戦闘魔族な私とコンビニ店主な妖精
遅れた二周年記念作品です。
誕生日記念作品です。
魔王さまの力がお強いせいか私の出番はあまりないようだ。
さびしくおもいながら装備を亜空間に転送する。
竜人の青白い鱗が夕日をあびて光った。
今日も魔王さまの周囲には異常も何もなかった……
残業も小動物みたいな魔王妃さまとの時間を邪魔されたくない魔王さまに拒否されたし……
もちろん他の夜勤の武人がつくわけだが……魔王さまに反逆する一族がいたときは仕事が充実していたのに……
久しぶりに日の光のしたでみる魔王城の廊下で思案する。
廊下の向こうに最近できたとか言う売店が見えた。
魔王城も新たなる魔王妃さまの即位でだいぶ変わったな、コンビニとやらに行ってみるか。
うちに帰っても何が待つわけでなし……
殺風景な寮の部屋を思い浮かべた。
コンビニ二四魔王城内支店か……
おでん始めました。
ホットスナック10%引き
新作おにぎり
いろいろな商品がところ狭しと並んでいる。
「下着までおいてあるのか。」
これはいいな。
緊急時に利用させてもらおう。
しかし本当にそんな日が来るのであろうか……平和すぎる日常にため息をついた。
いかん気を取り戻して何か……ああ、靴下まであるな……
私は武人だからな、日常魔法はあまり得意ではない。
母上は結婚できないと嘆かれているが……
生涯一武人としてはいらぬスキルなのだ。
ますます落ち込んだぞ、なにか食い物でも仕入れていこう。
飯類は魔王宮食堂で食えるからな……あのイクラタラコマヨネーズオニギリは気になるが……まあそのうちにして……
唐揚げでも買うか?肴に。
仕事上の癖で酒類は買わず贅沢柚子ソーダのペットボトルを抱えてカウンターをのぞき込んだ。
「饅頭か、それにしてはでかいな。」
透明な棚の中には手のひらサイズよりでかい饅頭が鎮座していた。
「梅アンマンにクーベルチュールチョコまん……かくぎり牛まん……あんこではないのか? 」
私が知ってる饅頭は母上が作ってくれる田舎饅頭くらいだが……
肉まん、ゴマアンマン、カレーまん、ピザマンと皮も黄色かったりオレンジ色だったり桃色だったりしている……基本は白らしいが……
「いらっしゃいませ、中華まんおすすめっすよ。」
軽そうな妖精族の男? がニコニコした。
妖精族は男女区別がつきづらいのだったな。
銀の長い髪がひとつにまとめられ尖った耳に瞳と同じ色のあおいピアスがついている。
魔王様も麗しい方だが……中性的な麗しさだな。
しかし服がな……紺の衿付きの半袖シャツに二四マークで下はシンプルな紺のズボン……似合わない、絶対にすけ感のあるローブとかのほうが似合うだろう……。
上級妖精なんぞ護衛では見慣れてるが……綺麗だ……
「どれが良いのだろうか?」
目移りするな……黒いのもきになるしオレンジのも気になる……。
「おすすめは梅アンマンっす。」
麗しい顔で軽々しく店員は笑った。
本当に麗しいな……
「それを5つ頂こう……」
見惚れて思わず多めに注文した。
まあ、やつらに分ければ瞬間になくなるだろう。
「ありがとうございます。」
妖精族は明らかに営業スマイルで言った。
いいところ見つけた……
「ムー、何買ってきたんだ! 」
「饅頭だ。」
寮に帰ると相変わらずゴミため状態だった。
本当に武人なんぞ……日常生活は役に立たんな。
「先輩、もちろん一人で食べませんよね! 」
キラキラした目で後輩が寄ってきた。
「まあ、分けてもいいぞ。」
私は梅アンマンを一個取り出して残りは共有部分のテーブルに置いた。
昼間掃除が入ってるはずなのになんでここまで汚れるんだ。
「もらいっと。」
「あ、こら先輩を差し置いて! 」
「早い者勝ちですよ〜。」
「このやろう〜。」
たかだか饅頭で闘気をみなぎらせるな。
ため息をついて饅頭を口に含む……
淡いピンク皮のやわらかさとかすかに香る梅の風味のアンコが絶妙だ。
あったかいのがいいな……
また行くか……
「先輩ごちそうさまです。」
「ムー、なぜもっとかっとかん! 」
「自分で買え。」
いつも通り悲喜こもごもだな。
どうしてたかだか饅頭であれだけ闘えるのか……
まあ、うまいがな……
さて……食堂でも行くか。
魔王城は今日も喧騒に包まれている。
橙家の当主が今日もピリピリしているな……
そんなにご自身の娘を魔王妃にしたいのだろうか?
