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死に際少女  作者: しめじ
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第三話

 一見小さ目に見えた洋館だが、いざ入ってみるとなかなかの広さがあった。むしろメルヴィンたちだけで暮らすには広すぎたのではないだろうか。

 片腕にフーシュ、肩にはロロを載せた格好で佐良はメルヴィンの小さな手に引かれて歩いていた。家を案内してくれるらしい。一歩踏み出すごとに、床は軽く軋んだ。


 家は全体として木製のつくりだったが、壁には色がついていた。空の青を水で溶かしたような、綺麗な水色だ。


「可愛いおうちだね…」


 思わず佐良がそうこぼすと、メルヴィンの顔はぱぁっと輝く。自分の家が褒められて嬉しいらしい。この子、ほんとに可愛いな。


 一階にはキッチンやそれに隣り合うリビング、トイレにバスルームなんかが並んでいた。小物なんかがどこかレトロで、ヨーロッパの家庭を訪問しているみたいだ。ひそかに感動する佐良に、フーシュが応えるように「きゅっ」と鳴いた。


「二階は部屋なの!サラのへや、どこがいいかなぁ〜」


 玄関に向かい合うように続く階段をメルヴィンはわくわくしたように軽い調子で駆け上った。ロロも佐良の肩から飛び降りてそれに続く。


「僕のへやここー!はやくはやくっ」


 階段を上りきるとそこは廊下の真ん中で、部屋は左右に二つずつ並んでいた。左手奥のドアの前で忙しなくメルヴィンが手を振っている。


「ごめんね、おまたせ。入っていいの?」

「いいよいいよ!どうぞー!」


 やっぱり藍色の花弁が特徴的な陶器のドアノブをメルヴィンは勢いよく開いた。真っ白なベッドが一番に目に飛び込んでくる。机も椅子も木目調のシンプルなものだが、そこらじゅうに散らばるおもちゃの色合いがカラフルで楽しい子供部屋だった。


「はいっ」


 メルヴィンが手にぽすっと置いた四角いロボットが手のひらの中でぎこちなく手足を動かし出す。ゼンマイ式のおもちゃみたいだ。


「サラー、へやどこがいいー?」

「えっと…どこが空いてるの?」

「ここ以外ぜーんぶ空いてるよ!」


 メルヴィンが何気なく言ったその言葉にハッとする。本人は相変わらずニコニコしているが、なんだか、ひどく寂しい言葉に聞こえてしまって。

 飛び降りなければ、自分もあの広いマンションの最上階で…たった一人で暮らさなければならなかったのだろうか。

 

「…サラ?」

「あ、あの、わたし…」

「うん?」

「この隣じゃ、だめ?」


 勇気を出して言った言葉に、一拍おいてから、メルヴィンの満開の笑顔が返ってきた。それが答えだった。


「あのね、うれしい」


 隣の部屋に移動しながらはにかんだメルヴィンに、佐良は無性に泣きたくなって、握った手に力を込めた。


 与えられた部屋に、佐良は客室のような印象をもった。

 水色の壁も、板張りの床と天井も、真っ白なベッドも、木目調の家具も、なにもかもメルヴィンの部屋のものと変わらなかったけれど、それ以外が一つもなかったからだ。整然とした部屋に踏み込んで、佐良はベッドに腰を下ろした。

真っさらな部屋。わたしの部屋。湧き上がる感情の名前が分からない。分からないけれど、感慨深い気分だった。


「きゅ!」


 すると抱えていたフーシュが胸にすり寄り、部屋をくるくる飛んでいたロロもそれを見て胸に飛び込んできて佐良はあたふたする。

 が、突然腕の中にあふれた小さな生き物に、最後は吹き出すように笑ってしまった。これからよろしく、という解釈で合ってるだろうか。


「よろし…」

「あーーー!」


 佐良のささやかな挨拶は、メルヴィンの愕然とした声によってかき消された。


「ど、どうしたの?」

「サラが!サラが初めて笑った!フーシュもロロもずるい!僕も!僕にも笑ってー!」


 そういう事らしい。そういえばずっと肩に力が入りっぱなしだったかもしれない。でも僕にも笑ってって、なんだそれ。


「笑ってって言われたら笑いにくいよ」


 メルヴィンはぷくっとほっぺたを膨らませたが、怖くないしむしろ可愛い。つつきたい衝動に駆られる。ロロはそんなメルヴィンのプラチナの髪にぴょんと飛び乗った。絵本から出てきたように様になっている。


「…じゃあ、呼んで?」

「え?」

「なまえ呼んで?メルヴィンって言って?」


 なんかスイッチでも押してしまったのだろうか。

 突然甘えたになったメルヴィンはベッドによじ登って、二匹を真似るようにすり寄ってきた。上目づかいに怯みながらもメルヴィン、と名前を呼ぶ。


「もっとー」

「メルヴィン、メルヴィン」

「もっともっと」

「メルヴィン、メルヴィン、メルヴィン」

「メルヴィン!いるかー?!」


 優しく、確かめるように。

 やっぱりなんだかんだ子供だし、寂しかったんだろうな。そう思いながら名前を呼んでいた佐良は玄関から聞こえてきた第三者の声にビクッと肩を揺らした。


「あ、アーベルだ。サラもきてっ!しょーかい!」


 すっかり機嫌が良くなったメルヴィンは佐良の手を掴んでベッドから飛び降りる。階段に差し掛かったところで、玄関に立っている鳶色の髪の男の人が見えた。




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