♠真夜中の遭遇♠
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……よし、こんなもんかな。中々の出来映えじゃん。
アタシは鏡を見つめながらうんうん頷いた。鏡に映ってんのは超絶可憐な女子高生、つまりアタシ。つか、鏡の前に座ってんのはアタシなんだから、映ってんのはアタシに決まってるじゃん! アタシ以外のヤツが映ってたらただのホラーだっつーの。静かな夜、星と月の光が照らす部屋の中にいたのは鏡の前に座る少女。けれど鏡に映っていたのは彼女ではなく――――ではなく何よ、なんなのさ。
ま、そんなくだらない事はひとまず置いておくとして。
アタシが言うのも何だけど、やっぱ美少女って何しても美少女なのね。白い髪は窓から差し込む月の光を反射してキラキラ光ってるし、赤と青の目もいいカンジ。うーん、この可愛さが憎たらしいわー。腹立つわー。殺してやりたいわー。死んじゃうから殺さないけどねっ!
なーんて一人ノリツッコミ。ああ寂しい。でも、ブツブツ独り言呟くよりはマシっしょ? 今ココにいるのはアタシだけだから、頭の中で騒いでても全然ヘーキ。だって、アタシの思考はアタシのターンだから。たとえ誰だろうと邪魔はさせない。思考がぶっ飛んでようが、誰にも理解されなかろうが、そんな事はどうだっていいの。誰かに理解されてもらう為に物事考えてるワケじゃないもんね。せっかく自由なんだから、好きなようにやらないともったいないじゃん。ああ、誰にも指図されずに生きられるってステキ。
さて、鏡相手のにらめっこはこれでおしまい。ったく、支度にどれだけ時間かけてんのって話。ま、一番時間掛けたのはメイクじゃなくて移動なんだけど。寮から部室棟までの距離って長すぎない? 演劇部の部室探すのにも手間取っちゃったしさぁ。不法侵入楽しかったからいいけどね。
支度も終わったし、次はどこに行こうかな。確か、カバンに校内マップ入れておいたハズ。アタシはカバンをガサガサ漁って、しまってあったマップを取り出した。
そうだ、秘密基地が欲しいかも。寮だと寮監とか生徒とかがいるから派手に動き回れないしね。今日は秘密基地探しでもしますか!
秘密基地探しの為に、マップを隅から隅まで舐めるように……見るには室内暗すぎるっしょ! 窓際まで行って月明かりにかざさないと、文字が読めないや。
……あ、ココなんていいんじゃない? アタシの目に留まったのは、ここから少し離れた所にある旧校舎。数年前に使われなくなったっていうから、かなり自由に振舞えると思う。立ち入り禁止らしいけど、アタシの能力なら不法侵入なんて余裕でしょ。戸締りしっかりしてる部室棟にだって入れたんだから、使われてない旧校舎に入るのなんて楽勝すぎる。
そうそう、『旧校舎』と『秘密基地』って魅力的な響きよねん。二つともアタシがロマンを感じる単語ベストトゥエルブに入ってるから、組み合わせとしてはちょうどいいかも。
そうと決まったら早速行動開始。時間は限られてるんだから、有効に使わないとね。
アタシは自分の痕跡を消し始める。つまり散らかした部屋の片づけって事。どこに何があるか判んなかったから散らかすのは仕方ないにしても、アタシゃどんだけ荒らしてんだっつーの。ウィッグが入ってたケースとか、衣装が吊るされてたハンガーとかが床に散乱してる様はまるで台風が通ったような……って、それは言い過ぎか。ま、物は壊して無いから良しとしておこっと。
あ、せっかくだからこのウィッグ貰っちゃおう。こんなにたくさんあるんだから、一つぐらいパクっても問題無いでしょ。
いやー、それにしてもさすが政府公認の名門校。部活の備品一つとってもずいぶん金掛かってるっぽいね。一般公演なんて限られた数しかやらないんじゃないの? それなのに、この衣装や小道具類の数と質のスゴさときたら信じらんない。それだけ部費を貰ってるって事? 他の部活もこんな風に備品が充実してるなら、他の部室も回って、必要になりそうなモノを盗んでくのも悪くないかも。今はまだ秘密基地の用意が整ってないから、時間がある時にでもまた来よっと!