「なんでわからないんだ……」
いつも冷静な橙家当主がブツブツ言っている。
狂えば最悪魔王城消滅が有りうる高位魔族だからな気をつけて警戒せねばか?
「ミゼル様、今度はクラッシックショコラを焼いてきましたわ〜。」
橙家の令嬢アールセイル様が弟君ヤヘツーサ様を引き連れてやってきたな……ヤヘツーサ様、腹をなでてるが大丈夫だろうか?
「あ、あの……」
魔王様に抱き上げられた魔王妃様がブルブル震えた。
「アールセイル、邪魔をするな!」
魔王イルギス様が金の髪を逆立てて威嚇する。
「まあ、横暴ですわ、ミゼル様、すぐに開放いたしますわ。」
アールセイル様が魔王様に攻撃を仕掛けた。
その場に緊張がはし……らない……
いつものことだしな……
一応緊急事態にそなえるか……なんといってもアールセイル様は力的に魔王様とほとんど互角の方だからな……ご本人の性格的に王位簒奪とかはなさらないようだが……残念だ。
「アールセイル! なんていうことを! 」
橙家の当主が慌てて止めにはいろうとしてアールセイル様のシールドに止められとばされたのをヤヘツーサ様が受け止められる。
「さ、ミゼル様、我が家に参りましょう。」
アールセイル様がイルギス魔王様の手から魔王妃様を転送させる……このままではご自宅につれていかれてしまう……
「アールセイル様、そのくらいに……」
私は力を槍に宿らせて前に出た。
「よし、許可する、ミゼルを取り戻せ! 」
魔王様の命がくだった。
「ご覚悟を。」
戦闘の高揚感が体を満たす。
槍を振り下ろした。
「ミゼル様行きますわよ。」
寸前でシールド弾かれて逃げられた。
残ったのは真っ青な橙家の当主と腹を抑えて倒れる寸前のヤーへツーサ様……
そして失われた宝物のぬくもりに茫然自失のイルギス魔王様……
そして闘気を出しそこねストレス満載の私。
「申し訳ございません。」
橙家親子は文字通りひれ伏した。
「ふ、ふふふ覚えてろアールセイル〜、次回は負けん。」
高々と魔王様は宣言した。
多分次回も負けるな……
ああ、戦闘できずにストレスが……
なんか甘いもん食べたいぞ……
帰りに無性に甘いもんが食べたくなってコンビニを覗いた。
「いらっしゃいっす。」
麗しい妖精店主がニコニコお辞儀をした。
「今日も饅頭を買いに来た。」
そう言いながら棚をみる。
ゴマアンマンにするか梅アンマンにするか……クーベルチュールマンにするか……
「ムーさんは本当に甘いもんが好きっすね……女の子みたいっす。」
顔見知りになったユリシス店主がクーベルチュールマンを取り出しながら言った。
「……すまん、私は女なんだ。」
おもわず頭を下げた。
店主が固まった……
「ええ〜!! 竜人なのに華奢だと思ったっす! 」
店主が何故か赤くなった。
俺……変になったわけじゃなかったんすねとつぶやいてる。
「華奢だと……」
そんなこと言われたの初めてだ。
戦闘竜人として同族から筋肉が足らんと言われたことならあるが……華奢はないな。
「あ、すみませんっす。」
店主が慌てて謝った、武人に華奢は悪いっすよねとつぶやく。
「いや……」
私の精進が足らぬということか……
「あ、お詫びにゴマアンマンつけますよ。」
店主がケースから饅頭を出そうと手を上げたのでとっさに抑えた。
店主が驚いた顔をした。
「気にすることはない、私の精進が足りぬせいだからな。」
もう少し筋トレメニューを増やすか……
「なんで華奢だと精進が足りないとなるんっすか?」
店主が怪訝そうにきいた。
「筋肉がたりぬ貧相な身体と言うことだろう。」
母上もあまり筋肉がつかぬ身体をしていたが父上も兄上も筋肉はきちんとついてるから私もつくはずだ。
「ムーさん……そのままで可愛いっす」
店主が私の手を上から握って甘く笑った。
麗しい笑顔に私は少しクラクラした。
「か、可愛くなど……た、たくさん饅頭も種類があるのだな。」
私は恥ずかしくなってプイっと横を向いた。
店主がムーさん俺を萌え殺す気ですねと言いながらてに頬ずりしだしたのであわてて抜き取る。
青白い鱗のある手に残る温もり……
「人界にはもっとたくさんあるっす」
店主がクーベルチュールマンを包みながら微笑んだ。
「そうか、食べてみたいな。」
誤魔化すように手を握ったり開いたりした。
「じゃ、こんど俺と一緒に行きましょうっす。」
店主がニコニコ笑いながら包を渡してくれた。
「……機会があればな。」
饅頭のあたたかさを感じながらやっと言った。
「先輩、それ絶対にデートの誘いですよ。」
後輩のジーがわくわく言った。
からかう気満載だな……
今日も饅頭をたかるべく共有スペースで待ってたとしか言いようがない……
「げ、お前に恋人なんぞできたら、アウスに殺されるじゃねぇか! 」
同僚のティインが不味すぎる……といいながらも饅頭を狙っている。
アウス兄上は魔王軍の中将を任される実力だ、ティインとは幼馴染だが……
「アウス兄上は妹ごときがデートしても気にせぬと思うが。」
それにデートでなく食べ歩きに誘われただけだしな……だが高揚感が隠せない……。
バカ、お前はあいつを知らないんだ〜。
とティインが言いながらクーベルチュール饅頭をもぎ取ってかじりついた。
あ、先輩、ずるいですとジーがあわてて手を出したので仕方なく渡す。
おい、いい加減、自分で買わんか?
