8話:謎の男(イケメン)あらわる!3
多視点にはなりませんでした。
すみません。
本当は桐谷くんの視点が入る予定だったのですが……次回は入ります。
感想をいただけると飛ぶような気持ちになるので、よろしければ書いて下さい。
教室を出た俺は、俺達を見ていた奴を追いかけていた。
「──どこ行く気なんだよアイツは」
なぜ俺はアイツを追いかけて確かめようとしているのか、どうしてアイツの存在に目を瞑りそのまま真星さんとの勉強を続けなかったのか、絶対その方がいいはずなのに。
そんなもどかしい気持ちになりながら、俺は吐き捨てた。
階段を上から下へと降り、一番下の階まで来ると中庭に続く通路に出る。
そこで、アイツの足は止まった──。
少し冷たく感じる風が木を揺らし、俺の気持ちをざわつかせる。
しばしその風の音だけが俺の耳に居座っていた。
アイツは俺の方に向きを変えると、ゆっくり歩を前に進める。
威圧的な目。一歩一歩近付く度に俺は気圧されそうになる。
負けるもんか……。
明らかに好戦的な目で、俺より少し高い位置にある目を見据えた。
コイツにもそれが伝わったのか、ようやく口を開いて一言。
「唯に関わるな」
宣戦布告……か?
今の状況でこの言葉はそうとっていいのだろうか。
「どういうことだ?」
「お前に説明する必要はない。単に俺はお前にこれ以上唯と関わるな、そう言いたいだけだ」
憎し気な目で俺を見下ろし、バッサリと俺の問いを切り捨てた。
何だよ……何なんだよコイツは!
……もしかしてコイツ……真星さんの彼氏じゃないだろうな!?
うわああああああああああ止めてくれー!!
俺の憧れの存在がこんな奴の、こんな奴の彼女だなんて。
でもまあよく見るとイケメンだなコイツ。
スッとした顔立ち、真面目系に少し遊び心を加えた髪型、高身長……ほぼ確定じゃないか。
いや、真星さん本人から訊いてないから確信は出来ないが……ダメだ!
真星さんとコイツが付き合っている図しか浮かばない!
もう泣きたいくらいに……。
◇◇◇
街のイルミネーションが煌びやかに輝く中、男女が二人手を繋いで立っていた。
繋いだ手は二人の体温が密接に絡み合い、互いの気持ちを高めさせる。
すると男の方が決心したように真星さんの方に振り向く。
「なあ唯」
「ん?」
「今日何の日か知ってるか?」
「ううん知らないけど。突然どうしたの?」
「俺がお前に告白する日だ」
男は宣言すると真星さんの背中に腕を回し、ギュッと抱き締める。
頬から伝わってくる男の鼓動。
手を繋いでいた時よりも強く感じる体温。
真星さんの方は男にしっかりと抱き締められて動くことが出来ない。かといって抵抗することもなく、男に身を委ねている。
時間がゆっくりと流れていくようで、周りの景色もしだいに暗くなり、自分達だけに明るい光が当てられるような幻想を二人は抱いていた。
やがて、男の腕がゆっくりほどけていき──
「好きだ唯。俺はお前のことが好きだ! 誰にもお前を渡したくない!」
男は顔を真星さんの顔へともっていく。
彼女の方は徐に目を閉じる。
二人の唇が交じり合い、キスをした。
◇◇◇
止めてくれええええええええええ!!
