振られた女の話
これは女性視点の独白です。苦手な方や相手が出てこないのが嫌な方には、あまりお勧めしません。ではどうぞ。
あなたに会いたいのよ、こんな日ぐらい。
忙しいって言わないでよ。時間がないって言わないでよ。十分でも顔を見せなさいよ。電話一つぐらい寄越しなさいよ。
わたしの誕生日なのに、いつもいつもあげる立場でしかなかった。この頃、逆チョコが流行っているらしいじゃない。指輪一つ持って来て、跪いてプロポーズでもしたらどうなのよ。
忙しいって言わないでよ。すまないって言わないでよ。わかりたくないのよ。誕生日なのよ、わたし。
バレンタインだけなら、一生懸命わかったふりだってするわ。でも違うのよ。今日はわたしの誕生日でバレンタインなのよ。わかりなさいよ。あなたがわかりなさいよ。
会いに来なさいよ。わたし今日は行かないわよ。毎年毎年、わたしはあなたにチョコを渡しにいって、冗談じゃないわ。渡しに行って受け取る程度の時間しか、あなたつくらないじゃない。
わたしに会いに来る時間ぐらいつくってよ。こんな日ぐらい一緒にいてくれてもいいじゃない。待っているのよ。
ずっとずっと、毎年毎年。知らないでしょ。あなたにチョコを渡しに行くの、いつだって仕事の区切りが入る夜中だって、あなたは思っているけれど、わたしがあなたを待ちくたびれて、夜中に渡しに行くのよ。
二月はまだ寒くて、夜に出かけるのは、もっと寒くて、冗談じゃないわ。わたしは寒くて暗い路地裏まで通るのよ。信じられないわ。あなただって通勤しているんだから、あそこの夜道がどんなに暗くて狭くて怖いかなんて知っているでしょ。
信じられない。わたしなんであなたのこと好きなのかしら。信じられない、信じられない。もういっそ嫌いになりたいのよ。なのに、なんで涙が出るのよ。会ったら絶対に別れを告げられないからって、メールに書くだけの簡略的な別れ言葉になんで涙が止まらないのよ。なんなのよ。
あなたがわたしを愛していないことくらいわかってるわよ。あなたがわたしのこと面倒の無い女だって思ってることだって知ってるわよ。いくら、いくら、わたしに好意がないからって、無理してるって、無理して頑張っているってことくらい、気付きなさいよ。
もういやよ。あなたみたいな鈍感な男を、好きでいるのなんて疲れるわ。興味も抱かない努力もしないあなたは嫌いよ。なんで会いに来てくれないのよ。
告白だって、こんなに興味を抱けないんだったら、断れば良かったじゃない。なんでわたしと付き合うのよ。わたし本当に嬉しかったのに、頷かれたとき本当に嬉しかったのに。
ここでわたしが出て行っても、追いかけてこないことくらい知ってるわ。知ってるの。だからわたし、いつまでたっても出て行く勇気がなくて、碌に帰ってこないあなたの家から、出て行くことすら出来なくて。
ああなんでわたし、こんなに辛いのかしら。
会いに来てくれないなら、メールを送って、この家の鍵を返して、あなたのメールアドレスを消して、わたしの携帯、変えるのよ。なんどもなんども考えて、なんどもなんどもやめた。
でももう新しい携帯を買ったの、ここから駅二つ離れたところにアパート借りたの。新しい仕事も、もう二ヶ月前から始めた。あなたも知らない。あなたが知らない。
わたしは口が軽い方だから、なんでもあなたに話すのに、あなたの口が重いから話しをしようと、自分を話題にするのに、あなたに最後まで話さなかった。話してやろうぐらいに思っていたのにね。
メールさえ、送ってこないあなた。ひどいったらないわね。時計の針がもうじきに十二時を刻むわ。正確な時を刻む時計だって、言葉少ないあなたが言っていたわね。
なんで涙が出るのかしら。メールを送る為のカウントダウンが掠れて聞こえない。嗚咽だって止まらない。
わたし、あなたのこと好きなのに、どうしてこんなことをしているのかしら。こんなメールを送らなければ、離れなくて済むのに、一緒にいられるのに、話しを聞いてくれる距離でいられるのに。
