16話:嵐は突然に
一ヶ月も更新に穴を空けてしまい申し訳ありません。
字数少ないですが、楽しんでいただけたら幸いです。
外ではしとしとと雨が降っていた。朝に見たニュースだと秋雨前線がかかっていたので、恐らくそれの影響だろう。
まるで今の俺の気持ちをまんま表した感じだな……。
頬杖をついて授業内容をノートを取りながら、俺はそんなことを思った。
ちなみに俺の名前は八代秋葉。高校二年生だ。一応文芸部部長をやっている。──俺よりも適任なやつがいるんだけどなぁ……。
これといって特徴はないが、七月ぐらいにやったどこかの全国模試で国語が千番内の順位だったぐらいだ。まあ、まだ二年だから順位は下がっていくと思うけど。うん下がっていってもどうでもいい。特にこだわる気はさらさらない。
それよりも……俺が一番声を大にして言いたいのは……このクラスにいる真星唯(俺は真星さんって呼んでるが)のことが好きだ! っていうことだ。
彼女のことが好きな気持ちは誰にも負けない自信がある。
じゃあ告白しろよ、って訊かれた場合、どう答えるか?
答えは『しない』だ。
だって……だって俺なんかが真星さんに告白したらあああああ! 振られるに決まってるだろおおおおお!
「八代くん大丈夫?」
頭を抱えて机にふさぎこんでいると、遠慮がちな声が耳に入ってくる。
はっとなって声のした方へと振りかえれば、そこには頬の筋肉を引きつらせたクラスメイトが……。
顔が熱くなるのが分かり、俺は再び机にふさぎこんだ。
最悪だぁ……最悪だぁ……。
◇◇◇
「さっき何してたんだ?」
机を境にして対面してる人物に問われ、俺は唇を尖らせた。
「別にいいだろ」
「ふーん、そか。あまり興味ないからいいけど。まぁまた、どうせお前のことだから真星のことでも考えてたんじゃないの?」
箸の先で俺のことを指しながら的確に当ててくる。
喉が詰まった。
「……和也……よく分かったな」
「だってお前の頭の中を真星のことばっかじゃん」
「失礼な!」
「分かりやすいお前が悪いんだろ」
そう言われ、返事に詰まって黙りこんだが、
「……………………小説」
「ん?」
「小説のことも考えてる」
和也の顔を見据え、せめてもの反撃をと、言い放った。
だが、和也はあまり興味なさそうに鼻を鳴らし、弁当を食べだす。
和也──桐谷和也はこういう奴だ。全体的にあまり興味を持たない。枯れているという言葉がこれほどまで似合う人物はそうそういないだろう。
しかし、枯れているからといって冷たいか? というとそうではない。
なんやかんや言いながらも助けてくれたりするので、感謝している。中々口に出しては言えないけれども。
だから俺はコイツのことを親友だと思っている。
真星さんについてあまり触れないのもコイツなりの優しさだろう。それはとても嬉しい。……嬉しいが俺は自分から話題を振った。
「今日、真星さん休みだな」
「そうだな」
こっちの方は向かずに和也は答えた。依然として、箸を弁当箱から口へと動かす動作を続けている。
「それで?」
「へっ?」
てっきり話が終わったかと思っていたので、俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。
「あぁすまない。続けてくると思わなかったからな」
「お前にとっての俺は何なんだ」
「え? 友達?」
「腐れ縁だろうが……」
呆れたと言わんばかりに和也は溜息をついた。
腐れ縁。腐れ縁ねぇ。
自分でも口角が上がるのが分かるほどニヤニヤした顔で、俺は見つめた。
「なんだその顔は。ニヤニヤして気持ち悪い」
「またまたそんなこと言っちゃってー。ホントは違うんだろ?」
「違くない」
「ほら照れてる照れてる」