死ぬほど今、トイレに直行したい。そして吐きたい……。
自分と真星さんなら良かったのに、何でよりによってコイツのことを。
改めて目をキツく細めて、睨みつけてやる。
するとコイツはポケットに手を入れ、こう言った。
「何か不服か?」
「不服に決まってるだろ」
「ほう。好きなんだな唯のことが。だが諦めろ」
「だからそれをアンタに言われる筋合いはない」
「あるね」
自信満々の顔で笑ってくる。しかも生易しい笑いではなく、「理解しろよな」と言い、俺を嘲笑するようなもので……。
「俺は唯の幼馴染だからだ」
◇◇◇
八代くんが去って、教室は静まり返っていた。
彼のいない時間がとても長く感じられ、私は思いを垂れる。
「遅いなー八代くん」
軽く船漕ぎをし、先程の彼が出て行ったのは本当にトイレに行きたかったからどうかについて考えてみることにした。
しかし、考えれば考えるほど嫌なことしか浮かばない。
だって……さっき私……。
『別に大したことじゃないんだけど、急に真星さんがどんな部活に入ってるかが気になってねー。ちなみに俺は文芸部に入ってるよ、週に二回の活動だけど。それで、真星さんは何部に入ってるの?』
八代くんにこう質問されたのに、答えられなかった。
彼に蔑んだ目で見られるのが怖くて……。
形容しがたい苦しみが私の胸を強く縛り付ける。
苦しみから逃れようと私は声を漏らした。
「部活やってないんだもん、私……」
抑えようのない感情が湯水のように溢れ、私の視界を潤ませる。
頬を熱いものが幾度となく流れていく。
「こんな姿、八代くんに見せられないな……」
そう呟いてみるものの、収まる気配がない。
これも、いや何もかも全部あれのせいだ。
◇◇◇
しばらくの間俺の思考は一つの言葉によってフリーズしていた。
『俺は唯の幼馴染だからだ』
コイツはそう言った。
さぞかし幼馴染ということは真星さんとも付き合いは長いだろう。
ますます俺の中でコイツと真星さんとの関係が構築されていく。
「…………あっ!」
俺は思わず声を上げた。
その様子にコイツは顔をしかめ、もう話は済んだと言わんばかりに棘のある声で訊いてくる。
「何か思い出しでもしたのか? まさか反論でもあるのか? もう納得しただろ。それともまだ納得がいかないようなら、もっと非情な現実を突きつけてやろうか?」
「いや、アンタが誰だったか思い出しただけだ。五日前に真星さんと二人で歩いてた奴だろ?」
「五日前……? ほぅ見られていたか。ならもう充分納得できたはずだろ?」
これは好都合とコイツの笑みは深くなる。
だが、俺は真星さんの口から男の名前を聞いたことがない。
どうして俺は今までこのことに気付かなかったのだろう。
もし付き合ってたりしていれば、真星さんの口からコイツの名前が出てくるはずだ。
まあ、真星さんの周りにいる女の子がそれらしい名前を口にして彼女に「幼馴染の彼とはどうなのよー」と言っていたが。
たしか……進藤京……だっけ?
こんな所でまさか真星さんを見続けていたことが役に立つとは思わなかった。
まあ、真星さんが何部に入っているかまでは分からなかったけど。
とりあえずコイツの名前は分かったが、一応確認してみるか。
「アンタ……進藤京って名前だよな?」
「…………そうだけど、何でお前が知ってるんだ?」
不愉快そうに顔を歪め、疑問を投げかけてくる。
普通はそうなるよな。自分が知らない奴──しかもそれが敵であったりすれば。
「たまたまクラスで真星さんの周りにいる女の子がアンタの名前を口にして真星さんに絡んでいたのが耳に入ってきてな」
「……それなら納得だ。フム、俺だけ名前が知れてるのは何か癪に障る。だから一応お前の名前を教えな」
偉そうだなコイツ。
すごくイライラしてくるんだが。
何? 顔が良いからですか?
全くこんな奴がイケメンとは皮肉すぎる話だ。
当然そんなことは口にしない。
こういう奴ってやたらと変なプライドがあるからな。
下手したら有りもしない嘘をでっち上げられて、学校中に広めるかもしれない。
嘘だと否定しても多数に無勢、勝てるわけがない。
そうなったら俺の学校での居場所はなくなり……。
嫌だあああああ! そんなの嫌だああああああああああ!! 学校での真星さんが見られなくなるだろ!!
とまあこんな未来が予想されるからだ。
だから軽く眉をひそめながらも俺は答えた。
「……八代秋葉だ」
「まあ覚えるつもりないから別にいいんだけどね」
コイツ……。
とんでもないことを言いそうになるのを歯を強く噛み締め、両手を思いきり握り締めた。
「アンタがそのつもりならそれで構わない。じゃあ話を戻すぞ」
まだ続けるのか、とコイツが溜息をつくが、俺は構わず続けた。
「で、俺はそういう経緯でアンタの名前を知ったわけで、それが今一致した。でもさ、アンタの名前を真星さんが口にしたの一度も聞いたことないんだけど」
すると途端に彼は目を丸くし、唇が小刻みに震わせる。
しかしすぐに元に戻り、今までで一番の笑みを浮かべた。
「あぁ、そのことね。俺の方から唯に頼み込んだんだ」
「へーどうして?」
俺は頷いて、すぐに疑問を投げかけてやる。
コイツはやけに演技がかった感じで困ったようにし、『言うべきかなー』などとぶつぶつと呟く。
しかし、『言うべき』というのが勝ったのか急に真剣な顔になり一瞬にして身が凍りつくようなことを口にした。
「さすがに唯が俺の許嫁というのが学校にバレたらヤバいだろ?」
もうすぐ500ptになりそうです。
この私の拙作を読んで下さり本当に感謝しています。