……そんな事考えながら掃除をしてたんだけど、しばらくしたら飽きてきちゃった。
あー、めんどくさい。もう放置プレイでよくね? まだ部屋は散らかったまんまだけど、アタシがいたっていう痕跡は消したから、これ以上アタシが掃除をし続ける義務はないと思う。別にボランティアで部屋を綺麗にしてるワケじゃないしねー。うん、演劇部の皆さんには申し訳ない事をした、なんて一ミリも思ってないから別にいっか! やれるだけの事はやったし!
考えがコロコロ変わる女、それがアタシ。一貫性が無いとか矛盾してるとか、自覚が無いワケじゃ無いけどさ。でもほら、人間って移ろいやすい生き物だし。手のひら返しなんてよくある事だし。アタシは人一倍その傾向が強いってだけ。
アタシとしては、『アタシがこの時間に演劇部の部室にいた』っていう事実さえ揉み消しちゃえば、後はどうでもいい。どうでもよくない事なら一貫してやり続けるけど、どうでもいいならすぐポイしちゃってもアタシは困らない。アタシが困らないなら大丈夫。だから、アタシが掃除をやめて旧校舎に向かっても何の問題も無いでしょ? というわけで、一人脳内会議終了!
いやー、今回も議題内容があっちに行ったりこっちに行ったり、我ながら支離滅裂。一人だからかな? 一人で延々とモノを考えてると中々まとまんないよね。アタシも誰か話し相手が欲しーなー。アタシの計画には人手が必要だしねん。いくらアタシがバトルも支援もイケる能力者でも、さすがに何から何まで一人でやるのはキツいだろうしさ。
でもアタシの場合、たとえ話し相手がいたとしても、そいつがアタシの話についてこられなかったらアウトじゃね? トモダチはよく考えて選びましょう、って事かねぇ。……あれ? 一人じゃ考えがまとまんないからトモダチが必要なのに、トモダチをつくる為にまた考えなきゃいけないの? なんかそれって本末転倒っぽいんだけど。……うーん、難しい。
ま、考えても解んない事考えてたってしょうがないか。仲間集めについては一旦保留にしとこう。必要な時にまた考えよ。今は旧校舎の方が大事だもんね。
アタシはポケットから歪んだ一本の針金を取り出した。元々コレは外に落ちてた針金だけど、アタシが持てばあら不思議。ただの針金が何でもピッキングできる超スゴいツールに大・変・身! だから、この針金がある限り、アタシはどこでも入り放題って事。
旧校舎に入るのにもやっぱりカギって必要かな? 今は使われてないんだから、窓ガラスを割って侵入しても問題無い気がするんだけど。
何かが必要なら、いらない物をあらかじめ用意するの。で、いらない物をアタシの能力でいる物に変えればオッケー。リデュースリユースリサイクル。エコ精神って大事!
演劇部の部室は三階。ぶっちゃけ窓から飛び降りるっていう選択肢もアリよね。外には大きな木があって、枝が窓のそばまで延びてるから、飛び移っちゃえば問題無いと思う。てか、時間を考えるとそうした方が時間短縮になるかも。窓から飛び降りるってカッコいー! ……だけど針金の意味無くない? さすがのアタシも、内側から鍵を掛けるタイプの窓を外側から施錠するようなアイテムは思いつかないし。しょうがない、おとなしく普通に出ますか。部室のカギをちゃんと閉めて、っと。ああ楽しみ!
ガチャリ。
針金で部室棟のカギを閉める。早速旧校舎にレッツゴー。夜の空気ってひんやりしてるわね。もう五月なのにちょっとチキン肌。さっきより気温下がってるんじゃない?
