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死に際少女  作者: しめじ
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第八話

 

濡れた体にふかふかのタオルを滑らせながら、ずぼっとワンピースのような寝巻を被るようにして着るメルヴィンを見た時、佐良は「あ」と声を上げた。


「どしたのー?」


 ふわっと柔らかなメルヴィンのプラチナの髪は、お風呂に入ってぺちゃんこになってしまった。まるで濡れ鼠だ。かなり母性本能をくすぐられるが、今はそれどころではない。


「パジャマ…ない…」


 問題はそれだった。

 さっきアーベルにも確認された通り、佐良には喪服しか手持ちがないのだ。もちろん下着も上下一セットしかない。


「あ、ほんとだ」

「喪服で寝るのはなぁ…でもしょうがないよね…」

「…あるかもー」


 諦めかかった佐良に、メルヴィンは意外なことをぽそっと告げてひとりバスルームを出ていった。…待ってろってことかな。


「しかし…入っちゃったなぁ」


 先ほどのお風呂タイムを思い出す。そう、子供とはいえ異性と混浴である。彼氏とだって入ったことがないのに。

 一番のハードルは、やっぱり脱衣所で服を脱ぐことだった。メルヴィンはさっさと脱いで二匹の魔獣を連れて入って行ってしまったけれど。

 

「きゅー」


 足元でフーシュが体をぷるぷる振った。しゃがみこんでタオルで包み込んでやる。

 結果として、フーシュは濡れなかった。綿菓子が濡れ綿菓子にでもなるのかなと期待していた佐良にとっては残念だ。綿(?)の繊維に撥水加工でもされているかのように、フーシュにかけたお湯はすべてそのまま流れていくのだ。憎いやつめ。


「でも、たのしかったね」

「きゅ!」


 メルヴィンがフーシュとロロを洗い、佐良がメルヴィンを洗い、メルヴィンも最後に佐良を洗ってくれようとしたが、それは辞退して自分で洗った。彼の小さな手はひどくくすぐったいのだ。

 最初は緊張してメルヴィンの体を見ないようにガチガチだった佐良も、最後はリラックスしてお風呂を楽しんでいた。


「あったー」

「あ、メルヴィン」


 メルヴィンは大きめの赤い箱を抱えて戻ってきた。

 箱を開ければ、確かに女性用の衣服や下着が入っていた。


「これね、僕のママの」


 メルヴィンから出た“ママ”という単語に佐良は手を止めた。彼はこの幼さにして、たった二匹の魔獣と暮らしているのだから“ママ”にはやはり違和感がある。


「…勝手に使ってもいいの?」

「うん、もういないから」


 返事は簡潔で単純で、相変わらず無邪気だった。


「…そう。じゃあ、借りるね」

「好きなの使ってね!」

「ありがとう、メルヴィン」


 箱の中身はネグリジェや下着ばかりだったが、どれも大人の女性が身に着けるような華やかなものばかりだった。下着は体を覆う面積がひどく少なく、黒や赤など挑発的なものが多い。ネグリジェも露出面積が広く、透けてるものが大多数だった。

 メルヴィンがこんなに美少年なんだから、きっとお母さんも物凄い美人だったに違いない。そして、スタイルも抜群によかったんだろうな。…じゃないとこれは着れないと思う。わたし絶対似合わない。辛い。


「メ、メルヴィン、恥ずかしいから外出てて?」

「はーいっ」


 お風呂まで一緒に入っておいて、ここで恥ずかしがるのはおかしいだろうか。佐良はメルヴィンをバスルームから出してから、一番地味なものを探して身に着け始めた。


「あ!サラにあってるー!」


 メルヴィンはバスルームの外で待ってくれていたらしい。ドアを開いた瞬間に嬉しい歓声をあげてくれた。


「ほ、ほんと?よかったぁ」


 選んだのは薄桃色のレースがふんだんに使われた下着に、ネグリジェは真っ白のワンピースのような可愛いデザイン。少々胸元が開きすぎな気もするが、これでも一番露出は少ないものを選んだつもりだ。


「これで安心して寝れるね!」

「うん、湯冷めする前にベッドに入ろっか」


 おいで、とフーシュとロロに腕を広げると、二匹は嬉しそうに飛び込んできた。ロロはお風呂が嫌いなようで少し機嫌が悪かったが、もう直ってしまったらしい。自慢の光の翼を緩慢に動かして、首筋ではなくフーシュと同じく腕の中で幸せそうに体を伸ばしていた。


「フーシュはのんびり屋さんで、ロロは気まぐれだよね」

「うん!でもなんでか仲良しなんだぁ」


 階段を上りながら二人でくすくす笑う。

 思い返せば、いつもフーシュの近くにロロが飛んでいる気がする。


「あ、部屋についちゃった」

「ほんとだー」


 階段を上り終えると左に曲がって、それぞれの部屋の前に立った。ドアノブを握ると、ひんやり冷たい。


「じゃー寝よっかぁ」と微笑むメルヴィンに

「うん、寝ないとね」と佐良はうなずいた。

「…ねないの?サラ」

「寝るよ、寝なくちゃ」

「…んー」


 きゅっと右手が温かいものに包まれて、くいっと引っ張られた。高い体温。メルヴィンの手だ。


「一緒にねよー?」


 ああ、こんな子供にばれてしまったのか。

しかし佐良は素直に腕を引かれたままにした。


「…うん」


 楽しい後のひとりは、さみしいものだ。




 

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