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死に際少女  作者: しめじ
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第七話


 意を決して言ったセリフに、アーベルは予想通り固まった。

 ここが異世界かもしれないという可能性は、実は魔獣を見た時に一度抱いていた。そしてメルヴィンが魔法を使った時、確信に近い形で意識したのだった。


「どうしてここの庭にいたのかも分かりません」

「えー!じゃあサキュバスじゃないんだー!」

「だから違うってば」


 声をあげたのはメルヴィンだった。

 なんで声が残念そうなんだろう。


「…サキュバスっておとぎ話のやつか?」


 この話題は食いつかなくてもよかったのに…。


「おとぎ話かは知りませんが、メルヴィンが話してくれました」

「ああ…まぁそう思うのも分からん事はない」

「アーベルさんまで!わたしサキュバスじゃありません!」

「わかってるよ」

「え」

「異世界から来たってのも、正直驚いたが本当みたいだしな」


 メルヴィンが観察していたポットをスッと持ち上げて、アーベルさんはハーブティーのおかわりを入れてくれた。


「信じてくれるんですか…?」


 驚いたのは佐良の方だった。

 こんな怪しい話をこんなに簡単に信じてくれるなんて。

 だけどそんな佐良にアーベルも意外そうに目を丸くした。


「なんだ、気付いてなかったのか」

「サラ、フーシュフーシュ!」

「え、え、なに?」

「最初アーベルにフーシュ渡されたでしょー?」


 メルヴィンが佐良の胸の中で気持ちよさそうにくつろぐフーシュを指さした。ふにゃふにゃだ。


「言ったはずだ、プレリアデビルは思念に敏感だと。考えていることはほとんど読まれていると思っていい」

「そ、そんなに…」


 すり寄ってくるこの綿菓子もどきはそんなに凄いやつなのか…。

 感心してフーシュを見れば返事のように「きゅ!」と鳴いた。

 本当かもしれない…。


「…サラ」

「あ、はい、なんですか?」

「…すまないな、力になれなくて。送ってやれると思ってたけど、ちょっと、それは分からねぇ。国とかにも相談はしてみるな」


 申し訳なさそうに言うアーベルに、佐良は慌てて手を振った。


「いいですいいです!…帰りたいとは思いません」


 フーシュは鳴かなかった。

 当たり前だ、本心なのだから。


「だから、相談なんていいです。気にかけていただいてありがとうございます」

「…ああ、分かった。まぁ困ったことがあったら言ってくれ。俺はいつでも力になる」


 アーベルははっきり言うと、立ち上がって指を弾いた。途端にカップもポットも消えてしまいメルヴィンが不満の声を漏らす。


「アーベル、まだ残ってたよー」

「また持ってきてやるよ」


 黒いジャケットに腕を通しながらアーベルはリビングからさっさと出て行ってしまった。帰るのだろう。

 メルヴィンは彼を「いつもこう」と言っていたけれど、本当に唐突だなぁ…。

 佐良は慌てて後を追う。せめて見送りぐらいはしたい。


「あー…」


 玄関のドアを捻って、アーベルはピタッと止まった。くるりと振り返って佐良と目が合ったかと思えば、またすぐに逸らされた。


「どうしたんですか?」

「いや…あんた服ってそれだけか?」


 それ?とアーベルの視線を追うと、自分が着ているまっ黒な喪服が目に入った。もちろん手持ちはこれしかない。


「…はい」


 少しの間忘れていた家族の死を思い出して、若干声が小さくなってしまった。よく見ると皺が入っているし汚れている。庭で倒れていたからだろう。


「明日の…昼頃だな、空けておいてくれ」

「あ、はい」

「ん、じゃあな」


 佐良はよくわからないままアーベルを見送った。もう外はずいぶんと暗い。彼が見えなくなると佐良は静かにドアを閉めたが、やっぱり鍵が無いってのは不用心だと思う。


「ねえねえサラー」


 ドアとにらめっこしていると、リビングからメルヴィンがトコトコ駆けてきた。彼を追い抜いてロロが佐良の肩にとまる。


「みんなでお風呂はいろー?」

「お、お風呂?!」


 佐良の口から素っ頓狂な声が出た。


「あれ、サラの世界はお風呂なかった?」

「いやあるよ!ある、あるけど…一緒に?」

「うん、僕いつもフーシュとロロと入るんだ。サラも家族になったし、一緒にはいろー!」


 メルヴィンの笑顔は純粋そのもので、恥ずかしがってる自分がむしろ恥ずかしくなってくる。そうだ、見ろ、メルヴィンはこんなに幼い子供じゃないか。これは善意だ。親交の証だ。

 でも仮にも異性だし…男の子だし…男の子とお風呂…。

 

「…いやならいいよ?」

「入る!ぜひ一緒に入ろ!」


 結局、メルヴィンのしゅんとした声に佐良が折れた。

 

「…メルヴィン、フーシュって濡れたらどうなるの?」


 遅れてリビングからやってきた綿菓子を見て気になったことを聞いてみれば「おたのしみ~」とはぐらかされた。


 どうやら腹をくくるしかないらしい。



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