「……お前さぁ。俺に対しては強気なのに、真星の前だとヘタレだよな」
胸に弓矢か何かが突き刺さるような音がした。
俺は和也から目を逸らして、やり過ごそうとする。しかしコイツはそう簡単に逃がしてくれるほど甘くはなかった。
「後、女子の前とか。まぁ、あいつとあいつは別だけど。さっきの時間とかなー」
「あーそれ以上言うなあああああ!」
身を乗り出して俺は和也の口を塞ごうとする。
「あきくん」
その時、聞き慣れた声がして俺は身を固まらせた。
声のした方向に振り向くと、やはりと思う人物がそこには立っていて、俺はその人物の名前を呼ぶ。
「やっぱりふうだったのか。久しぶりだな」
「……久しぶり」
俺が彼女に目線を合わせようとすると、ひょいとずらしてくる。やっぱ嫌われてんのかな俺って。
ふうと俺が呼んだ人物は桜木風だ。親同士の仲が良く、昔からよく遊んだりもしていた。いわば幼馴染っていうやつだ。
そういえば最近、話してなかったな。忙しいんだろうか。
「なぁ、ふう」
「ん?」
首を捻らせて、彼女は目を丸くした。顔を横に傾けた反動で、彼女で後ろで一つに結った髪が揺れる。
風が頭に疑問符を浮かべる時はいつもする。真星さんと同様で彼女も、無意識に俺の胸を高鳴らせるようなことをしてくるもんだから怖い。
なるべく意識しないように別のことに意識しようと努める。
外で降っている雨がしとしとからザアザアと音が変わり、勢いが増したのが分かる。この状態の雨が続くと、傘は役に立たんかなぁ。
「何か言いにくいこと……なの?」
怪訝そうな口ぶりで言う声がしたので、意識を雨から彼女へと向き直す。
「うんん別に言いにくいことじゃないよ。ただ雨強くなってきたなーってね」
「あー確かに強くなってきたねー。制服がびしょ濡れになっちゃうよ」
「はは」
乾いた笑いで応対する。すると彼女はぷぅと口を膨らませた。
「もーなんで笑うの!」
「ごめんごめん。それで本題に戻るんだが、最近見かけなかったけどどうしたんだ?」
「…………部活」
「部活?」
彼女の言ったことに対し、オウム返しする。しかし、返事はなかった。
下を向いて黙りこくった彼女。
和也の方に「何かしらないか?」という表情を向けてみるも、首を左右に振るだけだった。
それにしても部活って言っただけなのに、どうしてあんなに表情が暗くなったんだ?
俯く彼女に心の中で問いを投げかける。
当り前だが、答えは返ってこない。先程までは全く気にならなかった教室内の喧騒、雨の音がやけに煩わしく感じられた。静かにしてくれ! と叫びたくなった。
刹那。網膜を焼き切らんとするような強烈な光が視界に飛び込んでくる。その数秒後、轟音が耳を貫き、窓を揺らした。
悲鳴が教室内に響き渡る。
しかし、彼女は物怖じせず俯いたままだ。
俺は、思ってることをはっきり口に出す決心をする。唇を引き締め、彼女の頭に手を置く。反応はない。だが、これをすると昔から彼女は落ち着いて話せるようになるのだ。
「部活で嫌なことでもあったのか?」
「そんなんじゃないよ」
肩を震わせてるから泣いてるのだろうか? でも声ははっきりしている。
部活のことじゃないとしたら一体何に? ……俺には分からない。もう長い付き合いなのに俺は……俺は、彼女のことが分からない。真星さんに対してもそうだが。
だから俺は訊くことしか出来ない。こんな時に上手く立ち回れる人が心底羨ましい。
「じゃあ何?」
勢いよく顔を上げ、彼女は教室から立ち去って行った。
泣いていた。目を涙で潤ませて……。
尋常じゃないほど真っ青な顔をしていたと思う。
「……追いかけなきゃ」
とても自分の声とは思えない声音で、言葉を漏らし、俺は風を追いかけた。
新キャラの登場です。
ポニテ女子どうでしょう?