携帯の画面がぶれてよく見えない。けれど薄光りに確かにメールを送ったときの画面だとわかったわ。あなたに別れを告げるメールよ。もう会わないメールよ。
あなたが追いかけてこないこと、知ってるわ。けれどせめて、誰もいないこの部屋を、寂しく感じてくれるかしら。それとも、わたしよりも、ずっと好きな人を連れ込むかしら。
涙が止まらないの。わたしが振るのにね。あなたが悲しまないこと、知っているからかしら。なんで会いにきてくれないの。誕生日でバレンタインで、特別が沢山、詰め込まれた日だったのに。
告白したのも、その日だった。頷かれたのも、その日だった。嬉しかった。確かに特別な日だった。わたしが告白して、あなたが頷いた。
ああ、あの日だったのかもしれない、わたしが振られたのは。
確かに頷いてくれたけれど、確かに付き合ったけれど、あの日、わたしは振られていたのかもしれない。戸惑ったようなあなたの顔。小さく頷いたあなた。
わたしは嬉しくて、ほっとして、笑ったけれど、あなたはただ無表情で目を伏せただけだった。同情だったのかもしれない、小さな親切心だったのかもしれない。
決して恋心ではなかったあなた。好きになってくれるチャンスを与えてもらえたと思ったわたし。でも、わたし、あなたがそこまでわたしに興味を抱かなかったこと、まだ知らなかったのよ。
精一杯だった。行事に会って、たまに用事があるってキャンセルされても、精一杯で、わたし、いつのまにか疲れていたのかもしれない。いつか、いつか、そう思い続けて、そう思えなくなって。
だからわたし、あなたが追いかけてこないこと、予想つくの。わたし、あなたのこと好きで、好きで、でも、幸せな明日なんて思い浮かんでこない。
デートしてるときも、メールしてるときも、わたし、あなたがわたしから背を向けている姿しか、思い浮かべられないの。
浅かったはずの恋心。わたし、出勤中に見かけるあなたが気になっていた。電車に揺られながら、ただ一点を見つめる横顔。構内で見かけた横切った瞬間の、低音の声。目があった瞬間に、僅差に挨拶をしてしまったわたしに、小さく返してくれた挨拶。
ねぇ、あなたに告白するまで、一年かかったのよ。通りかかったら挨拶を交わすのが、日常になるまでかかった。いつも、わたしからの挨拶にあなたは返すだけだったけれど、それで十分だった。
告白なんてしなければ、わたし、こんなに辛くなかったかしら。まだ深くなかった恋心に、あなたに焦がれただけで終われたかしら。
デートもメールも、あなたと楽しく過ごすための手段だったのに。わたしだけが楽しいのなんて、意味のないことだわ。そんな意味の無いことを、どれだけ続けてきたのかしら。意味の無い時間をどれだけあなたに費やさせたのかしら。
好きなのよ、あなたのこと。嫌いになれないのよ、あなたのこと。でもあなた、わたしといたって、楽しくなんかない、嬉しくなんかない。ただの他人だわ。それじゃ他人なのよ。
恋人なんかじゃないわ。あなたが楽しくないとわたしは楽しくない。いくら楽しいことやってたって、直ぐに冷めてしまう。一緒にいて楽しくないなんて、最悪じゃないの。意味の無い独りよがりの行為に、気付いていたのに、それでもここまで来てしまった。
告白して、振られたのに、続けるなんて、馬鹿らしい。あの人に恋心がない時点で、わたしは諦めるべきだった。
逢いに来なさいよ、こんな日ぐらい。今日はわたしの誕生日で、バレンタインで、恋人に愛を告げる日で、あなたは知らないけれど、わたしがあなたに会える最後の日だったのよ。
今日はあなたに振られた日なんだから、終わりが来るのにも、最高にふさわしい日だわ。
ああ、もう十二時を過ぎてしまった。特別な日の終わりだわ。なんにも連絡をくれなかったあなたにはきっとわからない。わたし送信してしまったメール画面にさえ涙が止まらないの。
ねぇ、最悪だわ。
本当に長く、女性の独白をつらつらと並べたので、ほとんど読む人はいないと思ったのですが、なんとなくもったいなくて、あげてしまいました。
気分転換にでもなれば幸いです。