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死に際少女  作者: しめじ
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第四話

 玄関に立っていたのは、麻のシャツに細身の濃紺のパンツを合わせた、一目で男性だと分かるようなしっかりした体格の人だった。

 メルヴィンに連れられて出てきた佐良に、髪とお揃いの鳶色の瞳が大きく開かれる。


「おいおい、誰だよこの美人は」


 戸惑う佐良の代わりに、メルヴィンが嬉々として声を上げる。


「サラだよー、僕の家族!」


 堂々と宣言してくれたメルヴィンに若干ハラハラしつつも佐良は喜びを噛みしめたが、男は呆れたように息を吐いた。


「家族ってお前…昨日はこんな子いなかったじゃねぇかよ」

「さっき家族になったんだもん」

「さっき?どういうことだ?」

「なんか庭にいてね、迷子だったから」

「お前迷子なら人間まで拾うのか…」


 怪訝そうに突っかかる男にメルヴィンは微塵も臆さずマイペースに軽い返事をする。見てるこっちがオロオロするやりとりに、躊躇いながらも「あの…」と口を挟んでみた。


「は、はじめまして。佐良といいます。よろしくお願いします」


 突き刺さる視線が痛い。ぺこりと頭も下げてみると、慌てたように男も挨拶を返してくれた。


「アーベルだ。よろしくな、サラ」


 次に慌てたのは佐良だった。顔が一気に熱を帯びたのが自分でも分かった。

 サラ!

 メルヴィンにしろこの男――アーベルにしろ、ここの人って何で名前を呼び捨てにするんだろう!

 異性に呼び捨てなんて彼氏ぐらいしか経験がないため、免疫のない佐良は分かりやすく赤面した。しかもアーベルは見たところ年が近い。


「…またえらい可愛らしいお嬢さんだな。それに」


 気が抜けたように嘆息したアーベルは佐良の足元を見た。フーシュがふくらはぎに抱き付くように張り付いている。


「そいつがくっついてんだから大丈夫か」

「? フーシュがどうかしたんですか?」


 顔をパタパタ手で仰ぎながら質問すると「まじでこの子どこのお嬢様?」とアーベルがメルヴィンに目線をやったが、メルヴィンは「さー」と適当な返事を返しただけだった。


「はぁ…そいつはプレリアデビルつって、そんな抜けたツラしてるが思念に敏感な魔獣なんだ」

「……?」

「だから、嘘吐いたり、何か企むような人間には懐かねぇってこと。…そんなに懐いてんのも珍しいけどな」

「そうなんですか…」


 ふくらはぎにべったりのフーシュを見れば、腕を伸ばして「きゅ!きゅー」と上目づかいだ。可愛いから迷わず抱っこ。


 それにしても、とアーベルをチラリと伺うとバチッと目が合ってしまった。気まずげに彼の方から先に逸らされてしまう。

 なんだか皆、無駄に美形だなぁ…。この辺の平均がこれだったら肩身狭い…。

っていうか、そうだ、アーベルさんしっかりしてそうだから今のうちに聞いておこう。


「アーベルさん」

 耳をいじっていたアーベルが視線だけこっちにくれる。…ああ、ピアス空けてるんだ。


「ここって、どこですか?」

「…………」


 アーベルはピアスをいじる手をピタッと止めた。


「…あの」

「あ、ごめん。もっかい言って。ちょっと予想の範疇を超えてた」

「ここ、どこですか?」

「……あんた本格的に迷子になりすぎだろ、まずどっから来たんだよ」

「あ…」


 呆れ半分でアーベルが口に出した質問に、佐良は反射的に詰まってしまった。ベランダから飛び降りて気が付いたらここにいた、なんて…信じてくれるのだろうか。

わたしだったら、初対面の人間にそんなこと言われても信じられない気がする。

 そもそも、どうして日本語が通じているんだろう。二人とも日本人の顔立ちには似ても似つかない上、建物も西洋風なのに。

 それにだ。

 ―――わたしは魔獣がいる国なんて知らない。


「あー…メルヴィン!」


 考え込んだ佐良に一瞬アーベルも眉根を寄せたが、迷うように言葉を探した後、ロロと遊ぶメルヴィンに声をかけた。


「なーに?」

「俺は仕事詰まってるから一旦帰るわ。また仕事終わりに寄ってもいいか?」


 メルヴィンは即座に了承したが、「でも」と笑いかけた。

「サラのこといじめないでね?」

「しねーよ、ばーか」

 それに不敵な笑顔で返すアーベルは一瞬リビングに行って、すぐに帰ってきた。

…なにしに行ったのかな。


「じゃあ、またな」


 そう言い残して、振り返らずに玄関からも出て行ってしまう。佐良は呆然と閉じられた扉を見つめた。、


「行っちゃった…」

「うん。アーベルはね、いつもあんなのだよ」


 メルヴィンはたいして気にしていない様子だから、きっとそうなんだろう。


「それより、サラ、ごはん食べよ?」


 空いてる手をメルヴィンが優しく掴んで、リビングへぐいぐい引っ張っていく。


「ごはん?ごはんって…メルヴィン料理できるの?!わたし作ろうか?」

「ううん、アーベルが置いてってくれた。ほら」


 とことこ歩くメルヴィンが指差したのは、リビングの木の机だった。さっきも案内されてやって来たこの場所。

 誓ってさっきは何にも載っていなかった。


「うそ…」


 バスケットに入った様々なパンに、鍋に入ったスープ。ボウルに入った色とりどりの新鮮なサラダに、ベーコン、目玉焼き、マッシュポテトに大小のチーズ。


 どういうことだ。

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