6話 おかしいぞ?
「旦那様よ、我から離れるでないぞ? 鍛えるとは言ったが、まずは、我が手本を見せるから、どのような魔物がいるか把握してくれ」
「ああ、わかった」
ルルと夫婦になったものの、新婚生活をダンジョンの最深部で送るつもりはない。
地上に出ることにして、俺達は、ダンジョンの出口を目指して上層を目指していく。
ダンジョンなので、当然のように魔物が出現するのだけど……
「グギギギッ!」
「大悪魔ぱーーーんち!」
ルルの一撃で魔物が粉々に砕けた。
「今の魔物って……Aランクのサイクロプスだよな? たった一体で街を滅ぼすことができる、っていう災厄級の……それを一撃なんて、ルルは、本当にすごいな」
「ふっふっふ、これしきで驚いていたら身が保たぬぞ? 我はまだ、真の力の一億分の一も出していないのだからな!」
「おー!」
「うっ、そんな子供のような純粋な目を向けられると、ちょっと罪悪感が……」
「?」
「こほんっ……それはともかく、旦那様も同じことができると思うぞ?」
「え? いや、そんな無茶を急に言われても……」
俺がAランクの魔物を倒す?
無理無理、ありえない。
「ルルは冗談がうまいな」
「冗談ではないぞ。旦那様は、本当に……おっ、ちょうどいいところに」
重い足音を響かせながら現れたのは……
「また、サイクロプスかよ!?」
3メートルはあろうかという巨体。
筋肉の鎧をまとう、一つ目の魔物だ。
その力は圧倒的で、門を一撃で叩き壊すほど。
災厄級の魔物と連続で遭遇するなんて、このダンジョンは、いったいどうなっているんだ!?
……よくよく考えれば、そのサイクロプスを一撃で粉砕して、なお、たっぷりの余裕を見せる、ルルがいるようなダンジョンの最深部だ。
化け物がそこらを徘徊していたとしてもおかしくないか。
「よしいけ、旦那様! しっかりと見て、うまく戦えば、今の旦那様なら勝てるのだ!」
「すごい無茶振りだな、おい!?」
「大丈夫なのだ。初戦としては、ちょうどいい相手なのだ」
「災厄級の魔物がちょうどいいわけあるか!? おい、背中を押すな!?」
無理矢理前に出されてしまう。
「グルァッ!!!」
俺をターゲットに定めたらしく、サイクロプスがギロリとこちらを睨みつけた。
咆哮を響かせつつ、手に持った大木のような棍棒を叩きつけてくる
「っ……!!!」
もうダメだ。
俺は、意味がないとわかりながらも体をかばうようにして両手を突き出して、目を閉じた。
そして、すぐにやってくるであろう衝撃を覚悟して……
……
……
……
「うん?」
なにも起きない?
不思議に思い目を開けると、
「え……!?」
俺の両手は、しっかりとサイクロプスの棍棒を受け止めていた。
大した衝撃もない。
両腕が砕けることもない。
圧倒的な力と速度に対応できていた。
え? いや、待て……え?
ど、どいうことだ……???
「ふっふっふ……驚いたか、旦那様よ!」
「ルル? えっと……これは?」
「我と契約をしたことで得た力なのだ」
「……契約……」
「通常の契約は、悪魔が人間の願いを叶えて魂をいただく。しかし、旦那様の妙案により、今の我らは互いの目的が両立して、願いを共有しているような状態なのだ。願いを共有する……それはつまり、心を、魂を分け合うということ。自己と相手を一つにして、運命が共有された。即ち、魂の共有。これにより、自己と相手の境界線が揺らぎ、一体化に近づく。もちろん、肉体と心は別だ。これはあくまでも魂の話であるからな。そして、互いの運命が一体化することで、現実を書き換える。我の心と魂、即ち、経験を共有して……」
「ごめん、わかりやすくお願い」
「我が欲しい、という旦那様の願いに反映される形で、今までに我が得た経験値の一部が旦那様に流れ込んで、めちゃくそレベルアップした」
なるほど、わかりやすい。
普通なら、そんなバカな、って驚くところなんだけど……
「ガァアアアッ!!!」
話をしている間、サイクロプスが何度も何度も攻撃をしてくるのだけど、それを全て受け止めることができていた。
一撃で岩を粉砕するほどの力が込められているはずなのに、簡単に受け止めることができる。
こんなこと、大きくレベルアップしていなければ不可能だ。
「すごいな、これ……」
「ふっふっふ、すごかろう? 我は、大悪魔だからな! 今までに得た経験値も相当なものなのだ」
「俺は今、どれくらいのレベルなんだ……?」
「たぶん、1000前後だと思うぞ」
「せっ……!?」
いやいやいや。
ちょっと待て?
一般人のレベルが一桁。
冒険者や騎士は30前後。
勇者は100から200。
そして、魔王のレベルは500と言われているが……
俺、ルルと契約したことで、魔王のニ倍くらいのレベルになっていたのか……?
「あれ? でも、そうなるとルルの経験値が減って弱体化するんじゃあ……」
「問題ないぞ。たかが数百レベル減っただけなのだ」
「数百をたかが、って言える根性がすごいな……」
驚きを通り越して、もはや呆れるしかない。
ルルのレベルは、たぶん、もっともっと上……5000くらいあるのだろう。
そこまで到達しているのなら、数百は些細な数字だろう。
「さて……旦那様よ、そろそろ決着をつけてやるといい」
「そ、そうだな。えっと……」
武器は持っていないけど、素手でなんとかなるかな?
サイクロプスは必死な様子で、吠えながら棍棒を振り下ろしてきて……
その渾身の一撃も、俺は、すっかり慣れた感じで手で受け止めた。
ただ、そこで終わらせない。
棍棒を掴んで、力を込めて……
バキィッ! とへし折る。
「グガッ……!?」
武器を失い怯むサイクロプス。
その隙を見逃さず、接近。
地面を蹴り跳躍して、頭部に蹴撃を叩き込んだ。
骨を折る手応えが伝わってくる。
ぐらり、とサイクロプスの巨体が揺らいで……
そのまま倒れて、絶命した。
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