第六話~三度目の私 前編~
一話つもりで書いたら、携帯で見た時すごく読み難かったから前後編にしました。
三度目の私は薬師だった。
今度も一度目の時と同じく孤児だったけど、幸いにも幼少期は孤児院で暮らしてました。普通よりかなり生活基準貧しいけど、食事と寝床があって虐げられないんだから天国だよ。ついに私の時代が来たんだと、この時は人知れずテンションが上がったものだ。
孤児院のお姉さん達から聞いた話、どうやら私は生まれてすぐに孤児院の前に捨てられていたらしい。それもボロっちい箱に、汚れた布に包まれ、臍の緒付き状態で。そのあまりの酷い様を不憫に思った院長が私を拾ってくれたらしいのだ。院長、あんたが神か。
あ、ちなみにこの話は全部盗み聞きだから。
そんな感じで環境には全く問題が無かった。孤児院のお姉さんも院長も良い人だし、孤児院の経営自体もそこまで切羽詰まってないし、子供同士の仲も悪くない。むしろ良いと思う。
しかし、私には一つだけある問題と言うか不安要素があった。
何の問題も無さそうな私の不安の原因。
それは、私の幼馴染である。
一言で言うなら私の幼馴染は美形だ。
陶器のように滑らかな白い肌、光が当たれば青く輝く艶やかな黒髪。吸い込まれそうなほど深い黒曜石のような瞳。今は人形のように愛らしいが、年と共に凛々しさと美しさが増すであろう顔立ち。
将来は絶世の美形になりますね、わかります。
はっきり言って私にとって美形は鬼門だ。美形=死亡フラグなのではと言う考えは最早私の中で確信になりつつある。ここで金やら権力やらが関わってくると、私の死亡率は更に跳ね上がる。絶対に。
そんな私にしてみれば、絶世の美少年が幼馴染だなんて全力でお断りしたい状況だ。そう、本来なら何があっても関わりたくなかった。
だが、しかし!そんな事情を知らないお姉さん達が年が近いと言う理由だけで私に彼の世話を丸投げした。
扶養されている立場で断れるわけもなく、私は言われるがままに彼の面倒を見た。初めは野生動物のように警戒していたが、放置していたら知らない間にすっかり懐かれてしまった。あとはズルズルと関係が続き、結局死ぬまで彼との縁が切れることはなかった。
全部不可抗力だから仕方がない。仕方がないのだ。
美少年が幼馴染なのも、その美少年が生まれたての雛のように私の後について回るのも、殆ど私の傍から離れないのも、全部仕方ないのだから諦めるしかない。
まぁ、このままなら何の問題もないとは思った。例え幼馴染が将来美形になろうとも孤児院を出てしまえば無関係になる。あとは身を隠すなり国外に行くなりすればいい。とりあえず15歳まで生きれていられれば何とかなる。
しかし、それでも不安な物は不安だ。
今までの人生経験上、少しでも油断すると短時間で死亡フラグが5、6個立ってしまうのが私の人生だ。絶対大丈夫という事はなくても、せめて9割は大丈夫と言える状況にしておきたい。控え目に言うなら不安要素は少しでも減ったらいいなとは思う。
だから私は一つの予防策を取る事にした。心の片隅で無駄な足掻きと思わなくもないが、やらないよりはマシになったと思いたい私の策。今までの死亡フラグ建設パターンを思い起こし、考えに考えて私が取った予防策・・・・・・。
それは男の振りをすることだ。
思い返して欲しい。今までの前世で私は超美形の男達と関わり、何の因果か知らないが必ず男女の関係になった。そのせいで昼ドラ展開の当事者になるわ、安眠出来ないわ、体中痛いわ、周囲の同性から嫉妬されるわ等、本当に散々な目にあったものだ。
特に昼ドラ展開。相手が相手だったから良かったものの、もし嫉妬深い相手だったら嫉妬に狂ってえげつない方法で殺されていたかもしれない。
・・・・・・あれ、これ私のせいじゃないよね?なのになんで私だけ死亡フラグ立つんだ。解せぬ。
そんな不満と疑問はさておき、ならばその可能性を芽どころか種から消してしまえと思い至ったわけだ。男と女で間違いが起こるのなら、男と男(偽)という事にしてしまえばいい。
そうすれば死亡フラグは一つ折れるし、同性から嫉妬される事もないし一石二鳥だ。それに年頃になれば同性の幼馴染より容姿の良い異性を取るに決まっている。そうなれば私の死亡フラグは折れたも同然になるだろう。後は波風立てないように人里離れた山奥で仙人のように暮らそうと思う。・・・・・・静かで平穏な日々、自然と動物に囲まれた穏やかな空間、好きな事を好きな時にする自由。・・・・・・いいかも、いや、最高だ。
