9話 規格外
「では、地上を目指すついでに、旦那様に稽古をつけようと思う」
地上に向かう途中、ルルはそんなことを言う。
「とはいえ、我が直接、稽古をつけるのは先なのだ。旦那様の戦闘センスは天才的ではあるが、さすがに、まだ我には届かない。そこらの魔物を相手に戦い、さらに技術を高めていってほしい」
「ああ、了解だ」
「ただ、武具がまったくない状態なので、ちと辛いだろう。そこで、魔法を教えようと思う」
「魔法!」
テンションが上がる。
「どうしたのだ、旦那様よ? 突然、目をキラキラさせて」
「冒険者といったら、やっぱり、魔法なのかなー、って」
「ふふ、子供みたいなのだ。でも、それはすぐに現実になるぞ」
一度足を止めた。
それから、ルルは魔法についての講義をしてくれる。
「曰く、魔法とは……」
魔法の成り立ち。
魔法の歴史。
魔法の構造……まずは、基礎知識を叩き込まれた。
それから、魔法の発動方法を学ぶ。
「……と、いうわけなのだ。こうすれば魔法を使うことができる」
「なるほど」
「ただ、魔法は難易度の高い技術なのだ。才能がある者でも、最低ランクの魔法を習得するのに1か月はかかる。まあ、旦那様はさらにその上を行く天才っぽいから、1週間もあれば……」
「ライト<光>」
意識を集中。
体の中に流れる『力』を手の平に集めて、一言、力ある言葉をつぶやいた。
それに呼応して、ぽわっと、光の球が出現する。
「あ、できた」
「はぁっ!?!?!?」
ルルがめっちゃ驚いていた。
僕の手の平に浮かぶ光の球をまじまじと見つめて、あんぐりと口を開けている。
「ほ、本当にできているのだ……」
「ルルの教え方が良かったからだよ、ありがとう」
「いやいやいや!? 我は基礎を語っただけに過ぎないぞ!? いくらなんでも早すぎるのだ!!!」
「基礎は大事っていうことだな」
「大事だけど! 大事だけど! でも、そうではなくて、1分で習得する旦那様がおかしいのだ!!!」
「それはルルが丁寧に教えてくれたから、ルルのおかげだ」
「だから我は基礎を……いかん。話がループしておるぞ……」
「あ、そうそう。故郷にいた頃、魔法の講義を受けていたから、そのおかげかもしれないな。実技はやっていなかったけど」
「たったの1分で魔法を習得できるような講義なんて、聞いたことも見たこともないのだ……旦那様の故郷に対する謎がますます増えたのだ……」
なぜかルルは疲れた様子だ。
「大丈夫か? 疲れているのなら、また今度にしよう」
「大丈夫なのだ……旦那様の非常識さと、故郷に対する謎がけっこう深まり、ちょっと驚いていただけなのだ」
悪魔に常識を語られても。
「えっと……よしよし」
「ふぁ!?」
子供にやるような感じで、ルルの頭を撫でてみた。
村にいた頃、こうすると子供は喜んでくれたんだよな。
「俺のためにありがとう、ルル。それと、おつかれさま」
「お、おぉぉぉ……これは、やばいのだ。旦那様の手、優しくてドキドキするのだ」
ルルは、「よし!」と気合を入れ直した。
「元気が出たぞ! では、引き続き、魔法の練習といこう!」
「ああ、了解」
「次は、攻撃魔法なのだ。頭がおかしいレベルの才能を見せた旦那様なら、初級魔法は飛ばしてもいいだろう」
それ、褒めているのか?
けなしていないよな……?
「中級魔法の『フレア<紅蓮>』にしよう。旦那様なら、まあ、また1分くらいで習得できるのだ」
「フレア<紅蓮>」
ドガァッ!!!
「あ、できた」
「……10秒とは、さすがの我も予想外なのだ」
なぜか、ルルの顔が引きつっていた。
「と、とにかく……その魔法を使い、魔物を相手にしてみよう。旦那様は、今、武器をなにも持たぬからな。拳だけで戦うのは、ちときつかろう。そこで、魔法を戦いに組み込むのだ。魔法は威力は高いが、連射はできぬ。乱発もできぬ。ここぞというタイミングで使うことが大事なのだ」
「なるほど……了解」
「ちょうどいいところに、またサイクロプスがやってきたな。旦那様よ、やってみるがいい」
サイクロプスを練習相手にするなんて、ずいぶんと贅沢な練習だな。
妙な感覚を得つつ、サイクロプスと向き合う。
「ガァッ!!!」
威嚇の咆哮を放ちつつ、サイクロプスが棍棒で殴りかかってきた。
威力、速度、共に抜群なのだけど……
今の俺は、その攻撃をしっかりと見極めることができた。
最小限の動きで回避。
隙を見つけて距離を縮めて、カウンター。
さらに小刻みに攻撃を叩き込んで……
「フレア<紅蓮>!」
魔法を解き放つ。
「グガガガッ……!?」
サイクロプスは魔法に耐えてみせた。
なら……
「フレア<紅蓮>! フレア<紅蓮>! フレア<紅蓮>!」
「連射した!?」
「さらに、フレア<紅蓮>!」
「乱発している!?」
そして……
「全力の……フレア<紅蓮>!」
ゴッ……ガァアアアアアッ!!!
ダンジョン全体が赤く照らされるかのような、巨大な炎が湧き上がる。
それはサイクロプスを包み込み、肉を骨を魂を、全てを燃やし尽くしていく。
後に残るものは、灰だ。
「……は?」
「よし! ルル、見ててくれたか? 今、けっこううまくやれたと思うんだけど……」
「や、やれたといえばやれたのだが……なんか、こう、色々とおかしくないか? 連射も乱発もできないはずなのだが、その条件を無視して……あと、威力がおかしくないか? あれは、もっと普通の威力だったと思うのだが、最後は特別に違っていたのだ……?」
「この辺りを魔物を相手にするなら、ちょっと物足りないかなって思って、魔法の構造式に手を加えてみた」
「魔法の構造式に手を加えたぁ!?」
なぜかルルが派手に驚いた。
「いやいやいや、待て。魔法の構造式は、それ自体が完成されたもので、金庫のようなものなのだ。我ら悪魔でも、手を加えることができる者は限られているのだぞ……?」
「村のみんなは、わりと当たり前にやっていたんだが……?」
「だから、旦那様の故郷は色々とおかしくないか!?」
「そんなことはないだろ。今のヤツ、子供でもできるようなことだからな。大人は、もっとすごいことをしていたぞ」
「サラッとすごいことを告白された!? ああもうっ、旦那様の故郷が気になりすぎて、今日は眠れそうにないのだ! うだぁーーーーー!!!」
ルルは頭を抱えつつ、とにかくひたすら思い切り大きな声で叫ぶのだった。
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