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第四話~二度目の私 中編~

遅くなって申し訳ありません。思いの外長引いたので二度目の人生編は3部構成に変更します。

 

 約10ヶ月を別宅で過ごし、無事に出産を終えると少しの休養期間を経て城に帰還した。そこで私は衝撃の事実を知った。どのくらい衝撃かと言うと、目の前に暗殺者が現れても顔色一つ変えない私が思わず目を見開いてしまうほどの驚くべきニュースだった。



 なんと王に寵姫が出来たのだ。



それを聞いた時、私は喜びのあまり思わず拳を握ってしまったが、表情だけは頑張って変えなかった。うん、当時の私の表情筋は本当にいい仕事をしたものだ。そんな私の動作を勘違いしたらしい侍女が痛ましげな顔をしていた。内心違うんですと思いながら、不審に思われるようなことを言うのもアレなので黙って侍女の話を聞いた。


曰く、

とある貧乏な子爵令嬢らしい

家庭環境がとても複雑で色々な意味で人との縁が薄いらしい

淡い金髪に透き通った翡翠の目の天使のように愛らしい顔をしている

小柄で華奢ながら女らしい柔らかさを持つ抜群のスタイルを持っている

性格は控え目ながら芯があって優しく正義感が強いらしい

刺繍やダンスより家事が得意らしい


などなど見た目以外は微妙な情報ばかりだが、とりあえず思ったことは正しく王道ヒロインみたいだなぁと言った感じである。ここでの私の意見がまるで他人事ようだと言うのは仕方がない。実際他人事だし、はっきり言って私は寵姫がどんな人間かなんてあまり興味がなかった。


何故かと言うと私とは無関係な事だからだ。


私にとって王に寵姫が出来たことは歓迎こそすれど、心情的には全然問題ない。普通の王妃なら夫である王に寵姫が出来たなら嫉妬するなり憎んだり悲しんだりするだろう。しかし、元々王を愛していたわけでもない私が寵姫に負の感情を抱く理由は全くない。むしろがんばって私の安眠を守ってください寵姫様が本音である。王の寵愛以外の政治的な問題があるのではという考えもあるだろうが、それもあまり心配していなかった。


 まず第一に私が生きて王妃の座を退くことは出来ない。

『しない』ではなく、『出来ない』と言うのが最大のポイントだ。むしろ絶対に許されないと言う方が正しい。誰が許さないかと言うと実家の公爵家もだが、王家側も私の王妃退任を認めはしないだろう。私が王妃になったのは公爵家の策略のせいでもあるが、王家側の策略でもある。公爵家の長女たる私を王族に取り入れることで公爵家を抑えようと言う考えがあったからこそ、王も不満はあれど私を正式に王妃として迎え入れたのだ。つまり国の二大勢力である公爵家と王家の双方の策略と合意の下、ひいては両者の後ろ盾兼枷があってこその王妃だ。例え王に寵姫が出来ようが、個人的にどうこう出来る問題ではない。そんなことをすれば唯でさえ危うい均衡の下で成り立っている国内の情勢が一気に崩れる事態が起きることになるだろう。それはどちらの陣営の人間も望まない展開であり、それを回避するためにも私が生きている限り王妃の座に縛りつけられるのだ。

 第二に私は既に王妃として最も果たすべき責務をきちんと果たし終わっていた。そう、後継者を産むと言う王の妻として至上の目的を。

もし子供を産む前に寵姫が出来ていたら色々面倒だったかもしれないが、私は既に健康な第一王位後継者を出産している。産んだ子供が女児だったら余計な心配から面倒な事態が起こったかもしれない。

しかし、幸いにも私が生んだのは王によく似た男児だ。

曲がりなりにも王と公爵家長女にして王妃である私の間に生まれた健康な男児。余程のことがない限り次代の王になることは間違いないだろう。


とりあえずこの二つの理由から私の王妃という地位と未来の王の国母という立場が崩れる可能性はほぼないと言っていい。


 そんな感じで私は心配0な王の寵姫のことは適当に頭の片隅に放置し、我が子である王子の子育てに日々一生懸命奔放した。乳母に育てさせるという手もあったが、諸々の事情、そして初めて手にした自分の家族を大事にしたいと言う私自身の希望で侍女達の手を借りながら自分の手で王子を育てた。今までのどんなことより大変でわからないこともたくさんあったが、それ以上に感動と幸福で彩られた日々だった。あの日々は二度目の私にとって永遠の宝物だ。


