37話 さらに上を行く
「吠えたなっ、ガキが!」
俺の言葉が開始の合図となり、トッグが突撃してきた。
速い。
以前とは比べ物にならないほどの速度だ。
これもレベルアップのおかげだろう。
ただ……
「ちっ、やるな!」
俺は、トッグの攻撃を全て避けてみせた。
偶然じゃない。
運が良いわけでもない。
これは必然だ。
「ところで、てめえは得物を持たねえのか? 忘れた、っていうなら待ってやるぜ?」
「いや、大丈夫。俺の武器はコレだから」
拳を構えた。
ルルやミリーに稽古をつけてもらう中、色々な武器に触れたけど、どれもしっくりと来なかった。
あと、ちょっと力を入れると簡単に壊れてしまう。
なので、一番わかりやすく扱いやすい拳を武器とすることにした。
「格闘術、ってか。ま、それも嫌いじゃないぜ? 極めたヤツは、鉄板を拳で貫くからな。カイルも1200レベルってなら、それくらいはできるだろ?」
「そうだね。でも俺は……」
「まあ俺は、鉄板を紙のように切り裂くことができるけどな、はははははっ!」
トッグは自慢するように笑いつつ、再びの突撃。
今度は、単純な真正面からの突撃じゃない。
左右にステップを踏みつつ、フェイントを混ぜている。
それから右から回り込むようにして、接近。
間合いに入ると同時に、剣を叩きつけてきた。
「はははっ、これで死ねよぉ!」
「死なないよ」
「は?」
振り下ろされた剣を腕で受け止めた。
腕が斬られることはなくて、傷つくこともなくて、盾のように剣を受け止める。
トッグの目が丸くなる。
「「え?」」
ルルとミリーの目も丸くなる。
その後ろのみんなも唖然としていた。
みんな、どうして驚いているのだろう?
体を巡る魔力を一点に集中させて、肉体の強度を増す。
硬魔功と呼ばれている技法だ。
わりと簡単な技術で、新米冒険者でも習得可能だ。
だから、それほど驚くようなことはしていないのだけど……
「いやいやいや、待て、旦那様よ。硬魔功は我も知っているが、剣を受け止められるなど、聞いたことがないぞ?」
「マジ、ルシフェル様の言う通り。ってか、そいつのレベル1200で、しかも剣は特別性。それ、あたしでも腕、斬られちゃうパターンなんですけど」
「まさか。ルルとミリーは冗談がうまいね」
「「いやいやいや、冗談じゃないから!?」」
冗談じゃないとしたら、俺を応援してくれているのだろう。
トッグなんて大したことないよ、と。
そうやって、緊張しないようにしてくれているに違いない。
うん。
やっぱり、二人は優しいお嫁さんだ。
「てめえ……カイルごときが俺の剣を受け止めるんじゃねえっ、おとなしく斬られてろ!!!」
「そんな無茶な」
「黙れっ、死ね!!!」
やはり無茶を言いながら、トッグは連続で斬りかかってきた。
その剣筋は鋭い。
様々な角度からの攻撃で、変幻自在というべきだろう。
ただ……
怖くない。
「なんで……」
五分ほど猛攻を繰り返して……
それでも、俺は傷一つついていない。
自分で言うのもなんだけど、平然としたものだ。
一方のトッグは肩で息をしていた。
怪我はないものの疲労は大きい。
ギロリとこちらを睨みつけて、怒り混じりに叫ぶ。
「なんで俺の攻撃が当たらねえんだ!? 俺は、レベル1500なんだぞ!!!? 呪装備も使っているんだぞ!?」
「……単調なんだよ、トッグの攻撃は」
「は?」
「色々とフェイント織り交ぜたり、同じ軌道の剣撃は使っていないけど……なんていうか、癖があるんだ」
短い間だけど、トッグと同じパーティーにいた。
そこで彼の剣技を間近で見た。
だからこそ彼の癖がわかる。
右から来たら左に抜けていく、とか。
縦に振り下ろすと見せて、ワンテンポずらして斜めに切り裂いてくる、とか。
「トッグの剣の癖は、全部、覚えているよ」
「ば、ばかなことを言うな……そんなこと、そんなふざけたこと、できるわけねえだろ!? そんなこと、トップランカーのSランク冒険者でも不可能だぞ!? 見ただけで相手の癖を見抜くなんて……!」
そんなはずはない。
俺でも見切れるくらいだから、わりと簡単なはずだ。
トッグが不可能と言うのは、俺を揺さぶるための心理戦だろう。
「……ねえ、ルシフェル様。カイ君、なんか勘違いしてない?」
「……あれが旦那様の通常運転なのだ。慣れろ」
二人が妙なことを言っていた。
「くそっ、ふざけるなよ……! だとしても、俺は、レベル1500なんだ! てめえを上回っているんだ! 勝つのは俺だ、負けるのはカイルであるべきだろうが!!!」
「悪いけど……今の俺のレベルは、2500なんだ」
「……は?」
「「「は?」」」
トッグが目を丸くして。
次いで、冒険者と騎士達、ギルドマスターも目を丸くした。




