7話 さらにおかしいぞ?
「ナイスファイトなのだ!」
サイクロプスを倒した。
俺が?
「……」
信じられない。
信じられないけど……
目の前には、ぴくりとも動かないサイクロプスの死体が。
「これ……本当に俺が?」
「うむ。見事な戦いだったぞ? いきなり1000もレベルアップしたから、その力に振り回されるのではないかと、ちと心配していたが、旦那様は見事に使いこなしていたな。戦いのセンスがあるのかもしれん」
「そう、かな?」
「我は世辞は言わぬ。冒険者にも向いているのではないか? ここから出たら、改めて冒険者をやるという選択肢もあると思うぞ」
「そっか……ありがとう、ルル」
「どういたしまして、なのだ!」
俺は笑みを浮かべて……
ルルも、にっこりと笑う。
なんていうか……こういうの、いいな。
一緒に笑ってくれる人がいる。
それだけで心が温かく、豊かになるような気がした。
……と、その時。
「グルァッ!!!」
「え」
突然の咆哮。
ほぼ同時に、ドガァッ! という轟音が響いて、ルルが吹き飛ばされた。
じっと身を潜めていたのだろうか?
三つの頭を持つ獣型の魔物……ケルベロスがそこにいた。
「ルルっ!!!?」
悲鳴がこぼれる……
――――――――――
「……いてて、なのだ」
不意打ちで吹き飛んだルルは、いくつかの壁を貫通した。
瓦礫の山を吹き飛ばしつつ、起き上がる。
「我としたことが、犬ころに一撃をもらうとは。うーむ、意外とレベルダウンの影響を受けているのか? いや、油断していただけか。旦那様との会話に全神経を割いて、なによりも優先して集中していたからだな」
ルシフェルは犬ころと表現するが、ケルベロスは、レベル1200の天災級の魔物だ。
もしも国に出現すれば、そこは滅びを免れないだろう。
全人類が総力をあげて戦わなければいけない存在だ。
このダンジョンは、表層は一般的なものと変わらない。
しかし、深部は『煉獄』と呼ばれている、Sランクオーバーの魔物が当たり前のように闊歩して……
魔王も裸足で逃げ出すほどの危険地帯だ。
ルルはさらにその上の上をいくものの、油断すれば、今のように一撃を食らうことがある。
もっともダメージは皆無に等しいが。
「旦那様との時間を邪魔されるのもあれだし、ちと鍛え直した方がいいかもしれぬな。っと……それよりも旦那様だ。今の旦那様では、あの犬ころの相手は厳しいやもしれぬ。すぐに行かねば」
カイルのことが心配になり、ルシフェルはさきほどの場所へ戻る。
そこで見たものは……
「……よくもルルをやってくれたな」
「ギャオオオオオォッ!?!?!?」
ケルベロスを圧倒するカイルの姿だった。
「……は?」
思わず、ルルはぽかーんとしてしまう。
カイルは、ケルベロスの動きを的確に予測して、その攻撃をミリ単位で完全に見切る。
音を超えるほどの猛攻を、カイルは全て避けて……
カウンターの拳を叩き込む。
武器を持たず、ただの素手。
しかし、ルルの背中が震えるほどの魔力が込められていて、一撃一撃が果てしなく重い。
巨人の槌を叩きつけられているようなもので、鉄よりも硬いと言われているケルベロスの装甲を貫いて、その身にダメージを蓄積させていく。
「グゥウウウ……ガァッ!!!」
ケルベロスは尻尾を槍のように突き出して、起死回生の一手を打つ。
ケルベロスの真に警戒するべきところは、三つの頭部ではなくて、尻尾だ。
その尻尾の骨は全身で一番硬く、分厚い鋼鉄の板を一撃で貫くことができる。
人が受け止めたのなら、瞬間的に爆砕して、粉々になってしまうだろう。
それでいて鞭のようにしなやかに、自由自在に操ることができた。
それなのに……
「ギアッ!?」
カイルは、ケルベロスの尻尾を受け止めて見せた。
掴んで、止めて……
そして、叩き折る。
再びカウンター。
今度は拳を連打して、ケルベロスを地面に這いつくばらせてやる。
大人と子供。
ゾウとアリ。
それほどの差が見えて、カイルはケルベロスを圧倒していた。
「……いやいやいや、ど、どういうことなのだ? こんな……こんなこと、ありえないのだ……」
ルシフェルはもう、唖然とするしかない。
カイルはルシフェルと契約をしてレベルアップした。
強くなった。
ただ、ルシフェルの見立てでは、レベル1000ほどだ。
普通に考えて、レベル1200のケルベロスに敵うわけがない。
うまく立ち回れば、それなりに善戦できるかもしれないが……
力を得たばかりのカイルがそのようなことをするのは、ほぼほぼ不可能だ。
「な、なんなのだ、この旦那様の力は……? おかしいのだ……まさか、経験値を共有するだけではなくて、我の力の根源にさえ触れてみせた……? いや、さすがにそれはありえない。それはもう、人間ではなくて神の領域だ。そうなると……単純な技術? 戦いのセンス?」
カイルはレベル1だった。
しかし、いきなり1000になったら?
子供が伝説の聖剣を手にするようなものだ。
うまく扱うことなんてできず、力に振り回されるのが当たり前。
さきほどのサイクロプス戦でうまくいったのは、まぐれのようなものと考えていた。
たまたま、だ。
しかし、偶然ではないとしたら?
カイルならば可能という、必然だとしたら?
カイルは、いきなり与えられた強大な力を『使いこなして』いた。
振り回されることなく。
最初から己の一部だったかのように。
的確に正確に、これ以上ないほど洗練された動きだ。
それは才能なのだろう。
戦いのセンスなのだろう。
人はそれを……
「……天才なのだ」
そう呼ぶ。
「終わりだ」
冷たい目をしたカイルは、ケルベロスの頭部三つに、それぞれ拳を叩き込む。
衝撃が内部に伝わり、脳を破壊して……
天災級の獣は力なく倒れた。
「旦那様!」
「あっ……!? ルルっ!!!」
声をかけると、カイルはいつものカイルに戻った。
安堵した様子の笑みを浮かべて、急いでルルのところに駆け寄り、そのまま思い切り抱きしめる。
「はわっ!?」
「よかった! 生きていたんだな!」
「あ、いや、その……う、うむ。あれくらいでどうにかなるほど、我はやわではないぞ」
「よかった、本当によかった……ルルがどうにかなってしまったんじゃあ、って、すごく心配で……」
「いや、あの……はにゃあ……そ、そんなに情熱的に抱きしめられると、やっぱり、どうにかなってしまいそうなのだ……」
笑顔のカイル。
照れ照れのルル。
とりあえず……
いつもの平和を取り戻して、それに浸る二人だった。
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