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3話:八代&真星の日常2

八代がかなり変態になります。


また読みにくいところなどあるかと思いますので、感想等で言っていただけると嬉しいです

 ぼんやりとした視界。

 俺達二人以外誰もいない公園を虚しく頭上の街灯が照らしていた。


 そして俺の目の前に立つ彼女。

 彼女はどうしてこんなにも不愉快そうな顔をしているのだろう。

 両手を軽く握りしめ、彼女は何かを決心したかのように言った。


「……あのね、八代くん……。私に、もう近づかないでほしいの。だから私の前から消えて」


 ──彼女は何を言っているのだろう。

 そんなの──嫌だ。


「……ぃ、ぃ……」


 『嫌だ』。


 一言。たった一言だけなのに、その一言を俺は言えなかった。


 どうして言えないのか、それはおそらく彼女の言葉に気圧されてしまっているからであろう。


「何か言いたいことでもあるの?」

「……」

「ないようだね。じゃあね、八代くん」


 彼女は心なしか悲しそうな顔をして、(きびす)を返した。


「ま、待ってくれ」


 その後ろ姿を追いかけようとするも、深い、暗い闇に足が捕らえられると、すぐさま俺にベットリとまとわりつく。


「なんなんだよこれは、くそっ! くそっ!」


 必死にもがくも、所詮は儚い抵抗。

 やがて闇は俺を包み込んだ。


 狭まって行く視界の中で見える彼女の姿は、はっきりとしていて、まるできらびやかとした輝きを放つダイヤのようである。


 ──あぁ、どうしてこんな風に見えてしまうのだろう。


 そして彼女の隣に突如、現れる男。


 いつだってそうだ。

 彼女と初めて会ってから俺は、俺は……今のように、ただ見つめることばかりしかしていない。


 自分から何かを行動を起こすなどしようとしなかった。

 あるといえば初めて会った時、彼女を助けたことぐらいだ。

 あれ以降、一言も言葉を交わしていない。


 こんなにも俺は彼女のことが好きなのに。


 ──どうして何も出来ないんだ!!


 あぁもし俺があそこにいれたらな……。


 そう思った時には、もう何も見えなくなり、完全に闇へと変わった。




◇◇◇




「あーーーー!!」


 視界は闇から色のあるものへと変わる。

 何度か瞬きして、俺はようやく状況を把握した。


「……なんだ夢かよー」


 一際大きくため息をつく。

 それは先ほどの出来事が()()でなかったことと、すっかり()()だと信じきっていた自分への呆れでもあった。


 俺が今いるのは教室。

 日はまだ高く、窓からは水色の絵の具をそのまま垂らしたかのような何一つ雑じり気のない美しい空が広がっていた。


 それよりも──。


「でもなんで寝てたんだろうな……あっ」


 頭を軽く掻き、そんなことを呟く。

 そして呟き様に目に飛び込んできたのは、驚いた顔をしてこっち見つめる真星さんであった。


 ま、真星さん!? ん……? でもなんか、すごく驚いた顔してるな。

 あ、まさか叫んでたが聞こえてたのかな? 聞こえてましたよね。

 そりゃーもう絵に書いたような起き方、だったんだろうな。


 とりあえず謝った方がいいよね! 謝ろう!


「あ、あの、ま、真星さん! と、突然騒いだりして、その、ごめんなさい!」


 いくらなんでも噛みすぎだろ俺。


「……う、うん」


 うわぁ、絶対引いてるよ真星さん。

 俺なんかに話しかけられて引いてるよ。


 ハッ、もしかしてあの夢って、正夢だったんじゃ。

 すると、この後に男が出てくるということになるんだよな。


 得体の知れない悪寒が俺の背中をなぞった。


 何か補足した方がいいのかなぁ。

 でも、そうしたらそうしたらで余計に気持ち悪いと思われるかも。


 あーもうどうしたらいいんだ!

