Ⅶ
Ⅳの補足其の三
入学式も無事?に終わり教室に向かう。
クラスは一学年に六クラスと、特別な者達のみが入ることのできるクラス(学年は関係なく、主に生徒会役員や、風紀委員、成績優秀者など、学園のトップが集まる)があり、其々エ-ス(A)・ダイヤ(D)・ハート(H)・スペード(S)・クローバー(K)・ナイト(N)・ジョーカー(J)となっている。因みに僕は1-S。主人公も同じであり、非常に憂鬱だ。僕は溜め息を吐く。
各々が群れを作り雑談を交わす中、窓際の一番後ろの席に座り読書を始める。
嗚呼、退屈だ。雑音が五月蠅い為ヘッドホンを着け曲を流す。
関わるのは苦手だ。独りでいる方が楽。後は碌な人生をおくってこなかった事も原因の一つだろう
僕は転生者だ。前にも聞いたって?だけど其れは僕が私であった時のこと。
まるで百万回死んだ猫のように、僕は生まれ変わり、死んでいった。其れは呪いのようにも思えて、それほどまでに、其の都度鮮明にそれまでの記憶があり、結局は十代の内に死んでいた。このことは鈴は知らないし、話す気もない。これを知っているのはあいつ等だけ。今世にはいるのだろうか。前回は会えないまま終わりを迎えてしまった為分からない。
暫く思考を飛ばしている間に担任が入ってきたようだ。
この「紫音学園」の攻略対象は年齢差があまりない。製作者曰く、ロリコン教師や、二歳以下も年が離れている奴と付き合う主人公など見たくないそうだ。ショタキャラ自体は好きらしいが。その代り、中三でその成績を認められて飛び級で某米国の難関大学を卒業しこの学校の教師として働いている高三や、彼と同期の保健医(彼も同様)などがいる。・・・製作者曰く、二次元なんだから何したっていいでしょ。だそうだ。ストライクゾーンは16歳~18歳。この設定は一部のファンから批判され、色々と叩かれたらしい。別に珍しい訳でもないし寧ろ好感を持てると、賛成派と反対派でサイトが炎上していたのを覚えている。・・・あれは酷かった。そもそも製作者の言い方が悪い。全面的に否定してわざと敵を作る言い回しを使って、まぁそのお蔭か話題になり、売り上げが伸びたのも事実。図ったのかは分からないが製作者は変わり者らしい。
そして、何を隠そう我がクラスの担任は攻略対象というお決まりのパターンになる・・・予定である。実を言うと彼、鏡祢 叶夜は学園の秘密を知ってしまった主人公を監視する為に前任の田村 泰明さん(優しいお爺さん先生)を排除・・・コホン、入院してしまった代わりに引き継ぎ、担任になるのである。嗚呼、カワイソウナ田村さん。
いつの間にかHRが始まっていた。少し思考を飛ばしすぎたらしい。いくつかの諸注意を受けた後のようだ。やけに五月蠅いと思っていたら、どうやら自己紹介を一人ずつやるみたいだ。各々が思い思いの言葉を述べ、自己アピールをしていく。一体此れの何が面白いのか。唯面倒なだけなのに。
一際周りが騒めく。どうやら主人公の番のようだ。
「聖 琥珀です。琥珀と呼んでください!外部生です。趣味はお菓子作りとスイーツ巡りです。よろしくお願いします!」
ウェーブの掛かった長い髪を揺らしぺこりとお辞儀をする彼女の姿は愛らしく、男女ともにクラスの大半が顔を赤らめている。彼女を冷めた視線でみているのは僕ぐらい・・・いや、もう一人いた。まるで興味無いかのように冷ややかな視線を彼女に向ける僕の右隣に座っている男。見る角度によれば深い青にも見える黒髪に、同様の瞳。透き通るような白い肌に整った顔立ちのその男の名は神宮 蒼攻略対象の一人だ。純血の吸血鬼。そう。人外さん。さて、ここで一つの疑問が生じる。なぜ、そんな奴が僕の隣に座っているのだろうか。僕がいまこの席にいるように、最初は席を自由に選んでよいというのがこの学園の方針だ。まあ、席がここしか空いていなかったという可能性もあるし、あまり考えないでおこう。(現実逃避)
「何?俺の顔になんかついてるん?」
似非関西弁のイケボが・・・でわなくて、彼を見すぎていたらしい。
「いや、やけに冷めた目で彼女…聖さんを見ていたから。」
「それはお前も一緒やろ。」
クツリと喉を鳴らしニヤリと笑う神宮。
「なんだ、気付いてたんだ。」
僕も不敵に笑い返す。(ただし、フードに隠れているため相手には見えない。)
「それはそうとフードとらへんの?」
「別に校則違反じゃないし・・・ほら、君の番だよ。」
「ん、ああ。神宮 蒼って言います。内部生やからよろしゅうな。」
彼もまた人を引き付ける魅力があり、女子の大半が顔を赤らめている。わあゆでだこがいっぱい。聖さんは興味なさそうにしている。少し意外だ。それよりも何人か失神しているんだけど…こいつわざとやっていやがる。少しは静かになったかなぁと呟いていた。っと、次は僕の番だ。
「黒城 零香。内部生。」
