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死に際少女  作者: しめじ
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第二十五話


 サーラ?

 首を傾げてメルヴィンが顔を覗き込んでくるので、佐良は瞬きをひとつした。


「おうきゅう?」

「うん、王宮」

「に、住んでたの?メルヴィン」

「そうだよ」


 ケロリと笑って、メルヴィンは手元のミルクティーにふぅふぅと息を送る。佐良がミルクと砂糖をたっぷり入れたメルヴィン仕様だ。


「すーごく小さな時だけどね」


 今でも十分小さいよ、という突っ込みはあえて口には出さない。

 佐良とメルヴィンは薄暗くなりつつある部屋に灯を点して、リビングに向き合って腰掛けていた。


「でも、どうして王宮に? メルヴィンは王族じゃないんでしょ?」

「うん、だけどママとパパがお城で働いてたから」


 二人揃って王宮仕えって、それものすごいエリートなんじゃ…。


「魔法使いだったんだー」


だった。

 その過去形に、佐良はぴたりと止まった。

 そしてメルヴィンもそれに気づいていた。


「休暇にね、このユノシスに家族で来たんだよ」


 つまり、この青い屋根の洋館は別荘であるらしい。


「でも、狙われちゃったの」

「………」


 頭の中で、わたしは七歳という年齢について考えていた。わたしが七歳の時、こんな風に笑えただろうか。こんな風に話せただろうか。


「パパとママが守ってくれたからね、僕は大丈夫だったんだ。二人とも、僕に大切なものを残してくれたよ」

「大切なもの…?」

「うん、魔力」


 どこまでもメルヴィンは淡々としていた。だけどどこか楽しそうで、しかし佐良にはそれが空元気であり、無理やりの産物であることがわかっていた。


「元々たくさんあったんだけど」


 それはそうだ、なんたってメルヴィンは魔法使いのサラブレッドとも言える存在なのだ。

 きっと死に際、メルヴィンの両親には、我が子に残すものがそれしか無かったのだろう。


「僕ね、今、世界でいちばん魔力もってるんだ」


 不思議なことに、それは自慢でも誇りでもなく、孤独の独白のように聞こえた。


「危ないんだ、僕」


 それはひどく、寂しい声で。


「アーベルは見張りだよ。だからよく来るんだぁ」


 メルヴィンの一つ一つの言葉で、今までの景色がガラリと大きく様相を変える。

 この小さな子供には大きすぎる不自由に、佐良の肌は粟立った。


「…メルヴィン、学校は…?」

「行ったことないんだ。魔力が暴走したら危ないし、魔力の使い方なら行かなくても知ってるから」


 なんとなく、違和感のある言葉の選び方だった。きっと誰か大人に言い含められた借り言葉なんだろう。何回そう言い聞かされて聞かんだろうか。


お友達は?


 その言葉を言う勇気は無かった。それがメルヴィンを困らせるという確信もあった。


「…これが、隠してたこと。ごめんね、サラ」

「…ううん。話してくれてありがとう」


 責める気には、なれなかった。

 それは、言えない…だろう。

 自分のことを危ないなんて言う七歳は聞いたことがない。


「僕、サラのこと聞きたいな」


 おいしそうにミルクティーをすすりながら、メルヴィンは笑って話を変えた。

 だからわたしも、何気無くそれを乗る。


「立花佐良、ハタチです」

「はたち…えっと…んんーと…」


 メルヴィンは一生懸命、指折り指折りを繰り返した。魔法以外は七歳のようで、その光景にどこかほっとする。


「十三さい…?」

「うん、あたり。十三歳、メルヴィンより年上だよ」


 佐良は穏やかに笑ったが、メルヴィンは複雑そうな顔をした。なんだろう。


「好きな食べ物は、ね…ママのごはん、だった」


 さっきのメルヴィンのように、佐良は努めて笑顔で話す。


「嫌いな食べ物はないんだ。味音痴かも」


 ストレートの紅茶を一口含んだ。ほろ苦くて、頭がすっと冴えた気がした。


「ママとパパとお兄ちゃんがいたの」

「おにーちゃん? 」

「うん、三つ離れてた」


 優しくて、頼れて、少しだけ意地悪なお兄ちゃん。こんなにちゃんと真正面から思い出したのは、そういえば初めてだった。


「…もう、いないお兄ちゃん」

「え…? 」

「ママも、パパも、お兄ちゃんも。…いない」


 人に自分の痛みを言うのは、かなり勇気のいる行為だった。

 だけど不思議なことに、自分のなかったで、確かに進んだ感覚があった。


「新しい家族は、メルヴィンとフーシュとロロ」


 わたしたちはその日から、たくさんのことを話すようになった。




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