月の光にアタシの姿が照らされて、地面の影がアタシと一緒にるんたった。さすがは草木も眠る丑三つ時。動いてるのはアタシとアタシの影だけみたい。辺りもとっても静かで、レンガの道をカツカツ歩く、アタシの足音だけが響いてた。
マップを見比べながらアタシはてくてく歩いてく。まだ入学したばっかだから、この島の地理とかよく判ってないんだよねー。迷わないで行っけるっかな! 時間無いから、時間のロスはまっぴらごめんなんだけど。
……やっぱ明かりが月と星だけってのも心許ないわね。手元のマップがよく見えないもん。能力使おうか本気で考えちゃうレベル。使わないけどさ。
ふむふむ。このマップによると、旧校舎の方に向かう歩道は無いっぽい。って事は、歩道じゃなくて芝生を歩いていけばいいワケね。で、ここから道を逸れて芝生を横切ればもうすぐ到着、と。
足音がカツカツからサワサワに変わってく。かなり歩いたと思うけど、やっぱり通行人AもBもCもいなかった。ま、こんな時間に旧校舎に向かうようなヤツはそういないだろうし、当たり前っちゃ当たり前か。
歩いていくうちに芝生はだんだん無くなって、その代わりに剥き出しの土が増えていく。アタシが立てる音もサワサワからザッザッになった。さっきまでは木とか花壇とかあったんだけど、それらも数を減らしてるみたい。
……お? ポツンと建物が立ってるのが見える。ところどころ明かりが点いてるけど、もしかしなくてもアレがそうかしらん。場所が判ったなら後はもう一直線するしかない。早く秘密基地を見たいしね。というワケで、旧校舎めがけて猛ダッシュ!
旧校舎を取り囲むように背の高いフェンスが張り巡らされてる。ちなみに有刺鉄線も。学校っていうか要塞っぽいわね。要塞なんて見た事ないけど!
とにかく、アタシが旧校舎の中に入るにはこのフェンスを乗り越えなきゃいけない。どーしよっかな。フェンスがあるなんて知らなかった。
アタシが着てるのは伽護芽学園指定の制服。つまり今、アタシってばスカート履いてるのよね。別に見てるヤツなんかいないし、仮に見られても減るモンじゃないからいいんだけどさ。問題はそこじゃなくて、フェンスを登るのにスカート履いてると登りにくいって事。コンクリの塀じゃなかっただけマシだけど、登ったら制服ズタズタになりそうだしね。ってワケで、フェンスは登りませーん!
「サクッと壊れてくださいな」
有刺鉄線のトゲトゲを避けてフェンスに触れる。『脆弱性』を付加しただけで、フェンスはもちろん有刺鉄線もあっという間にボロボロに。少し押したらあら不思議、崩れ落ちて穴が開いちゃった! アタシが通れるぐらいに穴を広げて、これでカンペキ。
ブロック塀だったら一旦帰ってまた出直すしかなかったけど、鉄製のフェンスで助かった。コンクリを突破するのはめんどくさいもん。その点、鉄製のフェンスならこんな風にあっさり壊れてくれる。そういう意味ではラッキーだったかにゃー?
フェンスの穴を潜り抜けて、旧校舎の敷地内に侵入成功。正面に大きな玄関が見える……けど、カギ云々の問題じゃないわよねコレ。だって、昇降口のドアが半壊してるんだもん。誰かが蹴っ飛ばしたっぽい。外れたドアには埃が積もってる所から察するに、このドアが壊れたのはだいぶ前なのかしら?
