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つくもがみ―動く人形と約束2

結局、律くんに救助要請をしてしまった。

家が近いとは言え、すぐ来てくれる律くんには感謝しかない。


作務衣姿の律くんは、まずざっと社務所を見て回って、泥棒じゃなさそうだと判断してくれる。


そして、落ちていた人形を、躊躇なく掴んだ。


「話して動く?」


人形を裏返したり、腕を引っ張ったり、振ったりしている。

私は、ヒヤヒヤしながら横で見守る。


一通り確認した後、律くんが言った。


「変わったところはないな。気のせいじゃないか?」


「う~ん。あ!そう言えば!」


私は、人形が入っていた木箱を律くんに見せる。


「呪子って書いてあって」


律くんは字を指でなぞった。


「これは唄子だろ。草書だし、かすれてる」


「え?そうなの? すごい! さすが律くん!」


「寺の人間には、書道は必要なんだよ……唄子か……あ、そういえば」


律くんが何か心当たりがあるというので、私は人形を箱に入れて、律くんの家に一緒に向かった。



お寺には、資料室のような部屋があって、律くんはそこで何かを探していた。


古い冊子を開いて、見せてくれる。


「これは、過去帳。亡くなった方の情報が書いてあるんだ。最近檀家さんの情報を整理してて……あった。恩田唄子、珍しい名前だから、覚えてた。もしかしたら同名かもだけど。享年6歳か。病気かな?」


律くん、すごい……。


あ……ビジョンが浮かぶ。


私に時々起こること。狙うことはできないんだけど、映像が流れ込んでくることがある。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

木造の日本家屋。

5歳くらいの女の子。

人形を背負ったり、髪を梳いてあげたり、とても可愛がっている。

女の子が、満面の笑みで言う。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「大好き、はなちゃん。ずっといっしょにいてね。やくそく」


人形の目が、きらりと光った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次の場面。

病床らしき女の子。

息も絶え絶えといった感じで、枕元の人形に手を伸ばす。


「ずっといっしょ…」


人形は黙って見てる。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……ということは、女の子が唄子ちゃんで、この人形が「はなちゃん」?



過去帳をもとに、律君と唄子ちゃんの住所に行ってみることにした。


家があったであろう場所は、今は公園になっていた。

数十年前に区画整理があったせいじゃないかと律くんが言っていた。


本当に何でも知ってるね。律くん……。


夕暮れの小さな公園。

ぽつんと遊具とベンチ。人はいない。

ざわっと風が吹いて、木々が揺れた。

すると、私の持っていた人形の箱がカタカタと揺れる。


私は、木箱から人形を取り出した。


白い煙のようなものが、ふわり、と目の前に浮かんだ。


よく見ると、おさげの女の子の形をしている。


あの、ビジョンの子だ。


女の子は、私が持っていた人形に手を伸ばす。


「はなちゃん」


人形が震えた。


次の瞬間、人形の中から、唄子ちゃんと同じような白いもやのようなものが浮き出た。


それは、人形の形。


唄子ちゃんは、人形のもやを抱き上げ、空へと消えた。


「ずっと、いっしょ」


そう聞こえた。


……約束、守りたかったんだね……。

挿絵(By みてみん)


「毎度、零感の俺には説明してもらわなきゃ意味不明だ」


律くんが、眉をしかめている。


「律くんのお陰だよ。私ひとりじゃ絶対無理だった。それにしても誰がうちの神社に置き去りにしたんだろう?」


「過去帳から見ると、家族も高齢だろうし、持て余したのかもな。うちでお焚き上げ出せるけど預かるか?」


「うーん。しばらく社務所に置いとこうかな。捨てられなくなっちゃった」


「あ、そういえばまた和菓子貰ったぞ」


「本当? いつもありがとう! でも、毎日食べてて太るかな? 


律くん、もしや、私を太らせて食べるつもり?」


「食べ……」


冗談だったのに、律くんが顔を赤くして異様に動揺している。


「律くんがそんなに猟奇的だと思ってないよ~」


「……猟奇じゃない方だけどな」


「え?」


「何でもない……」


律くんは、その後ずっと何やらぶつぶつ呟いていた。

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