涙色の笑顔
『嘘つき 精神異常者 中二病、色々言われてきたけど どれも間違ってるしどれも 言われてて悔しかったよ。いやーほんとに。
あ、でも二番目の真偽は僕のこの言葉だけじゃ証明できないね。
自分の世界を他人が知覚してくれないとそれが幻想なのか、現実なのか証明できないもん。
けどね、どれもそこまで辛くはなかったんだよ。
いや、確かにとてもとても辛くて、辛いっていうそれ以上に死んでしまいたくなるような感情が先に立つくらいで、それでも死ねない様な素敵な呪いの言葉があったのだよ。
あぁ、これは勿論皮肉だよ?自嘲ってやつに近いかもだけど。
そんな、物凄く悲しい言葉を一番最初に言われたから
だから辛いことも、それの偉大な辛さに比べてしまえば辛いの内に入らなかったわけでね。
それでも、やっぱり辛くて 辛すぎて苦しい時間がずっと続いてて、いつも死にたくて死にたくて堪らないほど悲しくて、一人で泣いてて。
そんな窮屈な時間を終わらせてくれたのは、大好きで大好きな君なんだよ?知らないでしょう?
今はまだ教える気すらないけど……。
だからもうちょっとだけ。
あと少しの間で構わないから……お願い。
『私』を嫌わないでいてあげて…そして僕のことを…好きでいてくれませんか?』
◇◆◆◆◆
11月の土曜日15時23分
ぼぅっとしてたら なんだか嫌な夢を見た気がしなくもない。
というか 視た って確実に言える。
どうやら俺は寝てたらしい。
俺の想い人であり、親友でもある女子の手を握りしめながら。
「……普通の男子で、普通の日常的な状況なら、ギャルゲー宜しく素敵なこの状況に舞い上がっちまうんだろうけどなー」
俺は他人事の様に呟く。
ギャルゲー要素に、アブノーマルな要素が入ってると言う時点で浮かれるとかない。
ほんと、視た夢がこいつで、握った手がこいつで、俺の好きなやつがこいつじゃなかったらマジ最悪な状況ってくらい。
…不幸中の幸い……とも言い難いので、この辺ちょっと複雑だ。
『目の前の女の子は俺の片恋の女の子で、俺の手握りながら眠る俺に凭れて転た寝している。』
ここだけ切り取ると、俺はかなりおいしい役所だろう。俺の贔屓目を除いても、こいつは可愛いとか美人の類いに属するし。
それでまぁ、今さっき視た夢さえなけりゃ完璧なんだけど。
俺は目の前のこいつを起こさないようにゆっくり上半身を起こしてから、もう一度、目の前の女の子に視線を落とした。
かなり寒くて冷え込むのに暖房さえつけてない部屋は、目の前のこいつの寝息くらいしか音がしない。
そのために、二人きりの(こいつが寝てるので一人のようなものだが…)沈黙が訪れる。
しばらく黙っていた俺だが、ようやく口を開いて呟いた。
「……やっぱ、美味しいどころか犬も食わないってやつなんじゃないか…?」
泣いてた。
幸せそうに、張り付けたようないつもの笑みで、閉ざした瞳から涙を溢していた。
「…ほんとさぁ…っ」
──なんなんだよ、なんで、
「俺なら、泣かしたりしねーよ」
──なんで俺じゃないんだよ……っ
心の中で、女々しく喚きながら、
「今のお前の笑顔は、全然安心なんかできねーよ…」
そう呟きながら、コイツの頬を伝う涙をぬぐって、繋がった手をそっと離した。
「……泣かせるやつのことなんか好きになんじゃねーよ…」
そして、そっとそいつの額を撫でた。
「無理するくらいなら笑うなよ……」
もう一度額を撫でる。
昔教えてもらったちょっとしたおまじないの様なもの。
一瞬、ほんの一瞬だけ、表情が歪んだ気がした。
感情を正しく表に出した時の苦痛だったように見えた。
そしてまたギリギリと痛くなった胸元に、ぐっと爪を立てて、いつか聴いた言葉を詠うように呟く。
「本当のキミはなんだ…?」
お前は笑っていても、何をしていても苦しそうだ。
見ていられなくなった俺は彼女を部屋に残して、襖の向こうへ出ていった。
毛布を被って眠る少女は、また幸せそうに笑って眠っていた。