幽霊と巫女と僧衣の高校生2(漫画あり)
夕暮れが濃くなり、オレンジの光が住宅の影を照らし出す。
帰宅途中の人や車が行き交う中、女性の霊は、変わらず同じ場所にいた。
薄暗い中、浮き出ていて幻想的。
私は、息を整えて、律君を見上げた。
「ここで、お経をあげてほしいの」
訳も分からず連れてこられた律君は、明らかに戸惑っていた。
「何の?」
……何の?
よく、本堂で律君のお経を聴くけど、種類は分からない。
「お任せします」
無責任この上ないけど、律君は不機嫌になったりしなかった。
本当に優しい。
「いいけど……ちょっと恥ずかしいな」
律君は、袂から数珠を取り出して手にかけた。
まばらだけど通行する人は、律君をチラチラ見ている。
確かに、申し訳ない……。
それでも律くんは合掌し、控えめな声でお経を唱え始める。
「帰命無量寿如来 南無不可思議光
法蔵菩薩因位時 在世自在王仏所
覩見諸仏浄土因 国土人天之善悪…」
律君のお経が好き。
チェロの演奏のようで、低く、透明感もある。
波紋のように響いて、心に流れ込んでくる。
何も見ないであげられるのは、さすが。
近所のお年寄りが、通りすがりに、律君に手を合わせたりしている。
女性の霊が読経に気が付いて、ふわっと律君に近付いた。
表情は視えないけれど、両手を仰ぐように律君の方へ伸ばす。
そして、手を合わせる。
女性は、供養を求めていた。
それは多分、お子さんのため……。
私は、祖父の言葉を思い出していた。
「他人のために願うと奇跡が起きる」
私も、手を合わせる。
神道で手を合わせるのは、自分の心と向き合って、神様と繋がるため。
「どうか、この女性の……全ての方の、痛み、苦しみが、癒されますように」
ふと、額に眩しさを感じて、目を開けると、女性の背後から眩しい光が差していた。
女性は、光の方へ振り返る。
光の奥で、こちらに向かって手を振っている男の子。
……あの映像の、怪我をしていた子だ。
今は傷一つなく、新品のような着物。
女性に向かって走ってくる。
女性は、男の子を力いっぱい抱きしめる。
安堵と喜びの涙。
良かった……。見届けられた……。
光は収束し、現実が戻った。
「ありがとう、もう大丈夫みたい」
律君が、読経を止めて顔を上げた。
起きたことを説明したけれど、律君は、眉をしかめていた。
無理もない。
「視えないとさっぱり。少し明るくなったような気も……?」
「全部、律君のお陰だよ。
律君がいないと何もできなかったよ!ありがとう!」
笑顔で言ったけど、やはり律君は、腑に落ちていない様子だった。
「律君って、清廉潔白? 品行方正だし、物知りだし、完璧だと思う」
適切な言葉を探して褒めたつもりだったんだけど、律君は、少し不満そうな顔をした。
「……俺、普通の男だし、煩悩まみれだぞ」
「煩悩 ?」
もちろん言葉は知っているけど、律君からそんな言葉が出るだけでも驚き。
「全然イメージないね。どんな煩悩?」
「知らぬが仏……」
「え?」
律君は、黙ってじっと私を見つめた。
何か言いかけたような、一瞬の間があって、家に向かって歩き出す。
私も、その後を追いかける。
女性がいた場所は、昔、お寺だったそう。
でも何故、今日、急に視えたのか、分からない。
神道では「すべては縁」という。
ジャンプルーキーに漫画も載せています。
マホロバ神社へようこそ 〜視える少女と視えない幼馴染のやさしい怪奇譚〜
ジャンプルーキー! https://rookie.shonenjump.com/series/OmkvmYUQTiU




