7話:謎の男(イケメン)あらわる!2
連続投稿です!
ついに謎の人物が登場しますねー。
果たして彼はどんな人物なのか!?
今後ともこの作品を応援していただければ幸いです!
誤字脱字等あると思うので、よろしければ、お手数ですが感想を書いていただけると助かります。
「…………」
「…………」
俺が座っている自分の席の前には普段授業を受けている時にはいない人の姿があった。
いつも遠くから眺めている結えに、いざ近くに来るとなると迷惑のかからないように気を付けないとな、と気が引き締まる。
しかし、目の前にいる真星さんは顔を曇らせて俯いていた。
気まずい雰囲気が教室中に充満する。
何か言いたいという気持ちは非常に山々なのだが、色々な想いが主義主張を繰り返して言わせようとしない。
幾多もの悩みや煩いが脳に蓄積され、焼き切れそうになると、俺はついに口を開いた。
「じゃあ、始めようか」
「…………そうだね」
明らかに真星さんのテンションが! テンションが下がってる!
『特にどーでもいいことだよ』
今更ながら俺はどうしてこう言ってしまったのだろうか。
つまらない意地を張った結果、このような状況を生み出している。
これでは自分の首を自分で絞めているようなものだ。
まあ過ぎたことをうじうじ言ったって仕方ない。
つまりはここで一発逆転ホームランをかませばいいということだ。ホームランなんて打ったことないけど。
折角切り出したんだ……。
再度完全な静寂に包まれる前に何とかしたい。
だが生憎俺は口が達者な人ではないので、これさえ言えば絶対に大丈夫、というマセた言葉がまるで思い付かない。
なので、とりあえず自分の中で最善と思われる言葉を言うことにした。
「ごめんなさい!」
頭が机に向かってそのままドン、と行きそうなくらいの勢いで、俺はその言葉と共に頭を下げる。
返ってきた答えは半ば予想通りと言えば予想通りで、俺を落胆させるものであった。
「…………どうして謝るの?」
「そ、それは! そ、そ、そ……そのですね!」
「う、うん」
「さっき……な、何を考えていたかというとですね! き、きょおうの晩御飯は何かなーというのを考えてました!」
切に思うことだが、ヒドいなこれは。面接試験とかだったら真っ先に落とされるな。
というか今日って言おうとしたら声が裏返ったのが、自分でもワケわからん。
すると突然目の前の方から笑い声が聞こえた。
「ふふ、八代くんってば顔がリンゴのように真っ赤だよ」
「えっ!?」
指摘され自分の顔に触れてみると、予想外に熱くなっていてやり場のない気恥ずかしさが彷徨する。
そして俺は手で覆い、顔を隠そうとした。
あー! 恥ずかしい! 穴があったら入りたい……。というよりこのままこの世から消えてしまいたい……。こんな俺なんて……こんな俺なんてええええええええええ!!