難点は生涯一人身だと言うことだが、ぶっちゃけた話全然構わない。それで平穏な一生が遅れるのなら恋愛のれの字も私の人生には必要ない。むしろ清々する。
頭の中でこれからの大まかなプランを決めた私は即行動を起こした。
とは言ったものの、別に大々的に何かが変わったわけではない。服装に関しては孤児院という事もあり、男女共通の地味な服だから問題ない。私以外の女児はスカートだったが、それを嫌がった私は特別に男児と同じくズボンを履いていた。多分、この事を知っているのは院長とお姉さんと私より古参の年長の子供ぐらいだろう。
見た目はほぼ男児だったから、一人称を俺に変え、身のこなしを周囲の男児のように振舞ってしまえば私を女と思う者はいない。
最初こそ戸惑っていたお姉さん達も忙しなく入院してくる孤児達の相手に忙しかった為、私の変化は次第に忘れられた。子供達の方も最初こそ遠巻きに見られていたが、いつのまにか男子の一員として受け入れられるようになった。
その頃には幼馴染の私への対応も同性の幼馴染に対するように気安い物になった。未だベッタリと行動を共にしているが、恋愛対象外になり得ただけ良しとしよう。この時は本当に心の底からホッとした。
転機が訪れたのは私と幼馴染が数え年で10歳になった時だった。
その日は孤児院中が朝から慌ただしかった。お姉さん達は孤児院の隅から隅まで埃一つ残さないほどに命懸けで掃除していたし、院長は手の中の書類をありとあらゆる角度から何度も読み返していた。そして子供達は最年長である14歳の少年Aの先導で一つの部屋に集められていた。
しかし、何故か私と幼馴染だけ別行動だった。
子供の群れから引き離された私達はお姉さん達の手によってピカピカに磨きあげられ、余所行きの新品の服を着せられた。この時、女物を着せようとするお姉さん達と断固として抵抗した私の熾烈な争いが勃発したが、それは語らなくても良いだろう。むろんその勝負に勝ったのは私だ。
そして支度を終えた私達はお姉さんに普段は近寄らせてももらえない客室に連れて行かれた。この時点で嫌な予感はしていたんだ。こう、「あっ、フラグ立った。」的な予感が。
殺風景な客室の中には向かいあって設置された高そうなソファーと机が置かれていた。その片方に私達を並んで座らせ、待っているように言うとお姉さんは出て行った。
しばらく無言のままで待っていると、ガチャリとドアが開く音がした。そちらを見た私は物凄く驚いた。多分幼馴染も驚いたと思う。なぜなら、院長と一緒に入って来た人物は本来であれば私達が会う事などあり得ない雲の上の人だからだ。
院長と一緒に入って来た人物とは、なんとこの国の宰相様だった。
唖然とする私達を尻目に、院長はそれはもう丁重に宰相様をもう片方のソファーにエスコートし、自分は私達の隣に座った。そして、宰相様がここに来た訳と私達が呼ばれた理由を話し始めた。
簡単に言えば身分に関係無く優秀な人材を獲得する為に各地から候補者を集い、王宮でそれぞれにあった教育を受けるらしい。その候補者として私と幼馴染の名が挙がったと言うことだ。
確かに幼馴染はこの年で大の大人ですら勝てぬほどの腕っ節が強い。正規の訓練を受ければ更に強くなるだろう。むしろ強さが人間の域に収まるのか、今から不安だ。
かく言う私はこう見えて精神年齢三十路過ぎですからね。ええ、知識とか経験も前世から持ち越しです。前世の事は偶に夢にまで見ますよ、悪夢として。良いのか悪いのか、そんなこんなで何故か神童呼ばわりされてます。プラマイで考えると微妙に嬉しくない。
拒否権は一応あるらしいが、二人とも引き受けて欲しいのだろう。院長も宰相様も期待に満ちた目で私達の返事を待った。幼馴染は珍しく年相応に目を輝かせて行きたそうにしていた。だが、私の方を気にしているのか、すぐに肯定の返事をしなかった。
私はと言うと物凄く悩んでいた。
はっきり言って、これは死亡フラグの一つだ。断言できる。この申し出を受ければ、私は権力に近づくことになり、死亡率は跳ね上がるだろう。それだけではなく、卒院と同時に切れるはずだった幼馴染との縁も切れない事になるかもしれない。
悩んだ。そうれはもう物凄く、これ以上ないくらいに悩みに悩み、そして私は・・・・・・宰相様の申し出を受け入れた。
何故なら、これはまたとないチャンスだからだ。
この時代において教育を受ける為には金だけではなく、身分も必要だった。孤児である私には金も身分もなく、今生において学問を学ぶなど夢のまた夢だ。だから私は今生でこの世界の勉学に触れる事を諦めていた。それが無償とは言い難いが、それに近い形で提供されているのだ。これはもう乗るしかないだろう。