♦千眼ライブラリー♦
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情報がほしい。
まずそう思った。これからの計画において、今の私の情報量では不十分だ。
何も知らなければ、何も始められない。
「行ってみましょうか」
この学園の中で知識のたくさん詰まった場所――――図書館に。
ここの図書館は校舎とは孤立していて、1階に図書館、2階に会議室がある特別棟にある。『学校の図書室』というよりも『公共の図書館』のほうが向いているため、生徒は皆『図書館』と呼んでいるそうだ。
校舎と図書館をつなぐ渡り廊下を歩いていると、意識しないうちに早足になっていた。
図書館にどんな本が眠っているのか。どんな物語が始まるのか。
と、心を弾ませていたのだ。
「いけない、これじゃ」
ふと足を止め、掌で頬を打つ。
――――浮かれてはいけない。ここはもうすぐ、戦場になる……いいえ、私がそうする。
心の弱いものが真っ先に死ぬ世界になる。
だから、こんな風に隙を見せてはいけない。
隙を作ってしまえば……袖に潜む影が、舞台に出て好き勝手暴れるはずだ。
そんな、得体のしれない奴らにも脚本通りに進んでもらうには、私がしっかりしていなければ……。
清楚な雰囲気を漂わせる真っ白な壁に、防音効果の灰色のマット。クリーム色の本棚。小学校や中学校のレトロなイメージを一変させる図書館だった。
そんなことよりも、と私は辺りを見回……そうとした。
けれど、せっかく便利な能力を得たのだから、使わせてもらわないと、ね。
私は瞼を閉じ、強く念じた。
――千里の世界を、この眼に宿せ――
本はとても充実しているようだった。
入口付近のテーブルには最近話題の作家の本や、手作りのポップが置いてあったから、現代小説は完備してあることがわかった。
カウンターの近くにはライトノベルが配置されている。
奥の本棚までざっと見たけれど、一昔前に流行った小説や近代小説、児童用の歴史に関係する漫画まであった。もちろんその他図鑑や辞書など、学習用の本もあった。
そこで、ここは初等部・中等部も利用することに気が付いた。たしかに今全体を見ているうちにも、歳がバラバラの生徒たちが視界に入っていた。
テーブルとイスはひとクラス分くらいあるだろうか、と窓際に立って全体を見ていると。
カウンターに居る図書当番をはじめとして、館内にいるほとんどの人――約十二人分の視線が私に向いていた。
……そんなにおかしい格好かしら? 髪も瞳もいたって普通の色……だと思うし、服装だって校則はきちんと守っている。
まあいいわ、他人の心情なんて考えてもわからないもの……。
そんなことを考えているうちに、絵本コーナーが視界に入った。
絵本。童話。オトギ病。そんなキーワードが頭の中をグルグルと回る。
そして意識しないうちに、口の両端が上がっていた。
「……新しい物語を思いついてしまったわ。さっそく脚本を書き換えましょうか」
一人、誰にでもなく呟いた。
オトギ病に関する本を探したけれど、ほとんど有益な情報はなかった。
理由を推測すると……思春期の間という短い時間だけの病、能力が手に入るだけで体に直接の害はないということ、それから研究するにも子供たちが協力してくれない……といったところかしら。
下校を促す音楽と放送が流れた。いけない、もうこんな時間になってる。時間が流れるのは速い。
準備から本番にかけて、これから時間はないけれど、焦ってしまってはいい物が作れない……なによりも。
“あいつ”に見つかってしまってもいけない。……また今度出直すとして、今日は退散しましょうか。
――――私たちを陥れた“あいつ”との、舞台……『かくれんぼ』の始まり。
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