まだ知らない
いつものように目が覚めた。
外は一面雪でおおわれ、布団の中にいながらも寒さを感じる。
「そろそろ起きなきゃ…」
高校生というものになってからもうすぐ二年が経つ。
毎日がかわりばえしないそんな日々、特に楽しいこともないし、だからと言って友達がいないわけでもない。
学校に行って友達とたのしくやってお弁当食べて午後からの授業は貴重な睡眠時間。部活動はマネージャー…って言っても女子バスケのマネージャー。
恋なんて無縁の生活。いい男もいない。
それよりも私自身あまりぱっとしない…悔しいが…。
「ねぇ、楓。…ねぇってば!」
この声は…。
「な、なに?」
いつも休み時間になると隣のクラスから教科書を借りにくる親友、梓。
「次の授業石橋でさぁ、悪いけど教科書貸してくんない?」
お前はどの先生だろうと借りに来るだろ。
「汚さないでよね」
落書きの常習犯である。
「わかってるって!ありがとね!」
梓の鞄のなかは化粧道具やら放課後のデートに着ていくオシャレな服やらで教科書をいれる隙などない。何しに学校来てんだか…。
と言いながらも、少し憧れている。
男うけがよくて彼氏がいないことなんて滅多にない。華やかな人生を送っている。
「私もいい男つかまえないとなぁ…」
放課後…
「楓!ちょっと聞いてよ!」
「何よ梓、私部活あるんだけど」
「もぉー、親友なんだから相談くらいのれってーの。」
「はいはい、で?どしたの。」
どうせまた彼氏にフラれたのだろう。毎度のことである。
「それがさぁ、亮のやつ他に好きなひとができたって」
ほらね、きたよ。
「ありえなくなーい?もぉ、まぢでショック。」
「梓ならまたすぐ彼氏できるって、毎回落ち込むな!」
「まぁ、それもそうだけどー。楓は?好きなひととかいないわけ?」
余計なお世話だ。ちくしょーが。
「私に釣り合う男がいないだけだよ」
決してそんなわけではない。むしろ、私なんかに振り向いてくれる男がいないだけだ。
「楓、もうちょっと真剣に考えてみたら?高校生活なんてあっという間なんだし、恋しないなんてもったいないよ!今しかないよ!?」
たしかに、梓の言うことにも一理ある。
「今は勉強で忙しいの!あ、もうこんな時間!私部活行くから、またね梓!」
「ちょ、ちょっとー!話はまだ…!」
廊下を駆けていく私は少し悲しげな表情をしているに違いない。周りには一緒に下校するカップルばかり。
「はぁ…。邪魔くさい。」
もう、ここまできたらずっと一人を楽しむしかない!一人万歳!彼氏なんか欲しくもない!リア充どっか行け!
「どんっ!!」
誰かにぶつかった。
「いたっ!」「ってーな。」
なんだこのありきたりなシチュエーションは。顔をあげるとそこにはイケメンの運命の人が!?そんなばかな…できすぎにもほどがあ…る?
「大丈夫か?てか、廊下走んなよな」
はい、残念。短足ロン毛の不潔男子。
「ごめんなさい、あっ、急いでるんで失礼します」
私の恋はまだまだ蕾のままですね。憂鬱だわ。
「んだよ、あいつ。ぶつかっといて素っ気ない謝り方しやがって。」
「おい、早く行くぞ」
「あ、待てよ!おい、谷!」
その時はまだお互いのこともなにも知らない二人。