 こんな時、こういう状況の打開策があったらどんなに嬉しいことやら。


 重苦しい静寂がその場を支配した。

 俺と真星さんが向かい合わせの形になっているのも原因の一つであろう。


 そういえば、真正面から真星さんを見るのって初めて会った時以来だっけ。


 ほんの少し上目遣いで俺を見つめてくるのが、妙にグラッときた。


 ──いつも通り真星さんは可愛いなぁ。


 どう可愛いか、となると上手く表せないが、飾り気のない風貌がより彼女の魅力的に引き立てているだろう。

 それでいてつるっとした潤いのある肌には一度でいいから触れてみたいと思わせる。


 こうして真星さんを見ているだけで、俺は軽くご飯三杯はいけそうな気持ちになった。


 しかし、幸せの時間というものは短く──


「私の方こそごめん!」


 彼女の一言で、この静寂は破られる。

 しかも俺が「どうして?」と()く間もなく、彼女はカバンと学級日誌を持って、そそくさと教室を立ち去ってしまった。


 一人教室に取り残される俺。


「…………最悪だ……。真星さんに嫌われた……」


 形容し難い衝撃が俺を襲う。

 身体は途端に倦怠感で満ち溢れ、今すぐ家のベッドにその身をなげうちたい気持ちになった。


「……帰ろう」


 誰に言うのでもなく、一人そう吐き捨てて、俺はカバンを手に取り教室を出ようとする。


 ちょうど教壇に差し掛かった時──俺は床に何かが落ちているのを見つけた。


 リップクリーム。


 俺はそれを拾い、まじまじと見つめる。


「……間違いない、これは真星さんのリップクリームだ! しかもストロベリーの香り」


 少し前に真星さんといつも一緒にいる女の子があげていたはずだ。

 もしかしてあれは真星さんへの誕生日プレゼントではなかったのだろうか?


 くそっ! 俺としたことが……そんな一大ビッグイベントのリサーチが行き届いていなかったなんて!


 誕生日を祝ってくれなかった。


 だから真星さんに嫌われたのではないだろうか?


 いやないな、それは。


 それよりも逆に俺が真星さんに誕生日プレゼントをあげようというものなら、ドン引かれて先ほどよりも距離をおかれることになるだろう。


 でも一応知っておきたいな……。


 一息ついて話を戻した。


「──さてどうしたものか」


 無論この真星のリップクリームをどうするかである。


「一番は真星さんに直接渡すことなんだけどなぁ。今から真星さんを追いかけて果たして会えるかどうか。もし仮に会うことに成功して渡すにしても、『どうして八代くんが持ってるの?』と怪訝そうな目で言われないだろうか……」


 思わず想像してしまって、俺は全身を強張らせた。

 (かぶり)を振り、その想像を断ち切る。


 しばらく真星さんのリップクリームを見つめていると、何気なしにトンでもないことを呟いた。


「これって、真星さんが使ったんだよな……。もしこれを俺が使えば、真星さんと間接キスしたことに……」


 思わず喉をゴクリと(うな)らせる。

 いつの間にか俺はそのキャップを外し、それを自らの唇に近付けようとした。


 荒くなる呼吸。

 彼女の唇ではなくても、紛れもなくこれは彼女のそれを介したもの。


 リップクリームを持つ手は恐ろしいほどわなわなと震え、行為に及ぶのを妨げようとしていた。


 きっと──きっと、好きな子のリコーダーを舐めてしまうのもこれと同じような気持ちなんだな。

 生まれてこの方、リコーダー舐めたくなる気持ちが理解出来ないとか思っていて本当にごめんなさい。

 今は非常によく分かります。


 俺は震える手をもう片方の手で抑え、自分の唇へと持っていこうとした時──俺の理性が舞い戻ってきた。


「……な、何しようとしてんだ俺はー!」

「ホンとな」


 俺が驚きの声を上げると、それに誰かが反応する。


 まさか見られてた?


 慌てて真星さんのリップクリームのキャップをつけ直す。


 まるで裁判所で裁かれる被告人のような気持ちで恐る恐る声のした方向を見た。


 教壇から見て左側の一番後ろの席に立っていたのは桐谷和也(きりがやかずや)である。


「心配になって戻ってきたら、何してんだ? 八代」

「い、いや別に! 何も! ただリップクリーム拾っただけだよ!!」

「そうか。まぁ、ほどほどにしとけよな。今のは確実にアウトだと思うぞ」

「……そうですね」


 よくやった、俺の理性!


 待てよ……心配になって見にきた? あの和也が?


「なぁ和也」

「何だ」

「心配になって見にきたって言ったけど、俺なんかあったのか? さっきまで寝てて、どうもその前のことがサッパリ抜けてるんだよねー」

「……何もなかったぞ」

「ふーんそうか」


 まぁ、コイツが言うなら何もないだろう。

 それはさておき、


「このリップクリームどうしようかなー」

「普通に紙に落ちてたって書いて真星の机に置いとけばいいじゃないのか?」

「そうだな! ありがと和也」

「はいはいどういたしまして」


 気だるそうに返事をする和也を尻目に俺はカバンから紙とペンを取り出して、『落ちてたよ』と書いて真星さんの机の上に紙とリップクリームを置いた。


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