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15話:唯は誰にも渡さない4

 更新遅くなってしまい申し訳ありません!

 1ヶ月ぶりの更新となってしまいました……。


 読者の方々を待たせる結果となってしまい本当に申し訳ない気持ちで一杯です。

 夕刻。

 (ゆい)と別れた俺、進藤京(しんどうけい)は車に乗せられパーティー会場へと向かっていた。


 車内は広く、飲み物やお菓子が用意されている。

 俺はお菓子をひょいと取り上げてつまむ。


 運転しているのは俺の親ではなく、違う人だ。


 年端もいかない当時六歳であった俺は、この人がお金を払って雇われている使用人ということを知るまではまだ時間が必要だった。


「京様、間もなく到着します」

「うん……」


 パーティーは何度か行ったことがあるが、幼い頃の記憶として鮮明に残っているのはこのパーティーだけである。


 車が止まると運転手は降り、俺の座席側のドアを開けた。


「京様、到着致しました。さぁ、お降り下さい」


 慇懃(いんぎん)な振る舞いで運転手は俺に降りるのを促す。

 それに無言で応対し、俺は車から降りた。


「では私はこれで。このまま真っ直ぐに進んでいただければ別の者が応対致しますので」

「うん、分かった」


 深く一礼をして運転手は再び車へと乗り込んで、その場を後にする。


 言われた通りに真っ直ぐ進んでいくと一際豪華絢爛(ごうかけんらん)な建物が姿を現して、入り口には黒いタキシードに身を包んだ人物が六人、左右対称に三人ずつ立っていた。


 その内の一人が俺の存在に気付き、口を開く。


「進藤京様で御座いますね。どうぞこちらへお通り下さい」


 無言で頷き、俺は前を行く黒いタキシードの人に付いて行った。


「こちらになります。仕立てが終わるまで私はこちらにて待っていますので、どうぞごゆっくりと」


 無駄のない綺麗な一礼をし、黒いタキシードさんは笑顔を向けてくれた。

 部屋の中に入ると、いかにもメイクアップアーティストとスタイリストらしい女性が三人いた。


 女性達は俺の顔をまじまじと見つめてパァと顔を明るくする。まるで花が咲いたみたいに。

 三人の中でもリーダー的なまとめ役なのだろうか、髪を後ろにまとめ、一つで結んでいる女性が前に出てくる。


「進藤京様で御座いますね? 私の名前は浅野と申します。ご要望等あるのでしたらそちらを尊重しますが、もしないのでしたら私達に任せていただけませんか?」

「あ、はい。任せます……」


 恥ずかしくなって顔を伏せ気味にそう応える。


「京様って意外とシャイな方なんですね」

「こら止めなさい」

「……はい浅野さん申し訳ありません。ですけど思わず本音がポロリと……京様があまりにも可愛らしいもので……」

「まあ、それは分かりますが……今後は気を付けなさい」

「努力します!」

「…………京様、本当に申し訳ありません。萩原にはキツく言っておきますので、どうか気分を悪くなさらないで下さいませ」


 シャイと言われ、可愛らしいと言われ、頭が混乱しているところに謝罪がきたので、俺はどう返していいか分からなかった。

 そして、これを唯に言ったらきっと笑われるんだろうな、と思い、無性に顔が熱くなった。


「では、そろそろ仕立てをさせていただきますね」

「よ、よろしくお願いします」




◇◇◇




 パーティー会場が日本風ではなく西洋風であったため、俺はディナースーツを着せられた。

 他には女性みたいに髪をセットしたり、顔に化粧したりするのも少しはあったのだが、あまり時間のかかることなく、速やかに終わった。


 部屋を出ると、先程の黒いタキシードさんがいて、俺を誘導する。

 パーティーが執り行われている会場に着くと、先導する黒いタキシードさんは俺の方を向いた。


「私は中には入れませんので、ここからはお一人でパーティーを心ゆくまでご堪能下さい。中にはきっと京様の御夫妻もいらっしゃると思います。何か不都合な点など御座いましたら仰られるとよろしいでしょう。では」


