4話 予定と違う
「くそっ、ろくでもないダンジョンだったな」
トッグは、酒場でやけ酒を煽っていた。
ダンジョンでカイルを生贄にして、莫大な財宝を手に入れるはずだった。
しかし、大したものを手に入れることはできず、収穫はほぼほぼゼロ。
やけ酒を煽る以外の選択肢はなくて、酒場に直行していた。
「ほんと、無駄しかない冒険だったねー。ってか、あのお荷物のせいじゃないの? つまらない生贄だったから財宝がもらえなかった、とか」
「ありえるわね。レベル1っていうグズだったから、悪魔も、こんなのはいらない、って返却したんじゃないかしら?」
トッグの仲間であるレイリーとイザベラも酒を飲んでいた。
彼ら三人が、Aランクパーティー『漆黒の牙』で……
そして、裏では『初心者狩り』として悪事を働いている犯罪者だ。
「はははっ、ありえるな。あのガキ、とことん使えなかったからな。ったく、最後くらいは俺等の養分になれってんだ」
「マジでそれ。ほんと使えなーい」
「まあ、あの子が残した財布とかで、こうして美味しい酒を飲めているから、そこは感謝してもいいかもしれないわね」
三人は笑う。
堂々と悪事を吐露しているが、誰も彼らを咎めようとはしない。
ここは、そんな連中が集まる酒場。
彼らが語る悪事なんて日常茶飯事で、誰も気にすることはない。
「まあ、正規の依頼じゃなくてよかったな。正規の依頼だったら、失敗して、俺等の評判に傷がついていたところだ」
「そうね。せっかくAランクになったのだから、このまま……あら?」
Aランクの冒険者証を誇るように見つめていたイザベラは、ふと、怪訝そうな顔になった。
レイリーが小首を傾げる。
「どうしたの?」
「……確か、冒険者証を使うことで、最低一ヶ月、一度パーティーを組んだ相手の魔力反応を調べることができたわよね?」
「そだね。パーティーメンバーの状態を簡単に把握できる、っていうのは一つの売りだし」
「……カイルの反応がまだ残っているわ」
「なんだと?」
トッグは慌てて自分の冒険者証を取り出して、確認をする。
「……確かに、カイルの魔力反応が消えてないな」
「え、マジで? ……うわっ、本当だ」
「最深部まで落ちたはずなのに、生きている……? 悪魔の生贄にされたのに?」
「生きているのなら、俺等が財宝を手にできなかったのもわかるが……そもそも、なんで生きているんだ? 悪魔は狡猾で残虐で、人間の命をおもちゃのように扱い、最終的に魂を喰らうんだろ?」
「そう聞いているけど……」
「あっ、わかった! これって、冒険者証のバグじゃない?」
レイリーが閃いた様子で言う。
「あんなのがダンジョンの最下層に落ちて生きていられるわけないし、バグ以外にありえないっしょ」
「それは……いえ、そうかもしれないわね。冒険者証も、たまにエラーが起きるみたいだから、こんなバグもあるかもしれないわ。そうでしょう、トッグ?」
「ん? それは……」
レイリーの声反応せず、トッグは冒険者証を見つめる。
「どうしたの?」
「あ……いや。なんでもねえよ」
なにか嫌な予感がした。
でも、それをうまく言葉にすることができなくて……
「ま、あんなヤツの話はどうでもいいだろ。それよりも酒だ、酒。飲もうぜ!」
胸のもやもやをごまかすように、トッグは酒を豪快に煽るのだった。
――――――――――
「……今、なんて?」
聞き間違いでなければ、『旦那様』と聞こえたような……
「旦那様」
「聞き間違いじゃなかった!?」
「どうしたのだ、旦那様よ?」
「それ!」
びしっと指を差す。
「『旦那様』なんて、それじゃあ、まるで夫婦みたいじゃないか」
「そうだぞ? 我と汝は、固い絆で結ばれた夫婦なのだ!」
「あれ!?」
告白はされたけど、でも、それは恋人になるという意味だと思っていたんだけど……
そうじゃなくて。
「プロポーズだったのか!?」
「む? なぜ驚いているのだ、旦那様よ」
「いや、だって驚くだろう! 恋人関係だと思っていたら、それを一気に飛ばして夫婦関係なんて!」
「悪魔は情熱的なのだ!」
そこでドヤ顔をされても……
「そっか……恋人じゃなくて、夫婦だったのか……」
「……もしかして旦那様は、後悔しているのか? 我と夫婦になりたくなかったのか……?」
ルシフェルがとても不安そうな顔になる。
しまった。
俺のせいで不安にさせてしまうなんて、夫失格じゃないか。
って、あっさりとこの状況を受け入れているな、俺。
わりと、こうなることは運命だったのかも。
「いや、そんなことはないさ」
「しかし……」
「恋人だと思っていたから驚いただけ。キミと夫婦になれることは、色々と段階を飛ばしているものの、でもまあ、素直に嬉しいと思う。でも……」
「でも?」
「……俺なんかでいいのかな? とは思う。俺じゃあ、キミの夫にふさわしいのかどうか……少し自信がないな。俺のせいで、キミを不幸にしてしまったら申しわけない」
「はぅんっ」
ルシフェルは胸元に手をあてて、ぐらりとよろめいた。
「こんな時まで我のことを気にしてくれるなんて……旦那様、ちょー優しい。しゅき」
「ルシフェル?」
「旦那様は、なにも気にする必要はないぞ! ふさわしいとかふさわしくないとか、関係ないのだ! 必要なのは、愛なのだ!」
「えっと……」
「そして、我には愛がある! 旦那様のこと、めっちゃ好きで……あぅ、自分で言ってて照れてきたのだ」
微笑ましい。
「と、とにかく! す、好きだから……気にしないでいいと思うぞ?」
「……わかった、そうするよ」
彼女の言う通りだ。
他人からどう見られるのか、いちいち気にしても仕方ない。
それよりも、大事なのは当人達の気持ちだ。
「ごめん、弱気なことを口にして」
「いや、気にしていないのだ。むしろ、旦那様のことをまた一つ知ることができて、我は嬉しいぞ」
「そうだな。俺も、キミのことを知ることができて嬉しいよ」
出会ったばかりで夫婦になったけど……
こうして、一つ一つ交流を積み重ねていこう。
それはいつしか思い出になって、かけがえのない宝物になるはずだ。
「改めてよろしく、俺のお嫁さん」
「うむ! よろしくなのだ、我の旦那様!」
俺達は笑顔で握手を交わすのだった。
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