 ちなみに王のお渡りはこの頃になると全くなくなっていた。最初は子育てを理由に私から辞退したのだが、その内昼間に王子の様子を見に来る時以外全く見掛けなくなった。侍女達の噂話を聞く限りでは寵姫のもとにずっと通っているらしく、私を含めた他の後宮の住人は放置のようだ。


 はっきり言って王は馬鹿なのだろうか、それとも朴念仁何だろうかとこの時私は思った。

寵姫を特別扱いするのは勝手だが、もう少し考えて行動すべきだろう。女の嫉妬と言うのは陰険かつ粘着質な物だ。そんな女のドロドロした情念が渦巻くこの後宮で貴族としての地位が低く、後ろ盾もない寵姫が他の側室の方々からどんな目に合うかなんて子供でもわかるだろう。


 案の定と言うべきか、それから間もなく側室の方々による寵姫への陰湿な嫌がらせが始まった。

しかも子爵と言う低い家柄のせいか、どうやら私の時よりも更に陰険かつ凄惨な物らしい。何が凄いってこの嫌がらせの数々は自分から言い出さない限り絶対に外にばれないのだ。例え後宮の主たる王の耳にも本人、もしくは他の人間が告げない限り絶対に気づかれないほど巧妙に行われていた。私の時もそうだった。そう言うマニュアルでもあるのかと疑う程ハイレベルだ。もちろん悪い意味で。

 私の時は適当に受け流しつつ側室の方々の反応を楽しんでいたらいつの間にか事態は収拾していた。しかし、どうやら件の寵姫は無駄に反応し過ぎるらしく事態は悪化の一途を辿っているようだ。全部侍女からの又聞きになるのだが、側室筆頭の侯爵令嬢との確執は最早爆発寸前らしい。おかげで後宮は私の部屋を除いてギスギスとした戦場のような雰囲気になっている。本来なら王妃であり後宮の代表である私が事態を収めるべきなのかもしれない。

 しかし、それは不可能なことだ。

元々信頼も尊敬もされていない私が出張った所で誰も言うことなど聞かない。何よりも王自身が一番最初に私に何もするなと命じたのだ。ここで余計な事をしようものなら最悪の場合、反逆や謀反を疑われかねないと言うか疑われるに違いない。だから私に出来ることは自身と我が子に火の粉が飛ぶのを華麗に避けつつ、不審に見える行動は控えるようにすることだけだった。


 私の王妃とも思えぬ地味かつ控え目な日々に終止符が打たれたのは寵姫暗殺未遂事件の後だった。

首謀者はあの嫌がらせ筆頭の侯爵令嬢をはじめとした一団で、どこかの暗殺者に寵姫の暗殺を依頼したらしい。その暗殺者というのがまたかなりの凄腕で、寵姫に王がつけていた精鋭達を蹴散らしたそうだ。もう駄目かと思ったその時に王が寵姫のもとに駆け付け、その暗殺者を追い払ったらしい。まさにテンプレな展開だ。

その後、二人の絆が深まると言うのもお約束である。


そこはいい。それは別に構わない。

暗殺の手引きをした侯爵令嬢達がそれなりの処罰を下されるのも、その実家が衰退してしまったのも仕方がない。納得いかないのはその後のことだ。




何故か私が寵姫暗殺未遂の真の黒幕だと思われた。



何でやねん。



いや、本当に意味がわからない。


何をどう調べて、どう聞いて、どう見れば私が黒幕になるんだ。この話を持ってきた侍女も困惑しているし、私自身も全く理解できなかった。


 一応筋書きとしては『王の寵愛が件の寵姫に移ったことに内心嫉妬していた私が裏から側室の方々を操り、寵姫に対する陰険な嫌がらせをさせていた。しかしそれでもなお折れることを知らず一途に王を慕う健気な寵姫と寵姫を深く愛する王の姿に我慢できず、侯爵令嬢を使って寵姫暗殺を目論んだ。』らしいのだが・・・・・・。



一つ言わせてもらおう。


何これ、どこの昼ドラ?