 表情を変えずに淡々と話しきり、一礼をする。

 俺に笑顔を向けると、踵を返してその場を後にした。


 ふぅと一息吐く。

 緊張を落ち着けて扉を開ける。

 会場の中に入ると、そこには沢山に人がいた。

 当然のことながら大人が多く、子供は少ない。

 父さんと母さんはどこかとウロウロしていると、突然声をかけられた。


「ねぇちょっといいかな?」

「はい」


 俺が承諾したのを()いて、相手は嬉しそうな笑みを浮かべた。

 俺に目線を合わせるように、腰を屈める。


 知らない人だ……どうしよう……。


 眼鏡を掛けた知らない男性の突然の登場に俺は困惑させられた。


「君は進藤家の京くんであってるよね?」


 ニッコリと男は微笑み、俺の返答を待っていた。


「えっと、」

「ん、もしかして間違ってた?」

「いえ、合ってます」


 それを聞いて安心したのか、男はそっと胸を撫で下ろした。


「じゃあ、私にちょっと付き合ってくれないかな?」

「あー……はい」


 一体何なんだろう、そう思いつつ俺は男の後へと付いて行った。




◇◇◇




 パーティー会場から出た男と俺は一際静寂に満ちた廊下を歩いていた。

 この先どんなことが待っているのかも俺は知らずに……。


 ふと、男が足を止めた。

 彼の真後ろに付いていた俺は、ぶつかってしまう。衝撃はたいしたことなかったのだが、子供と大人。体格差があるため俺の身体は後ろへ一、二歩よろけた。


「すみません」

「いやこちらこそ。いきなり止まって悪かったね。さぁ京くん、こちらへ」


 男に促されて部屋に入ると、どことなくピンと糸を張りつめた空気を肌に感じた。

 ドアを閉めると、男はその先にある引き戸を引く。

 そしてその部屋にいる誰かに向かって、進藤京様が参られました、と落ち着いた声で告げる。


 こっちに来いと言ってるのだろうか、俺に向けた男の微笑は途轍もない威圧感を含んでいた。行かなければならないのだろう、ここに来てしまったらもう最後。引き返すことは許されないといった感じだ。


 引き戸の敷居を跨いだ瞬間と共に、更に張りつめた、ナイフで身を何度も刺されているかのような緊張感を感じた。


 部屋の中には和服に身を包んだ俺(六歳)と同じぐらいの年の女の子が三人……男を含めて、もう二人、男が壁際に立っている。


 すると俺をここまで連れてきた眼鏡の男が、ここへ座って下さい、と優しい口調で言った。

 無論、座るしか俺の選択肢はない。


 俺と女の子三人が対面するような形になって場はしばし静寂に包まれた。


 この子達はどうしてここにいたのだろうか……。それに俺はこの場に必要だったのだろうか……。

 この場に来た後悔と疑問が絶え間なく俺の頭の中を駆けずり回っていた。


「京様」


 ふと、俺の名前を呼ばれる。



 それは静寂の崩壊を意味し、彼女等三人の戦いの開始をも意味していた。


 俺の名前を呼んだのは、こちらから見て右側の女の子。

 目元がパッチリしていて薄紅色の唇は、可愛さと美しさを同時に表現しているかのようであった。


 しかし、あくまでそう感じただけであって不思議と俺の胸は高鳴らない。

 恐らく俺は比べてしまっていたのだ。






 …………彼女(まほしゆい)と。






 だから俺は無感動な目で彼女を見ていたんだと思う。他の二人も同様にして。


「私の名前は名東玲奈(みょうどうれな)。進藤グループの傘下におりまする名東家の令嬢にて御座います。以後お見知りおきを」


 名東と名乗る女の子に丁寧に頭を下げられたので、俺もつられるようにして頭を下げた。

 先手を取られたと思ったのか他の二人が同時に口を開く。


「「私……」」


 二人は歯痒そうに唇を噛み、ギロッと目を剥いてお互いを見つめ合う。

 すぐお互いの表情は穏やかなものになり、譲り合い合戦が始まった。


 まずはこちらから見て左側から、


「では、西園寺様からお願いします」

「いやいや、ここは浅井様から」

「あら。私、浅井は後でよろしくてよ。私は()()な性格ですので、()()で有名な西園寺様が先でございませんとねー」

「おっと、何を仰られるかと思えばとんだホラを。いえ、実は先が良いとお思いになさってる浅井様からよろしくてよ」

「別に私はホラなんてついた覚えはございませんわ。世間で言われている西園寺様という人物についての事実を言ったまでですわ」

「浅井様の言う世間とはどの様な世間でございましょうか? 所詮は貴方が勝手に作り上げた世間でしょうに。私、耳にしたことがありますよ。貴方はよく、自分の作った空想話を人に語りきかせているって。まぁ、悪くないとは思いますけどね。貴方らしくていいんじゃないですか」

「それがどうしたっていうのですか? 自分の作った話を人に語りきかせることの。五文字以内で説明して下さらないかしら?」

「め、い、わ、く、はい四文字。浅井様が仰られた五文字以内に収まりましたが」

「何ですって!」

「迷惑なの迷惑って言って何が悪いのですか?」

「オホン」


 わざとらしく咳をして、二人の譲り合い合戦から悪口合戦へとなり果てた言い合いを止めたのは名東さんであった。


「お二方、京様がご覧になっている前で見苦しいとは思いませんか?」


 その言葉に二人は言葉もなく、悔しそうに顔を歪めて居住まいを整えた。


「では、ここは京様がどちらが始めるのかを決めたらよろしいのではないでしょうか?」

「え……」

「お二方もそれで異論はなりませんね?」

「京様が決めて下さるのであれば、浅井は……」

「私も……」

「じゃあ京様。お手数ではございますがお願いします」


 キョトンとしている間に勝手に事が進んでしまい、俺はどちらか一方の名前を言わなくてはならない状況に陥ってしまった。


「えっとーー……」


 二人にしきりに俺は目を泳がせる。

 どちらの目も、もの凄い威圧感を放っていて、私を先に! とアピールしているかのようであった。




 怖い。怖すぎだろ!




