第5話 双子の村③
20日ほど前――
「喋れるようになったようだな」
「ええ、おかげさまで……」
喋れるようにはなったが、まだ喉に違和感が残る。
「ふむ……。まだ首から下はギプスは外せないが、顔面は幸い骨折だけだ。簡単に整形しただけで済んだから外しても大丈夫だろう」
セナはそう言うと頭の拘束具と包帯を外す。
包帯の下からは手術のために髪を剃った、短くなった髪のアフラの姿があった。
「え、えっと、ありがとうございます……」
(良かった。そこまで変わってない)
頭蓋骨骨折からの手術だ。整形技術も使われたのだろうが、驚くほど元の顔立ちに戻っていた。
「こちらとて、趣味みたいなもんだから整形には文句はつけないでくれよ」
「い、いえっ!とんでもないです。本当に元通りで……びっくりしました!」
「そう言ってもらえると良かった」
医者として、こういった技術の見せ所は嬉しいところなのだろうか、セナはこの時嬉しそうにしていたのを覚えている。
「それじゃ、ここからは一応の事情聴取だな」
「は、はい」
身につけていたモノに聖女の証があったが、それは本物か?ならば何故、聖女ともある人が川に瀕死で浮いていたのか?
当然、疑問に思うことを聞かれた。大聖堂に侵入して、教皇のミイラを介してイャザッタ様に喧嘩を売ったなど本当のことを言えることもなく(そもそも私のことではない)、嘘をつくのは心苦しいが、正直に話して混乱を招けば布教に差し障る。なのでやんわりと受け流して答えることにした。
「ま、教会絡みで言いたくないこともあるか……。聖女様とは言え人間誰しも秘密はあるものだしな」
「ご理解助かります……」
「ただ一つだけ忠告しておく、教皇区に近い関係でこの村の司祭はおそらく、あんたの顔を知っていて、なおかつ事情も知っている可能性が濃厚だ。それに……いや、これは医者としての愚痴だから不要だな」
「ご忠告ありがとうございます。そうですね、なるべく表に出ないでリハビリが終わり次第、この村を去るべきですね」
「まあ、麻痺は残るだろうが気長にな。幸い屋敷は広い。好きに使って……後でルールを決めて自由に使っても構わんよ」
*
朝、セナが出かけて行くのを見送る。
私はセナの姿が見えなくなるのを窓から確認すると深く息を吐いた。回復したとはいえ、全身の感覚はまだ万全とは言えない。
けれど、今やらなければならない。
あの日、セナが悔しげな表情を見せた理由を知りたい。夜間に聞いた“死体”について、彼が本当に私を助けたのか、それとも別の目的があったのか。そして、あの地下室に封じられた何かを、私自身の目で確かめなければならない。
私はあらかじめ用意していた厚めのローブを羽織り、地下室の扉を目指す。まだリハビリ中で、以前に比べ脚へ力が入らない気がするが、この程度の無茶は許容範囲だろうと自分に言い聞かせる。
地下室へと続く階段を目指す。階段や地下室への扉はやや大きいことを除けば一見して特におかしなところは見当たらないが、鍵穴からは微かな魔力が感じられた。《灰の封印》が施されている痕跡だ。
(禁術だから構造は書いていなかったけど……)
学園時代、軽く調べただけだが何となく威力と構造は想像がつく。それに防御魔法の準備もしておく、一撃ならば耐えられるだろう。
(後はこれを……)
集中だ。保険は掛けているとはいえ、万全の体調ではない。後のことを考えてもなるべくダメージは負いたくない。
知識と目の前にある実物から魔力の流れを脳内で構築し、なんとか魔法を発動させずに抉じ開けようとする。
(順調、今のところは……)
《灰の封印》、その起源はイャザッタ様が地上に降り立つよりも前と言われている。
禁術にはよくある話だ。魔法がまだ未熟だった古の時代に、偶然生み出され、危険であったり、生命に反するゆえに封印された――この封印もそうした“遺物”の1つだった。
(古の魔法はまだ解明できていない部分も多いですが……)
死の危険性がある。とは言っても、魔法による施錠であることには変わらない。ある程度の知識と技量があれば解くことはそう難しくないはずだ。
「!」
手応えが急になくなった。それと同時にガチャリッと言う解錠音が聞こえた。
(やった!なんとか無事に解錠が……っ!?)
刹那、鍵穴に魔力が集まる気配を感じる。
抉じ開けは成功した。しかし、解錠自体が罠としてこの魔法は張られていたのである。仮に解錠されても正規の方法でない場合は侵入者を殺す。そういった魔法であったのだ。
(まずいッ……!)
気付いた時には遅かった。
鍵穴から鋭い閃光が走る。組織を切り裂くような熱を持った光だ。
(防御魔法が……!)
防御魔法が機能してくれたおかげで、体が魔法により傷つくことはなかったが、その衝撃までは防げなかった。
「……っ、かはっ……!」
肺の中の空気が一気に抜け、口から咳と共に血の味が広がった。
階段に吹き飛ばされた衝撃で繋がりかけの肋骨が数本イッたかもしれない。
視界がぐらつく。
(折角、解けたのに……)
手足が震え、痛む腹を押さえながら、式典の日以来の“あの感覚”がするのを感じた。
「けっ、ここからはあたしに交代ってわけだな」
腹の奥で鈍痛がするのを堪え、あたしは解錠された地下室の扉に手をかけた。
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