「うまいな……」
デートかどうかはともかく是非いつか人界に行きたい……
父上のように魔界軍大将になれば神樹の民や天界との駆け引き出いけるかもしれんな……
軍人といくより麗しい妖精と行く方がワクワクするが……
さて、人化の術の復習でもしておくか、人間に鱗も角も尻尾もないからな……
人界は雑多だと聞いたが……そんなでもないな。
「ここらへんは田舎なんですよ、でも神樹の民はここのあの山に本拠地がありますけど。」
職員の犬獣人がそう言いながら魔界連絡会の窓から見えるハルナ山とやらを指差した。
なんでもいわから生える大樹が世界樹の一部という話だった。
人族は気がついてないらしいが……
お互いに忙しいとのことでここで店主……いやユリシスさんとよべとの依頼だった……ユリシスさんと待合わせたが……
転移の門から麗しき妖精族が現れた。
「ユリシスさん。」
私は頭を下げた。
ユリシスさんが手を軽くふってから眉をかるくじひそめたのが見えた。
「ムーさん、服を買ってからにしますか? 」
ユリシスさんが私を上から下まで見ていった。
「まずいだろうか? 」
私は選択を間違ったろうか……軍服はまずかろうと正装にしたのだが……我が一族の正装の立て襟に腕がよく動く袖無しの長衣に細身のズボンにしたのだが、貧相な腕がみっともないだろうか?
ユリシスさんは上着にシャツに青いズボンだな。
「竜人族の服はこっちのアオザイかチャイナドレスっぽいから目立ちますよ。」
茶色の犬獣人が書類を揃えながら言った。
「……その姿見せたくないっす。」
ユリシスさんが苦笑いした。
やはり貧相だから似合わんか……
「そうか……どこで買えば良いのだろうか? 」
そのまま出ようとするとユリシスさんが亜空間から上着を出して肩にかけてくれた。
「外は寒いっす。」
そう言って私の肩を抱いた。
目の前の通りにすごい勢いで何かが通っていった。
「すごい生き物だ。」
私はいつか捕まえてみようと心に決めた。
「本当に箱入りっすね。」
ユリシスさんがニコニコした。
なんで箱入りだと喜ばれるんだ?
ユリシスさんが案内してくれた服屋とやらでやたら細身なのを褒められたが……貧相なだけだ。
ライダースジャケットに黒いニットの膝丈ワンピースにタイツとショートブーツとやらで戦えるのだろうか?ジャラジャラの腕輪と首飾りは武器の一種のような気もするが……
ユリシスさんはプレゼントすると言って代金を受け取ってくれない……
なにか礼をせねばならんな。
肩をだかれて再び歩きながらいたたまれなくなり話題をふった。
「ユリシスさんはなぜコンビニの店主をやっているのだ。」
明らかに上位妖精族……おそらく緑家の本家のものが魔王城とはいえコンビニ店主をしているとは……
「俺は……弟とちがって宮仕えは向いてないんっす、親父もわかってて魔王様の親友として取り入った事だけで満足何っすけど、周りがうるさいっす……」
ユリシスさんが暗い目をした。
不味い話題を振ってしまった。
「わ、私も全然家事魔法がダメで嫁の貰い手の無いダメ魔族だ、筋肉もつかないしな。」
まあ、スピードで勝負だが……
「ムーさんはダメ魔族じゃないよ。」
いつもと違う口調にどきりとして横を向くと青い綺麗な瞳に見つめられた。
どうしたらいいのだろうドキドキする。
「ありがとう。」
やっと声を絞り出して答えた。
せっかく人間界に行ったのにどんな饅頭食べたか覚えていない。
次回こそきっと饅頭の味を覚えていてみせる。
私は魔界の夜空にそう誓った。
駄文を読んでいただきありがとうございます。