from the hurt
たった一つの台詞から読み取れる人物像というものがある。
「あの、先輩って、彼女さんとか...いらっしゃるんですか?」
このセリフに対して私は
"黒髪でロングヘアー、スカートもきっちり膝より下まである、清楚でおとなしいその姿はまさに大和撫子。"
のような後輩女子を思い浮かべる。
では次の台詞ではどうだろうか。
「あれ、そういや先輩って彼女とかいましたっけ?」
言葉の内容も発信者が後輩女子であることも変わらないのに、受ける印象は大違いだ。
先ほどよりももっとフランクな、なんとなく小生意気な女の子の姿が見える。
どちらがいい、という話ではないが個人的に好みなのは前者だ。
(多分)自分の癖がどうとかではなく、素直で優しくて可愛い後輩が欲しかった。
しかしながらそんな願いは叶うはずもなく。
私の後輩になったのはからかいや煽りが大好きな後者型の女子だ。
そして先ほどの質問に答えるならば―――
「お前俺が彼女いない歴=年齢と知ってるのにそれ聞くか?」
となる。悲しい現実を思い起こさせないでほしい。
「だってー、そろそろあれなんですよ、あれ」
「春分の日な」
「ホワイトデーです。先輩はお返ししいないといけない人とかいるのかなって気になるじゃないですか」
そんなもの
「いるに決まってる」
「ですよねー」
つまるところ、目の前のこいつに一応チョコを貰ったのでお返しをしないといけないのである。
この会話はその事実の確認作業に過ぎない。
そもそもバレンタインに個人名指しでチョコを貰うなんて経験が初めてすぎて何を返せばいいんだかさっぱりだ。
お返しに意味があるってなんだよ...
「せっかくの本命チョコなんですから、豪華なお返し期待してますよー?」
「お前全員に本命ってに言って渡しただろ」
「いやいや、先輩だけにですって」
「嘘つけ証拠は挙がってんだ」
「あちゃ~」
これだぞ?
本人的には一応"本命"(の一つ)らしいチョコに対するお返しなんて、どれだけAIに聞いても答えがブレるだろう。
それでも
「でも先輩が本命チョコを初めて貰う機会を作ってあげたんだから感謝してほしいくらいです」
なんて煽り続けてくるので、
「んじゃマシュマロでいいか?」
なんて返してみた日には、結構絶望した顔で言葉に詰まるもんだからやりきれない。
そこからちょっと、いや、結構フリーズした後に
「ぜ、全然それでもいいですよー?」
とか思ってもないことを返してくる。
どうやら本人はそれで動揺を隠せたと思っているみたいなのだ。
『先輩、チョコ貰ったことないのにそんなことわざわざ調べてたんですねーw』
くらいの煽りが返ってくると覚悟しただけに、ちょっと拍子抜けというか罪悪感が生まれるというか...
というわけで、俺もこいつに対する態度を決めかねている。
「あ、でも先輩お返しの意味とかちゃんと調べる人だったんですね」
「昔マシュマロはよくないみたいな話を小耳に挟んだだけだ。調べたわけじゃないからな」
嘘だ。正確には小耳に挟んだ話であることは本当だが、その後一応調べた。
「なーんだ、チョコを貰うことを妄想して必死に意味ない調べものだけする先輩はいなかったんですね」
「黙秘で」
先ほど一瞬見せた暗い顔なんて全くなかったかのような清々しい煽りだ。
てかやっぱりこの手の内容言ってくるつもりだったんじゃねーか。
「あと先輩、これは真面目な話なんですけど」
「.珍しいなかしこまって」
「かしこまるべきなんです。大事なことですから」
「それじゃあ聞こうか」
「はい、とても残酷な話なんですけど...」
残酷?
「先輩はどうせこの先私以外からの本命チョコを貰うことなんてないですよ」
「舐めんな」
「あははっ」
”この先私以外から本命チョコを貰うことなんてない”―――
つまりはそういうことだよな。
もう一つ残酷な話をするなら、俺はお前が思うほど鈍感な人間じゃないんだ。
え?多分そういうことだよな?
どういう意味を含んだ言葉かなんて流石にわかるぞ。
しかしここで直接「お前は俺のことが好きなのか?」と問うことが出来ない俺はヘタレなのだろうか。
あっちだは思わせぶりな態度をしたうえで受け身の姿勢なのだから、向こうの方がヘタレと言えるだろうに。
うん、向こうがヘタレなんだ。俺は悪くない。
「ところで」
「うん」
「私、先輩のこと好きですよ」
訂正。俺だけがヘタレだ。
知ってた(というには半信半疑)のに動揺が隠せない。
「...は?」
「だから、私、先輩のこと好きなんです」
「あぁうん、えぇっと」
「こんだけ回りくどく匂わせてもこれですから、事前準備無しならショック死しちゃってたかもしれませんね」
認めたくはないが何も反論できない。
「ってことなので...これを踏まえたお返し、待ってますよ?」
「私、期待してますから」
傍から見るとずっといちゃついてるだけの両片想い的じれじれカップルが大好きです
この後どうなったかについては...