表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に際少女  作者: しめじ
13/37

第十二話


 お店に入ると、佐良はくるりと回って口を開けた。クリーム色の壁にちりばめられた小花模様に、陳列されたふわふわのドレス。どれもレースやリボンの女の子らしいデザインだ。


「可愛い…」

「でしょ? サラはー…何色が似合うだろ、色白だからなー」


 マリは並んであるドレスをひとつひとつ吟味していて、その光景に佐良はぐっと唇を噛んだ。なんだか、普通の女の子のお買いものみたいだ。


「どんなのがいいとかある? 色とか! 」

「好きな色は…浅葱色」


 頭に真っ先に出てきたのはメルヴィンの姿だった。プラチナの髪に、浅葱の瞳。家で見た、最後の不機嫌そうな視線が忘れられない。

 伏せた佐良の瞳に、マリも何かを感じ取ったらしい。


「浅葱の色がどうかした? 」

「…大事な人の、瞳の色だから」

「サラの大事な人って、アーベルじゃないの? 」

「え?! 」


 思いもよらない質問に佐良は目を剥く。どうしてここでアーベルさんなんだ。


「違うよ! アーベルさんは知り合い! 大事な人っていうのは、家族のことなの! 」


 必死で手を左右に振る佐良に、マリは「なーんだ」と安心したように顔を緩ませた。その表情には思い当たるものがある。


「マ、マリ…」


 躊躇う佐良に、その心の中を見抜いたようにマリは苦笑いした。


「あたし、さっきまでホントに焦ってたんだ。好きな人が、すっごく可愛い女の子と一緒に歩いてたからさ」


 焦っているようになんて、全然見えなかった。


「見たくなかった。ごめんね、アーベルから引き離して…」

「ううん! 」


 佐良はぶんぶん首を振った。眉を下げる赤毛の少女に何を言うのが一番いいのか分からない。だけど、だけど。


「わ、わたし、マリが選んでくれたドレスが着たい!」

「…なんで?」

「『よろしく』って言ってくれたの……嬉しかったの」


 じめじめしたあの世界で、わたしには友達が一人もいなかった。一緒にお店に入って一緒に服を選ぶなんて、以前の佐良には夢のまた夢だ。女の子と名前を呼び合うなんて、もう一生無いと思っていた。


「…あは、あははっ! サラってば顔が真っ赤! 」


 沈黙を破ったのはマリの明るい笑い声だった。


「ばかだね、もう…こんな不器用な子、初めてだよ」

「うぅ…不器用だけど…」

「…あたし食材とか服を買うの大好きなの」

「…? 」


 唐突な自己紹介に佐良は首を捻る。食材っていうのが料理人っぽいなぁ。マリの料理もおいしいに違いない。

 鈍い佐良に、だから、とマリは強く後を続けた。


「今度行くとき、次はサラが付き合ってよ」

「…いいの?」


 次、という単語を頭の中で反芻する。じわっと目に涙の膜が張った。


「いいに決まってるでしょ!」


 あ、だめだ。

 すぐに溢れ出した液体に顔を覆う。

 マリが「お、おおげさよ!」と焦る声が聞こえてきたけど、もう止まらない。背中を撫でる優しい手のひらは逆効果だ。

 頭を流れていく過去で、誰かは舌打ちをし、誰かは教科書を刻み、誰かは無視をした。わたしは必死に存在を消し、お弁当を一人で食べ、毎日逃げるように下校した。


「ありがとう…っ」


 顔をあげて下手くそに笑えば、「美人が台無しよ」とマリも笑ってハンカチで目元を拭ってくれた。


「なにこれーっ!」

「な、なに、どうしたのマリ」


 佐良が泣き止んだ頃、ドレスを物色していたマリが大きな声で叫び出した。手元の黒い革のポーチをのぞき込んで顔をしかめている。あれは…アーベルさんに手渡されてたやつだ。


「これ! アーベルに渡されたお金! 」

「え、それお金だったの?! 」

「そう! すごい金額入ってるんだけど! 予算の都合もあるから確認してみたんだけど、二十着は買えるよ! 」

「に、にじゅう…! 」


 そういえばお金の心配なんて頭からすっかり抜けていたけど、アーベルさん親切すぎじゃないか。そして太っ腹すぎる。


「まぁ今日は五着ぐらいにしとこうか」

「うん、五着でも多いぐらいだよ…」

「足りなくなったら、あたしとまた来ればいいんだしさ! …こら、泣くな」

「な、泣かない…我慢…」


 とりあえず、と渡されたドレス七着を佐良は何が何か分からぬまま試着する。一番最後のは着ていきなと言われ試着室を出ると、もう会計は終わらせてくれていた。さすが手際がいい。


「結局、他の四着はなにを選んだの?」

「家に帰ってからのお楽しみ~」


 最後まで店員は現れなかったし、レジは無人だし、荷物は「宅配した」らしいし、この世界の買い物は分からないことだらけなので、後でアーベルさんにでも聞いてみよう。下着店でも同じ流れで、佐良は何を購入したのか分からないままお店を出た。外は夕暮れの時間だった。


「さてと!行くよ、サラ」

「え? どこに? 」

「あたしの職場」


 語尾にハートマークでもつきそうな調子でマリが笑った。  







 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