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25話:君がいない日常に生きる意味なんてない6

自分のペースで頑張っていきます。

 たとえば、現実が嘘になって嘘が現実になったとしたら。


 ある漫画家が夢オチは禁忌(タブー)といったが果たしてそうなのか。

 あくまでも彼は、悪い漫画の描き方として挙げただけであって、全否定をしているわけではない。

 さらに、彼自身が夢オチを多用する漫画家であった故にその負い目からそういう言葉が漏れてしまったのではないか、そうとも考えられる。


 世間一般では彼はポジティヴであったと語られているが、実はネガティヴであったかもしれない。




◇◇◇




 どこかで誰かが呼んでいる気がした。

 どこかで誰かが泣いている気がした。


 そろそろ夕闇が完全な闇へと変わろうとしている頃。


 真星さんの幼馴染み、進藤京(しんどうけい)を前にして、俺は外へと出る。


 すると一台の車が校門前に止まっていた。

 まず目を見張るのは、その車体の大きさである。

 普通車の二台分はあるのではないかと思う。少なくとも一般人である俺とは縁もゆかりもなさそうな代物である。黒光りする車体はへこみ一つ見つからず、新車ではないかと見間違いしてしまうほどの綺麗さであった。

 これを見慣れていない者を威圧し、身分の違いを見せつけるのにはうってつけであろう。


 これだから金持ちは……。


 そう言いかけたが、コイツもわざとやっているわけではなさそうだったので、拳を握るだけに留める。


 ここまで来るのに会話は特になかった。単に話したいことがあるから付いてきてほしいと言われ、渋々ながらも承諾した。


 コイツの執事かなにかか、あごに白いヒゲを生やした黒服のおじいさんが車内から出てきて、俺達にお辞儀をしてくる。


「おかえりなさいませ、京様」


 訂正だ。進藤(コイツ)に、だ。


「おや、こちらのお方はお友達ですか?」


 首を傾げ、アンタの目は節穴か。どこをどう見て俺達が友達に見える。


「そうだよ茂松さん。今日はわざわざ車を出してもらって、感謝する」

「いえいえ京様の頼みとあらばいつ何時と私は参上致します」

「じゃあ行こうか」


 ニッコリと笑顔を向けてくる。やめてくれ虫唾が走る。


 俺は愛想笑いをして返し、見るからに金持ち臭のする車へと乗り込んだ。

 座った途端、俺の全身がずっぽりと沈んでいく。気持ち良いが落ち着かない。


 なんというか、以前進藤を前にしてした妄想と同じ感じがした。

 俺は隣に座り込んできた進藤に声をかける。


「これからどこに向かうつもりなんだ?」


 聞こえていなかったのか、あるいは無視されたのか(おそらく後者であろう)進藤は前にある黒い四角形のものへと手を伸ばした。

 どうやら冷蔵庫のようである。

 進藤はそこからグラス二つとボトルを一本取り出す。ボトルに入った紫色の液体をグラスへと注ぎ、一つを俺の方へと差し出した。

 そのグラスをまじまじと見つめる俺。


 ややあってから進藤は口を開いた。


「俺の家」


 遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてくる。


 これは俺への死刑宣告なんだろうか。


 この胸のざわめきと共に大きくなっていくサイレンの音が変に心地悪かった。

 俺はゆっくりと気持ちを静めつつ、答える。


「目的は?」

「目的? そりゃあお前に唯を諦めてもらうんだよ」

「はい……?」

「お前。今日どうして唯が学校休んだのか分かるか?」

「たまたま風邪で休んだだけだろ」

「へー本当にそう思ってるのか」

「違うとでも言いたげだな」


 明らかに敵意をむき出しにして進藤を()めつける。ゴゴという音と共に、グラスに入った液体が揺れた。


「まぁ着けば分かることさ」


 そう言った進藤の表情は笑顔だった。

 本当にこいつの笑顔は俺の胸をざわつかせるものがある。


 しかし──。


 笑顔のはずなのにどうしてこんなにも翳りがあるのだろうか。


 俺は進藤から目を逸らして車窓の光景に目を遣った。




 ◇◇◇




 やはりというべきか、金持ちの家は違う。

 その大きさ、荘厳さには思わず喉がなった。

 おじいさんが名前を告げると、二メートルぐらいの高さはある門が開いた。

 皮肉ではない素直な感想が口からこぼれ落ちた。


「うちの街にこんな大きい家があるなんて知らなかったわ」

「まぁ少し街外れにあるからな。後、こっちは別荘だ」


 別荘……だと?


 こんなところでリアル別荘にお目にかかれるだなんて思わなかった。実際の家はどれだけ立派なんだよ、と思いかけたが、俺はそこでハッと気付いた。


「ん……ここが別荘なら本当の家はどこにあるんだよ? 少なくともうちの街にはそんな大きい家はないはずだろ?」


 俺も一応地元の人間の端くれだ。これクラスの家があるならば知らないはずがない。


「ああ、だって本当の家は普通だからな」


 さも当然かのように進藤は答えた。

 その後付け加ええた進藤の話によると、権力を無闇やたらにひけらかすな、というのが家訓であるらしい。

 なるほどそういうことか。


 納得がついたところで、俺は本題を切り出した。


「で、こんな別荘まで連れてきて何をする気だよ。はっ、俺を拉致監禁でもしようってか?」

「いやいやそんなことはしねぇよ。まぁそうカリカリすんなって」


 カリカリしないわけないだろ。

 真星さんが休んで、しかもそれが風邪以外の理由だと匂わされて──。


 分からないというのはこんなにも人に鬱を溜めさせるのか。

 で、それを知っているであろう進藤(コイツ)が憎たらしく思えるのは当然といえる。


 車から降り、客間に通され、俺等二人は対面する形でソファに座った。

 気持ち良いが、落ち着かない感触が俺を包んだ。


 進藤は余裕そうな表情を……していない……?


 表情がとても暗い。

 察するに、コイツが今から言わんとしていることは、自身も望んでいないことなのか?


「お前……緑高校って知ってるか?」

「あー隣町にある女子校のことか?」

「そう。あそこにさ、真星が転校するって聞いたらお前はどう思う?」

「どうって言われても……そんなの」


 そんなの。


 俺は言葉を紡げなかった。ただ進藤の前で(こうべ)を垂れて、『嫌に決まってる』と口だけ動かす。

 その気持ちを代弁するかのように、進藤は言った。


「俺は嫌だ。だが、そうせざるを得ない事態が起こったんだ」


 続く進藤の言葉を俺は待った。


「少しばかし昔話をしよう。その方が話が早い。ちょっと付き合ってくれるか?」

「分かった……」




半年以上更新がなく、すみません。

他の著作に影響を受けるのは大事ですが、それと自分の作品とを比較しすぎて勝手に自己嫌悪に陥っていました。


自分の生活に支障をきたさない範囲で更新続けていきます。


あまり後書きに書くのも野暮なので、詳しくは活動報告で、ということで。

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