一応アタシは周りを警戒しながら、そっと校舎内に入る。……うーん、埃っぽい。あちこちにクモの巣が張ってあるし、廊下の壁にはスプレーで落書きされてた。オマケに上の階からは騒がしい笑い声が響いてる。どうやら掃除が必要みたい。……一人でやるのはめんどくさそうね。あーあ、やっぱ仲間が欲しいなー。
玄関ホールを突っ切って二階に上がる。騒がしい教室発見。明かりと下品な笑い声がダダ漏れよん? ガラリと扉を開けて、
「はぁーいゴミ共。掃除しに来たよーっ!」
中にいたゴミ共はこっちに背を向けて、壁際で半円を描くように立ってた。数十人とちょっとってトコかしらん。これぐらいなら一人でイケそうね。
「あ? なんだてめ……ぐぃあっ!?」
「喋んじゃねぇよカスが」
アタシはそばにあった椅子をゴミその一に放り投げた。よし、頭に命中! あらら、その一ったら白目剥いて倒れちゃった。ついでに教室が一気に静かになって、動揺したのか他のゴミが逃げるように動きだすし。何よ、軟弱ねー。
でもそのおかげで、アタシは壁にもたれかかって座る制服を着た赤い髪の男子に気づいた。ゴミ共は彼を囲んでたみたい。
「てめぇ、コイツの仲間か!?」
赤髪を指さして、ゴミその二がキャンキャン吠えた。
「誰ソイツ?」
赤髪が着けてるネクタイの色はアタシのリボンと同じ青。青は一年の学年色だから、この赤髪はアタシと同学年なのかな。赤髪の制服はところどころ血で汚れてる。そこまで大きなケガはしてないみたいだけど、状況的に見て集団リンチっぽい。
……ああ、だけど。ダメだよダメだよ全然ダメだ。今、ゴミ共は一人残らずアタシに注目してる。狼みたいに目をギラつかせたヤツがすぐ後ろにいるっていうのにさ。
「う゛ぼぉっ!?」
ハイ、赤髪の反撃でーす。赤髪君はその二の急所を思いっきり蹴りました! 女のアタシには解んないぐらい痛いんだろうね。
赤髪は哀れにも這いつくばって転がった、その二を思いっきり踏みつける。アタシの方ばっか見てるからそういう事になるんだよ。
周りのゴミは何にも言えない。完全に黙っちゃってるみたい。闖入者に怯えてるのか、手負いの狼に怯えてるのかは判らないけど。
「オッドアイ、お前のおかげで助かった。礼は言っておく」
「んー、別にアンタを助けに来たワケじゃないけどね。言ってくれるんなら貰っといてやるわ。……で、アタシこれからバトロワに突入したいんだけど、アンタも混ざる?」
「奇遇だな、オレもカチコミだ。そこにいるならお前も対象になるが、容赦ぐらいはしてやるよ」
「あら優しい。アタシは相手がケガ人だろうと本気で叩きのめすけどねっ!」
なーんて、世間話レベルの気軽さで会話しながらゴミを処分するアタシ達。赤髪ってば結構強いじゃん。さっきやられてたのは多勢に無勢だったからかしら。ゴミ処理の半分はアタシが請け負ってるから、その分やりやすいのかも。
滴る血や折れる骨の効果音と悲鳴のコーラスが止んだ頃、教室で立ってるのはアタシと赤髪だけだった。
「お前と戦って無事でいられる気がしねーよ。どうなってんだアレ」
赤髪が視線を向けたのはアタシが処理したゴミの山。結構芸術的な出来栄えで、アタシとしてはとっても満足なんだけど。
「だいじょーぶ、皆まだ生きてるから」
「まだ生きてんのかよ……!?」
「スゴイでしょ。テーマはビックリ人間博覧会!」
「……見た事ねェツラだが、お前オレと同じ一年だろ? 正直、お前みたいな女がいるなんて思ってなかった」
「うーん、そりゃそうだろうね。だってアタシ、今日……じゃなくって、昨日転入してきたんだもん! で、赤髪は何か冥土の土産に欲しいモノある? アンタ中々面白いから、あるなら聞いてやってもいいよ」
赤髪は溜め息をついて、
「お前、名前は?」
「名前? アタシの?」
冥土の土産にしては随分変わってない? そんなモノ訊いてどうすんのよ。……まぁいいけどさ。
「アタシは魔女。魔女って呼んで!」
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