となる。そんな風に言われるのは防いでおかなければならない。

 こういう予防線を張っておかないと、後々面倒な事になる。まぁ、そういう事も分からんような馬鹿がいる可能性も否定しきれないが。その時は仕方がないと諦めよう。ともかく、これで俺も森の外に出る事が決定したのだった。

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