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ロストリアの魔法  作者: 茉白莉亜
私と貴方
3/3

2.燃やされた思い出


あの後は二人でいつも通り夕食を終えて各自の日課をこなす。大体食べ終わったあとは二人で屋根に登り夜空を眺めるのが習慣であり、星座について教えて貰いながら今日あった事や話したいことを適当に話して十分くらいでいつも終わる。そしてそれが終わると屋根から降りて師匠は一応世間的には大魔女扱いにはなっているから師匠の自室で魔法の研究だとか、次のウィッチギャザリングに向けて何かを必死にあれでもないこうでもないと考えこんでいる。それに対して私は師匠を無理やり風呂に入らせた後に夕飯の食器の洗い物をし、自室に戻り師匠から出された立派な魔女になる為の課題図書の魔導書を読まなくてはならない。私は特に趣味もしたい事もあまり思いつかないので自由時間がそんなに欲しいとは思わないが昼間も基本は稽古が多いため通常では暇な時間の方が少ない。朝起きれば師匠を起こして洗濯物の干してその後は朝食を作って二人で食べた後はすぐに稽古。その後は昼食。その後は稽古。その後は……今までの私の人生を繰り返すとなんだか虚しくなってくる。別にだからと言って師匠は嫌いでは無いしそれだけが今の私にできることだと勝手に納得して言い聞かせている。今日はどうにも落ち着かなく、稽古を抜け出して一人ぼんやりと町を眺めていたがこれはイレギュラーだ。今日のところは魔導書を読み続けるのも暫し飽きてしまったため仕方なくパタリと本を閉じて寝ることにした。無駄に分厚い割には書いてるあることがつまらない。魔法に纏わる知識についてこれには綴られているが知っている事ばかりだし、知らなかった事があってもあまり驚きは無いし。まだ半分も読み進められていない事に気づき憂鬱な気持ちになった。やることも無いしもう寝ようと時計を確認すると今は丁度針が一番てっぺんにある。思ったより時間の流れは早く感じたが、どちらにせよもう良い子の寝る時間をとっくに過ぎている事に変わりは無い。師匠曰く、私はまだまだ子供である。もう十六だと言うのに。ほどいてもぞもぞとベッドに入り、寝そべってベッドサイドにある木製の棚の上にある照明まで手を伸ばして消し、寝ようと思っていたらどうも照明を消したにも関わらず何かが光っている。何が原因かは分からないが足元の方……?1度ベッドから降りて光を放つ場所まで行くと普段出かける時に使う鞄の中に入っていた今日買ったばかりのコンパクトミラーが光っている。そういえばさっき師匠が魔道具とか言っていたな、そのせいなのか妙に明るすぎる程にピカピカと何もしていないのにうざったく光るため無事に目が覚めきってしまった。色の無い光はどこか一方向を指しているかのように光っていた。今は私の胸に向かって一筋の光が指している。

「……」

 1度手元に収めてコンパクトの向きを変えながら色んな方向から覗いてみるが、どんなにどんなにコンパクトミラーを回しても光る方向は私の胸の方だけ。そんなに私の胸が気になるっていうのだろうか、小さいのをまるで理解して嘲笑っているようだ、とも思ったがこれまた違かった。私が横にずれてみるともう私の方に光は向かない。どうやらコンパスのような感じらしい。決まった方角に今では静かな夜空が見える窓の方へ向かって光が一直線に伸びている。なんとなく、ただの好奇心だった。一瞬その先に何かあるのだろうかと思ったし、一応今後もこの鬱陶しい光が続くなら早いうちにこの光が指すものを見てスッキリしようとも考えた。しかしこの考えは安直過ぎるだろうかと思いとどまって悩み抜いた末、私はこっそりこの家を抜け出て光が導く方へ行くことに決めたのだ。確認するだけだし明日の朝師匠にこのことをきちんと話して相談しておこう。部屋に備え付けてあるクローゼットからブラウスとスカートを取りだして部屋着として着ていた白いワンピースを脱ぎ捨て、いつもの三つ編みに髪を結わえる。一応師匠の部屋の扉をこっそり開けてもう熟睡しているところを確認した後、玄関の扉をゆっくりゆっくりと開けてコンパクトの光を追うと共に普段は見ることの無い夜の町へと飛び出した。


 少し家から距離をとろうと小走りで走り段々離れたなと実感すると周りの光景を思わずじっくりと見てしまう。普段は見ることの無い人一人歩いていない静かな町の様子が新鮮だけれど少し不気味な怖さがあって私は嫌いな感覚ではなかった。手のひらの上にあるコンパクトをみるとまだまっすぐどこかを指しているように伸びている。しかしよく見るとこのまま光を追い続けてしまうと町の外に出てしまいそうだ。背の高い壁を突き抜けているように見える。気になるけれど町の外は出ない方が良いと師匠に言われている。外には魔物が多くいて私なんか出たらすぐに獲物だと思われ食い殺される未来が見えると笑って話していた。そのために人々は魔物から身を守るためにこの無駄に高い壁を設けたらしい。わざわざこんなに高くする必要があったのかは知らないが何しろこんな高い壁を超えるには私の飛行魔法を使えば簡単に出られる。出るべきか出ないべきか悩んでいれば壁に突き当たり、おでこをぶつけてしまった。おでこを押さえつつ、コンパクトを確認するとやはり光は外まで続きそうだ。気になったんだし腹を括るべきなのか、師匠の言いつけを守っていた方が身のためなのか。二つのことを天秤にかけてゆらゆらと揺らしていると腹を括るべきだと言う方に少しだけ傾いて静止した。ええい、明日ちゃんとこの事を話そう。隠し事は好きではないから。腹を括れ!ラミア・ロストリア!決心して自分自身に魔法をかけて淡い光を纏いながら高い壁を越すために空中へと浮いた。思ったよりも外へ出ることは容易く壁を越えた先、壁の周りには色とりどりの花が咲いていてその奥に森が広がっていた。初めての外の、世界の広さをまだ少ししか見ていないのにとても広く感じて感動しつつ、ゆっくりと地上へと降り立つ。そして降りたって足を地面につけた瞬間、後方、壁の中から大きな光が放たれた。