この設定だと私が実は王を愛しています的な感じだが、はっきり言って私の王に対する恋愛感情は全くない。王の有能さや剣術の腕は尊敬しているがそこに情愛は全く、これっぽっちも、小指の爪の先ほども含まれていない。


本当にない。


絶望的にない。


愛していなかったら子供なんて産まないだろうと思うかもしれない。しかしそれは現代人の価値観でしかなく、今の公爵令嬢として教育を受けた私にとって出産は不可避な仕事みたいな物だ。貴族の令嬢として生まれたからには例え夫を愛していなくても結婚し、子供を産んで血統を保たなくてはならない。ましてや私は王妃だ。王の子供を産むという重要性は他のどの責務より重い。

 誤解のないように言うが、私は我が子である王子は愛していた。実の両親がアレなだけに、王子は初めてと言っていい肉親としての純粋な愛情を持って接することが出来る存在なのだ。当時の私にとって本当に何よりも誰よりも大事で唯一愛していた存在。それが王子だ。

 話はずれてしまったが、とりあえず私は王のことは別に男性として愛していない。それなのに何故か、何故か私は王への愛から嫉妬に狂い、他の側室達を裏から操って寵姫を殺そうとした悪女として認識されていた。


解せぬ。


 何よりも解せないのは王がその馬鹿げた話を信じたことだ。王はいきなり昼寝中だった私と王子の部屋に押し入り、私の手を無理矢理引いて自分の部屋に連れ込んだ。突然のことに目を白黒させていた私に対して、王は初対面の時より凍てついた表情と激情を込めた目で私をきつく詰問した。詰問内容は寵姫暗殺の黒幕が私説から始まり、そのまま隠れ愛人説まで発展していた。ふざけんなコノヤロー!!と言って殴ってやりたい気持ちを震える拳を握りしめながら耐え、真面目かつ冷静な表情と声で私は全て否定した。しかし王の激情は止まる所を知らず、結局誤解が解けないまま最後は思いっきり頬を張られて寝所に連れ込まれた。


あとはアレですよ。


一度目の魔王の時と同じくエロくて痛い目にあわされた。しかもその日だけじゃなくて三日間も愛され(笑)続け、私の下半身のHPは0よ状態でやっと解放された。


もうヘロヘロのクタクタで疲労困憊な状態だったが私にはやるべきことがあった。本当であれば噂を聞いた時点で秘密裏かつ速やかに裏から手を回してあの根も葉もない噂を消さなければならなかった。しかし、王の無意味かつ忌々しい詰問のせいで私は大幅に出遅れてしまった。


それでも何とかして手を打とうとしたのだが、既に手遅れだった。


 気付けば私の寵姫暗殺未遂事件の黒幕説は城中の一部を除く殆どの人間に根付いてしまっていた。そのおかげで寵姫を推奨する派閥には睨まれるし、公爵家派は馴れ馴れしいし、一番楽だった中立派は離れていくしで踏んだり蹴ったりだ。肝心の王とはこの一件で確実に決別した。元々親しくもなく、王子が生まれても王子には優しかったが私には義務的な態度を崩さなかった。それがこの一件において明らかに険悪な態度になったのだから、その心中たるや察するまでもない。まぁ、王子に対する態度は変わらなかったので別に良い。私も自分の平穏を崩した人間に対して何も感じないほど感情は死んでないから好都合でもあった。王をボコって不敬罪とかマジ笑えない。


 問題はその日から激しくなった王兼寵姫派と公爵家派、そして私含む放置希望派の対立だ。

王兼寵姫派は寵姫を正妃とし、公爵家派を一掃したいらしい。逆に公爵家派は寵姫を排斥し、私と王子を足掛かりに更なる権力の取得に乗り出したいようだった。そして私の属する放置希望派はと言うと現状のまま、つまり王家派と公爵家派がギリギリの均衡で対立している状態のままでいてほしかった。



何故?


それは簡単に言えば現状が一番平和だからだ。



確かに一般的な目線で悪いのは公爵家派である。しかし、公爵家派がこの国に多大な恩恵を齎しているのも事実なのだ。もし公爵家派を排除しようとするなら、あらゆる点における甚大な被害は免れないだろう。それなら見せ掛けとは言え平和な現状維持のままの方がマシだ。


 だからこそ、私は何をするにも用心に用心を重ね、神経質過ぎるほど慎重に対応してきた。私と言う存在が如何に起爆剤になり得るかを知っているだけに自由に振舞うなど出来なかった。自慢ではないが頭は悪くないので裏でコソコソ行動しつつ、自分の将来の道を模索していた。



それなのに、それなのにあの馬鹿共のせいで大幅に私の計画が狂ってしまった。



「もうマジあの空気読めない馬鹿共死ネ」とか「グズはグズらしく海の藻屑になれ」と言う気分だ。もういっその事、我が子と信頼できる人間を連れて何処かに行きたいと現実逃避したかった。



とは言うものの実際に行動に移せるわけもなく、私はあの悪夢の喜劇から増えた厄介事に追われつつ王子の教育に精を出す日々を送った。


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