自分の席を立とうして腰を上げると、彼女の言葉がその行動を引き留めた。
「でも、言いたいことは伝わってきたよ。噛んじゃうところとか頑張って私に伝えようとしてくれているんだなーって。八代くんはただ晩御飯に悩んでただけなのに、私は……」
「真星さん……」
違うんだ。
俺は真星さんに嘘をついているんだ。なのに温かみのある言葉を俺がもらうなんて、果たしていいのだろうか。
むしろごめんなさいというのはこっちの方なのに。
本音を偽りで塗り固めて自分を守ろうとしている俺を見ていると、馬鹿げていて胸糞悪くなってくる。
でも、出来ないんだ。
俺は……。
弱い存在であるから。強い存在ではないから。
だからこそ彼女を騙していることに罪の意識を感じる。
詐欺罪へと至る初期段階だ。
そしたら永遠に彼女を怨嗟の目で、俺がする言動、行動が全て疑われ続けるだろう。
だからどうかこんな俺を許し、嘲笑って下さい……。
「私は……うじうじと悩んだりして、勝手に暗くなったりして……本当に惨めで情けないよね。」
感情が激昂し、彼女の目は涙で潤んでいるのを、彼女は全身を震わせながらも堪えていた。
惨めで情けない……。
それは方だ。真星さんが使うべき言葉じゃない。
だから俺はこう言った。自分もそうなりたいという願いを込めて。
「誰だって悩むよ、そりゃあ。真星さんだけじゃないよ。それにこんなこと言うのも男としてあれかもしれないけど、俺の方がよっぽどどうでもいいことで悩んでいると思う。だから俺は真星さんが羨ましい」
「…………私が羨ましい…………? 八代くんが?」
「そうだよ。俺と違ってちゃんと言葉にして自分の弱さを吐き出すし、隠そうとしない。心の底から強いなーって思えるよ。あー俺も真星さんみたいに強くなれたらなー」
「…………ありがと」
「さあいいかげん始めようか!」
「そうだね!」
いつもの調子を彼女が取り直し、えへへ~と天使の笑顔を浮かべた。
前は気付かなかったことだが、真星さんって笑うとえくぼができるんだな。
新たな発見が出来て歓喜に叫びたい気分だが、歯を噛み締めて押し殺す。
そして咳払いをし、俺は真星さんに質問を投げ掛けた。
「ではまず始めに、真星さんは俺に国語を教えてほしいって言ったんだけど、えっと、その、現代文の方? 古典の方? それとも両方?」
「んー……」
どうだったかなーと、人差し指を口に当てて首を傾げ、視線を斜め上に向ける。
その一つ一つの動作が互いに連動し、思わぬ化学反応を引き起こす。
突然の三段コンボに、俺の心臓は飛び出そうになり、呼吸が苦しくなる。
普通なら狙ってやっていると思いたいところだが、何より相手はあの真星さんだ。狙ってやっているわけない!
彼女の魅力を受けながらも、理性を取り持ち答えをまった。
「両方かな~」
「……そ、そっかぁ……」
「あ! 八代くん。今、絶対私のことバカだと思ったでしょ!」
「思ってない思ってない」
ジト目になり、訝し気な視線を送ってきて、さらにまた軽く頬を膨らませるという合わせ技。
二度目になるが、相手はあの真星さんだ。狙ってやってるわけがない!
今日で絶対寿命縮むな……俺、と思いながら否定した。
しばらくして彼女は合わせ技を解き、「……分かった」と折れる。
ふう、と息を吐き続けようとした時――視線を感じた。しかもそれは嫌な視線。
どこから発せられているのかは直ぐに分かった。
教壇の方の廊下側。
幸いにも真星さんからは死角になっていて、彼女がその視線に気付く様子はない。
そういえば、アイツどこかで見たことがあるような……けど思い出せない。
ふと、真星さんの声が入ってくる。
「どうしたの?」
そうだ、今は真星さんに勉強を教えているんだった。
この時間を有意義に過ごすためにも視線なんか気にするな! 俺。
でも、気になるなー。
真星さんに訊いてみようか。いや下手に彼女を巻き込むわけにはいかない。
そうとなれば……こうしよう。
「別に大したことじゃないんだけど、急に真星さんがどんな部活に入ってるかが気になってねー。ちなみに俺は文芸部に入ってるよ、週に二回の活動だけど。それで、真星さんは何部に入ってるの?」
「…………」
この時俺は自分がした過ちに気づく。
彼女はとらえようのない笑顔を浮かべるだけで、無言のまま俺の質問に答えるのを拒絶した。
つまり俺は彼女の知られたくないことに触れようとしてしまったのだ。
そして俺が先ほど彼女に言った見解も間違っていたことを悟る。
しかし、たとえそうであったとしても俺の中で彼女が強いということは変わらない。
視線がキツくなったのを感じる。
般若のような形相でこちらを睨み付けてくる──アイツ。
確かめなければ……だから……。
「あー真星さんごめん! ちょっとトイレ!」
「え……あ、行ってらっしゃーい」
いきなりのことで戸惑いをみせたものの、すぐにはにかんだ顔になる。
俺はその見送りを受けながら教室を出た。