「え……?」

一瞬だけそれはぱっと光りその後私は熱を感じる。私は瞬時に理解してしまった。腰が抜けてしまってその場にへたり込む。立とうにも立てず腕に力を入れても足を踏ん張ろうとしても崩れてしまう。次第に中から人々のどよめきと叫び声が聞こえ始めた。やっとの事で力が入り立てた私はコンパクトをみるとまだどこかを指している。今の状況で光の方なんて行けるもんか。私はこれに惹かれてたまたま外に出てしまったから良いものの師匠達が、町の人たちは取り残されている。行かなきゃ、師匠と逃げなきゃ。私が町に戻ろうとすると何故か足が前に進めなかった。どんなに力を入れても足が前へ前へと動いてくれない。それどころかコンパクトが指す方向へ勝手に足が動く。

「どうして……嫌だ、だめだってば……!」

 私の思い通りに動くはずの足は光の筋の方へとしか私の指示構わず歩いてくれない。町の状況を、師匠は無事なのか確認したいはずなのにどんどん離れてしまう。そしてコンパクトの方へ気を向けると指す方向が明らかになり少し進んだ森の中にある塔のような高い建造物の頂上を指していた。あと少しで着いてしまう。着いたら私は自由に動けるのか、それとも…。今は自分が望んでいない行動をしていると分かっているのに足がまったく言うことを聞いてくれない。はやく、はやく。森の中へ塔の中へ、狭い塔の中にあった建付けの悪い階段を登らされる。はやく、はやく。一段一段感じて残り一つの段となった。はやく、はや、く。


 頂上から見えた景色は私が想像を絶する物だった。


 人々の大半は町から逃げられたようで私の知らなかった壁の隠し門が開いておりそこから逃げることに成功したたくさんの人々が抱き合って泣いて感情が抜けたようにぼうっと立っていて、みんなとても怖がっていた。それだけなら、良かったのに、百をゆうに超える人々が火の上がる町明かりで近づいてしまった魔物たちによって襲われていた。獣のような魔物が一匹現れたかと思うと何匹も現れて私の前でみんなが、あの獣の大きな爪で、引き裂かれていく。歯ががちがちと震えて足の間から水気を感じる。下着から染み出てぽたぽたと床にしみを作る。今すぐにでも叫んでしまいそうで震える手で口を塞いだ。今叫んだら私もああなってしまう事が怖い、逃げたい。それと同時に安堵感が出てしまう。手元から滑り落ちて地面にカツンと当たっても尚光り続けるコンパクトが外を導いていて良かった、と。そうでなければ私も死んでいた?目の中に映る景色のように。それだけはごめんだ。身勝手だけれど私は生きていたい、から。自分の思考をまとめることで精一杯で目の前の景色は一切見えていなかったが、もう大半は鋭利な爪で切り裂かれ真っ赤な血を流し倒れていた。小さな子供から年老いた人まで、その中の何人かは内蔵が遠くからでもだらしなく伸びてしまっているのが見える。そして魔物はそれを貪っていた。それから少し時間を置いて魔物は去って行く。そして私も時間が経つと我に返り慌てて町の方へと走った。もしかしたら魔物が私の存在に気づいてまた来てしまい死んでしまうかも知れないけれど、これだけは確認しておきたかった。森を抜けて遺体が転がる無惨な花畑へとたどり着き、私は師匠の姿を探した。しかしどんなに探しても師匠は居なかったどころか逃げている様子も見えない。まだ火が上がる中に……。

「そんなに探しても居ないぞ。」

 いつもの聞きなれた声が脳裏に響き、鼓動を揺らす。声が聞こえるのは頭上。思わず視線を上げてしまう。

「なんせ私は生きているからな。」

 背の高い壁の上に腰掛けて座り満面の笑みを浮かべている師匠と目が合った。会えたことが嬉しくて、無事なのが嬉しくて私が師匠の元へ行こうとすると師匠は火の魔法を私目掛けて勢い良く放った。

「やれやれ、ラミア。お前だけ逃げられてしまうとはな……。師匠失格だ……。弟子の行動も読めないだなんてな……。」

 しくしくと泣き真似でもするかのように眉を下げて悲しそうな目で見てくる。私は師匠の魔法を直接当ってしまい地面に叩きつけられた衝撃で背中がとても痛んだ。おまけに火の魔法だったから服が焼けてしまって身体に熱を感じる。理解が追いつかなくて思考が回らない。本当は今何が起きているか分かるけどこんなこと理解したくなかった。怖くて閉じてしまった目を開けることが出来ない。逃げたくても体が動かない。

「このままここで死んでくれ。私の親愛なる弟子、ラミア。」

 驚いて目を見開くと、いつものおちゃらけた笑顔を見せた師匠は私に向けて魔法攻撃を浴びせた。魔法攻撃の光がまるでいつか師匠と見たことのある何かに似ている。嗚呼、思い出せない。


 最期に光の中で微かに見えた師匠は今まで見た中で1番嬉しそうで楽しそうな笑顔を作って私を微笑ましそうに見ていた。

私は重い瞼を落とすことしか出来なかった。


「魔女なんか悪いやつしかいないぞ。ラミア。」

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