 決めきれなくなった俺はこの間(六歳の頃)に覚えた『神様の言うとおり』を使うことにした。


 どちらにしようかな神様の言うとおり……


 結果、左側の人に決まった。

 左手を差し出して俺の意を伝える。

 左側の人は満足気な笑みを浮かべて、嬉々として名乗り始めた。


「私の名前は浅井海(あざいうみ)。進藤グループの傘下におりまする浅井家の令嬢にて御座います。以後お見知りおきを。では、最後に西園寺様」


 名東さん同様、丁寧に頭を下げられたので、俺も頭を下げた。

 先程言い争った相手に優越感たっぷりで名前を呼ばれ、不満気な表情見せる。

 だが、瞬時にその表情は明るい笑顔へと変わり、彼女の周りにひまわりでも咲いているのかと思わせた。


「私の名前は西園寺圭香(さいおんじけいか)。お二方とは違って進藤グループの傘下にはおりませぬが、西園寺グループという企業集団のトップを担ってる西園寺家の令嬢にて御座います。ちなみに茶道、華道などを嗜んでおります。以後お見知りおきを」


 言うまでもなく言い終わると彼女も頭を下げたので、俺も頭を下げた。

 しかしまあ、名乗られたはいいものの彼女達の名前しか頭に入ってこない。




 別にいいか。




 そう思い込むことが一番楽なように思えた。どうせもう会うことはないだろうと思っていた俺にとって、彼女達はどうでもいい存在であったのだ。

 この後も彼女達はあれこれと話をしてたのだが、いずれも俺は相槌を打ったり、短い言葉を返すしかなかった。




◇◇◇




「……でね、こういうことがパーティーではあったんだ!」


 パーティーの翌日、俺はいつもの公園で唯に会い、昨日あったことを話した。

 途中顔が無性に火照って、ずっと彼女の顔を見ながら話すことは出来なかったが、約束というものを守れたので嬉しい。

 しかし、彼女は何やら難しい表情をしていた。


「ゆいちゃんどうしたの?」

「いやね、けいくんが話してくれたのって、ひょっとしてお見合いなのかなーって」

「おみあい?」


 そうだ。

 彼女達は俺とお見合いをするつもりで、あそこに集まっていた。

 部屋に入った時に感じたピリピリした感じは、必ず私が俺の結婚相手になってみせる、皆火花を散らしあっていたからだったのだ。


 この後彼女にお見合いの意味を言われるまで、俺はきっとあれが何だったのか、と理解するのにもう少し時間を有していただろう。

 彼女は俺と同じ年であるにも拘わらず、俺よりも色んなことを知っていた。

 彼女と話す度に俺は益々惹かれていった。




◇◇◇




 あっという間に月日は過ぎていき、俺は小学校へ入学した。


 小学校へ入学したのを境に、彼女とは離れ離れになると思っていたのだが、なぜか金持ちの集まる学校ではなく、彼女と同じ学校に入学できたので離れ離れにならずに済んだ。

 しかし、俺はどうにも分からず、父さんにその意を(たず)ねてみると、


「なぁ、京……。お前はあの黒髪の子が好きかね?」


 誰を指しているかは名前を出されずとも分かる。

 俺はコクリと頷いた。


「うん、好き」


 俺に背中を向けていた父さんが、イスをクルッと回して、厳格でしかしそれでいて精悍(せいかん)な顔立ちを見せた。


「好きならばトコトンその子を手に入れようと努力しろ。ただな……」


 父さんはそこで一端言葉を切る。

 そうして溜めた言葉が至極、重量感をもって俺にのしかかった。


「その子の意を必ず尊重しなさい。それと金で人の恋愛感情をもて遊ぶことだけは絶対にするな。我が家の権力を鼻にかけて無闇やたらにひけらかすな。使いどころを見てしっかりと使いなさい」



 ここまで読んで下さりありがとうございました。


 言い訳になっちゃいますが、センターを受けておりました。今後も二次があったりしてまた更新が今回のように遅くなってしまうかもしれませんが、何卒お付き合いしていただけると幸いです。

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