別によろしくするつもりもないし、僕みたいな地味な奴相手にしないだろうから、必要最小限の事だけ話す。それにほとんどの人が奴のせいで聞いていない。目立ちたくない身としてはラッキーだった。若干聖さんの目が怖かった。異様なほどにキラキラしていた。何あの娘。怖い。神宮に
「冷たいなぁ。短すぎるんとちゃう?」
と言われたが無視した。うん、ヘッドホンて便利だよね。(にっこり)
HRが終わり、各々が自由な時間を過ごしている。もう今日は終わりのため、帰る人もいれば雑談している人もいる。僕は早々に帰宅しようとした。嗚呼、したよ。努力は。
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「あ、あの。黒城さん。」
顔を赤らめて恥じらいながら話しかけてくる彼女。流石ヒロイン。その辺の男ならすぐオチソウダヨ(いろんな意味で)
「何ですか。」
「あ、えと、零香ちゃんて呼んでいいですか?あっ、私の事は琥珀とお呼び下さい。」
「それでですね、先程は本当にありがとうございました。」
本人の意思無視かよ。
「人違いではないですか?それと、馴れ馴れしく呼ばないでください。」
「ああ、友達になって下さい♪」
「どこをどう解釈したらそうなるのですか。お断りします。僕はもう行くので。」
さっきから周りの人達の目線が痛い。
「あ、待ってよ零香ちゃん!」
口調変わりすぎだよ聖さん。
僕は席を立ち、教室を出ようと廊下へと足を向けた。
「どこ行くん零香。」
突然奴に腕をつかまれ、いつの間にか神宮の腕の中にいた。
「っ何するんですか。離してください。」
今の僕の状態は、後ろから抱きしめられるようにして神宮の膝に座っていることになる。もがいても体格差があり動けそうにないし、しっかりと囲われている。
「つれへんなぁ。俺と零香の仲やろ。」
奴はクツリと喉を鳴らし悪戯が成功した子供のような表情で笑い、目を細める。
「さっき会ったばかりではないですか。いい加減に・・・ってちょっと、どさくさに紛れてフード取ろうとしないで下さいよ。」
「別にええやろ。減るもんでもないんやし。」
「よくないです。」
「ちょっと、あ、貴方。何しているのですか!…ずるい(ボソッ)私の零香ちゃんを返してください!!」
「「まだいたんだ(や)」」
・・・この娘ヒロインなのに空気になっているけどいいのかな。ていうかすっかり忘れていた。
「なっ、酷いよぉ。零香ちゃん。親友の私を忘れるなんて。」
何この娘。勝手に親友とか言ってるし、僕達はさっき会ったばかりなのに。どういう思考回路をしているんだ。引くを通り越して怖いんだけど。流石に神宮も引いている。表情にはあまり出してないけど若干笑顔がひきつっている。いいのかよ聖。仮にも攻略対象だぞ。
『神宮。この娘なに。怖いんだけど。』
『俺だってわからんよ。零香の知り合いとちゃうん。』
『僕だってさっき知り合ったばかりだよ。』
『取り敢えずこの場からはなれよか。』
『うん、そうする。だから離して。』
『いやや。』
『なんでだよ。』
『そんなん降ろさんでもこうすれば済むことやし。』
『は、なに言って・・・』
神宮はいきなり僕を横抱きにした。所謂お姫様抱っこというやつだ。周りで悲鳴が上がる。
「おい、降ろせ。神宮。」
「いやや。」・・・こいつ心底楽しそうに笑っていやがる。
神宮はそのまま教室を出て、扉を繋いで人気のない中庭の椅子に僕を降ろした。
「取り敢えず礼を言う。助けてくれてありがとう。もういいからいい加減手を離してもらえるかい。」
「ック、やっぱりお前おもろいわ。また明日な。」
「出来ればもう関わりたくないのだけど。」
「それは無理な話や。なんせ隣りなんやから。」
「チッ。てか離せよ神宮。」
「蒼や。」
「は。」
「俺のことは蒼って呼べ。そうしないと離さへん。」
「子供か。嗚呼もうわかったよ。蒼。また明日。」
「ククッ。ん、またな。」
僕は扉を開き寮の近くに繋いでその場を後にした。
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こんな感じだよ。鈴。もう最悪。
その割には楽しそうじゃの。
・・・まあね。
「のう、零香。扉を繋ぐとは具体的にはどうゆうことなんじゃ。」
「嗚呼、あれはテレポートや瞬間移動にワープを足したようなものだよ。扉さえあれば後はいきたい場所をイメージして繋ぐだけ。あとは自分で扉を作ればどこだって有りだよ。」
と、零香は簡単そうに言っていますが、これはある程度の魔力量と、上級のスキルの上でのことなので、できる人は限られています。また、扉を作るというのは、空間に干渉し、別の空間と繋げるという高度技術のため、一般の人には出来ません。
因みに神宮はできます。後、途中で『』を使って零香と神宮が聖について語っていますが、あれは実際には声に出さずに、リンクして直接話しています。これも上級の方しかできません。神宮と零香はほぼ同等の技術を持っていると言ってもいいでしょう。




