誤算
「アンタにとっても悪い話じゃないと思うがの」
村長はそう言うと目の前の若い男を見た。
人目をひくほどに整った顔立ち。
八百年以上も生きているのにまるで若者のように滑らかな肌。
彼が人、非ざるものである証拠であった。
「確かに悪い話ではなさそうだが……堂々と人間の生き血が吸えるとは信じられん」若い男は困惑して言った。
「ああ、コソコソする事はない。人助けだと思って堂々と血を吸ってくれ」
「しかし……」
「まさに人助けなのじゃ。ガリガリに痩せ骨と皮になっても心の臓が止まるまでは何日も生き続ける……酷い事じゃ、かわいそうじゃ、苦しみを長引かせたくはない、血を吸ってやってくれ」
「……そうか、そこまで言うなら……引き受けよう」
「ああ、お願いする」
村長は着物の衿をただすとそう言った。
だがその瞳は憂いを帯びていた。
そして半年後。
山のふもとの小屋から顔を出した吸血鬼は鼻を動かしながら呟いた。
「人間の匂いがする……血を吸いに行かねば」
だが彼は山を見ながら思うのだ。
確かに堂々と血が吸える
ある意味、人助けだ
だが一つだけ思わぬ落とし穴があった。
若い女じゃない
『吸血鬼といえば若い女の血』だろうに若い女は一人もいない
この半年、ばあさんの血、ばっかりだ
彼はそう思いながら
姥捨て山と呼ばれる裏山を見すえた。




