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輪廻の果てに  作者: あかつきいろ
遥か未来の独唱
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プロローグ

 始まりは一体何だっただろう。それは今でも浮かぶ、俺の生涯の疑問だ。

 その答えは、もう記憶の片隅にすら残っていないほど遠い昔に存在している。つまり、答えを出すことはできないということだ。


 でも、唯一分かっているがあるとすれば。それ以来、俺はこの永劫に続くであろう牢獄に閉じこめられているという事だけ。

 なんで俺が、とかそんな疑問を最初の方には抱いた。だけど、時が経てば諦めもついたし、理解できた事があった。────物事には大した意味などないという事が。


 生きていく事に深い意味なんかない。ただ安穏と普段と変わる事のない日常を送れれば、大抵の事はどうにかなる。世界が滅ぶとか言うならまだしも、日常で起きるような物事にはそこまで深い意味なんて物は存在しない。


 かつて、どこかで聞いた気がする言葉。そう言われた時、当時の俺が何と言ったかは覚えていない。だけど、今ならばその言葉に納得する事もできるし理解することも出来る。確かに、総ての物事には深い意味など存在しない。それを解釈する者が意味を見出そうとするだけだ。

 この世のありとあらゆる生物。それらが生まれてくる事。生きる事。そして────死ぬ事もまた然り。そこには深い意味など存在しないのだろう。


 そこに意味がないと知っているのに。それでも俺は生きている。流されるまま、生きているとも言えないような有り様で、それでも生きているのだ。意志を持っていない、生きた骸のような状態で何を為す訳でもなくただ生きている。


 自慢ではないが、かつての俺が見れば間違いなく殴っているであろう。それぐらい、今の俺は情けないだろう。それを分かっていて、けれどそれを治すような事はしない。いや、出来ないのだ。治す方法など、もはや俺自身にすら分からないのだから。


 顔も思い出も何も覚えていない両親から捨てられ、素性もよく分からん婆さんに育てられた。婆さんの言う事に従って生きてきた。婆さんが死んだ後も、一人で婆さんが残した家を守ってきた。決めた訳でもなく、ただ流されるままに。だって、それ以外に何をすればいいのかよく分からなかったし。

 ともかく、そんな人間としては屑みたいな生活を送ってきた。しかし、万物は流転するという言葉があるように、俺にも転機が訪れた。転機と言うにはちょっとおかしいかもしれないが。


 俺が暮らしていた森の中で、死体のように倒れている女の子がいたのだ。身体中割と擦り傷だらけだったが、意識を失っているだけのようだった。どうしようか悩んだ末、結局俺はその女の子を助けた。


 理由なんて特にはなかった。強いて言うなら、そこに放置して獣が女の子を食い荒らして血の臭いが振り撒かれるのが嫌だっただけだ。まぁ、このまま放置していくのも後味悪いと思ったし。

 家に連れ帰ってから何してんだ、俺は……と自己嫌悪に襲われていたが、助けたものは仕方がない。せめて傷が治るまで面倒を見ようと決めた。どうせ俺にはそれ以外にすることなんてない。一種の暇つぶしとでも思えば良かった。


 それが物語の始まり。これは流されるままに生きる一人の男とそんな男に拾われた少女が出会った事で紡がれ始めた物語だ。この時の俺たちは、まさかこんな事になるとは欠片も思っていなかったのだった。


「あぁ、そうだ。そんな事は欠片も思っちゃいなかったんだ。だって、そんな物を不相応な願いだと思っていたんだから」


 世界に不満があるから、世界そのものを変える。そんな事はガキの戯言、否、それ以下だろう。子供でももうちょっとまともな思考回路をしている。世界を変えるのではなく、自分が変わる。それこそが、賢い人間の在り方という物だろう。

 そういう意味で言えば、俺という存在はどちらかと言えば馬鹿よりなんだろう。自分という物を、どうしても曲げたくなかった。俺は俺なんだという事を、主張していたかった。そんな意固地な性格をしているのに能力だけはあったから、こんな所まで来てしまった。そう――――来てしまったんだ。


「何を言っても取り返しなんてもうつかないってのに……相変わらず女々しい奴だな、俺って」


 一切の光が断たれた空。そして、そこから漏れ出てくる黄金光を見上げながらそう呟いた。そして一度深く深呼吸をする。肺の中に満ちる空気を一度すべて抜き出し、新しい空気を身体に取り込む。身体に新しくエネルギーを満たし、握っていた剣により強く力を込める。


「これが最後なんだ。気張ってやっていこう。あいつらのためにも」


 そのために、もう一度振り返っておこう。俺がここまで来た軌跡とこれからなさなければならない罪業のために――――

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