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ヘイコウオトギカルテット  作者: ミルフィーユ
5/11

♦千眼ライブラリー♦

♦ ♦



 情報がほしい。


 まずそう思った。これからの計画において、今の私の情報量では不十分だ。

 何も知らなければ、何も始められない。

「行ってみましょうか」

 この学園の中で知識のたくさん詰まった場所――――図書館に。


 ここの図書館は校舎とは孤立していて、1階に図書館、2階に会議室がある特別棟にある。『学校の図書室』というよりも『公共の図書館』のほうが向いているため、生徒は皆『図書館』と呼んでいるそうだ。

 校舎と図書館をつなぐ渡り廊下を歩いていると、意識しないうちに早足になっていた。

 図書館にどんな本が眠っているのか。どんな物語が始まるのか。

 と、心を弾ませていたのだ。


「いけない、これじゃ」


 ふと足を止め、掌で頬を打つ。


 ――――浮かれてはいけない。ここはもうすぐ、戦場になる……いいえ、私がそうする。


 心の弱いものが真っ先に死ぬ世界になる。


 だから、こんな風に隙を見せてはいけない。

 隙を作ってしまえば……うらに潜む影が、舞台おもてに出て好き勝手暴れるはずだ。

 そんな、得体のしれない奴らにも脚本通りに進んでもらうには、私がしっかりしていなければ……。



 清楚な雰囲気を漂わせる真っ白な壁に、防音効果の灰色のマット。クリーム色の本棚。小学校や中学校のレトロなイメージを一変させる図書館だった。

 そんなことよりも、と私は辺りを見回……そうとした。

 けれど、せっかく便利な能力を得たのだから、使わせてもらわないと、ね。

 私は瞼を閉じ、強く念じた。

 ――千里の世界を、この眼に宿せ――




 本はとても充実しているようだった。


 入口付近のテーブルには最近話題の作家の本や、手作りのポップが置いてあったから、現代小説は完備してあることがわかった。

 カウンターの近くにはライトノベルが配置されている。

 奥の本棚までざっと見たけれど、一昔前に流行った小説や近代小説、児童用の歴史に関係する漫画まであった。もちろんその他図鑑や辞書など、学習用の本もあった。

 そこで、ここは初等部・中等部も利用することに気が付いた。たしかに今全体を見ているうちにも、歳がバラバラの生徒たちが視界に入っていた。

 テーブルとイスはひとクラス分くらいあるだろうか、と窓際に立って全体を見ていると。

 カウンターに居る図書当番をはじめとして、館内にいるほとんどの人――約十二人分の視線が私に向いていた。

 ……そんなにおかしい格好かしら? 髪も瞳もいたって普通の色……だと思うし、服装だって校則はきちんと守っている。

 まあいいわ、他人の心情なんて考えてもわからないもの……。

 そんなことを考えているうちに、絵本コーナーが視界に入った。

 絵本。童話。オトギ病。そんなキーワードが頭の中をグルグルと回る。

 そして意識しないうちに、口の両端が上がっていた。

「……新しい物語を思いついてしまったわ。さっそく脚本を書き換えましょうか」

 一人、誰にでもなく呟いた。


 オトギ病に関する本を探したけれど、ほとんど有益な情報はなかった。

 理由を推測すると……思春期の間という短い時間だけの病、能力が手に入るだけで体に直接の害はないということ、それから研究するにも子供たちが協力してくれない……といったところかしら。

 下校を促す音楽と放送が流れた。いけない、もうこんな時間になってる。時間が流れるのは速い。

 準備から本番にかけて、これから時間はないけれど、焦ってしまってはいい物が作れない……なによりも。


 “あいつ”に見つかってしまってもいけない。……また今度出直すとして、今日は退散しましょうか。




 ――――私たちを陥れた“あいつ”との、舞台……『かくれんぼ』の始まり。



♦ ♦

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