33話 影で蠢く者
「依頼内容は……連続殺人鬼の捕縛。あるいは、討伐だ」
「「却下!!」」
ギルドマスターの依頼を聞いた直後、ルルとミリーが即答した。
「我の旦那様に、なんて危険なことをさせようとしているのだ!? 鬼か! 悪魔か! そのような鬼畜な所業、我が見過ごせるはずがなかろう!」
「なにがあってもカイ君はあたし達が守るけど。その他の人間とか、わりと興味ないし。そういう危険にカイ君を巻き込まないでくれる? 消すよ?」
「えっと……」
二人共、睨まないであげて。
ギルドマスターの顔が蒼白になって、震えているから。
「はい、落ち着いて」
「「でも」」
「ステイ」
「「わんっ」」
俺のお嫁さんはわんこ系かもしれない。
「まずは、話を聞かせてもらうことはできますか?」
「あ、ああ。もちろんだ。話だけでも聞いてほしい」
ギルドマスターは神妙な顔をして、連続殺人鬼について語る。
事件の始まりは少し前。
ある日の夜、一人の他殺体が発見された。
刃物で斬りつけられた痕があり、無惨な状態だったらしい。
事件はそれだけで終わらない。
数日後の夜、再び死体が発見された。
同じく、ベテランの騎士も涙目になるほどの酷い状態。
それから数日後、再び……
という感じで、定期的に被害が出ているらしい。
今では、ほぼ毎晩事件が起きている。
相当な数の被害者が出ているらしく、ギルドは、とても重く受け止めているという。
「事件の概要はわかりましたけど……それ、騎士の管轄じゃないんですか?」
基本、冒険者は街の人々の困り事を解決する。
一方で騎士は、街の秩序を維持することを目的とする。
通常、秩序を乱す殺人事件は騎士の管轄だ。
「騎士団も、最初はそのつもりだった。しかし、ことごとく返り討ちに遭ったのだよ」
「騎士が返り討ちに?」
大抵の騎士は冒険者よりも強い。
レベル50オーバーが当たり前で、そこらの犯罪者が敵う相手じゃない。
「騎士がやられるなんて……相手は、素人じゃないんですね?」
「おそらく、な。それで、私達、冒険者にも応援要請が来たというわけだ」
「なるほど」
でも、なぜ俺なのだろう?
ルルがいるから?
……勘だけど、それだけじゃないような気がした。
「……これは、話すかどうか迷ったのだが」
ギルドマスターは難しい表情をしつつ、慎重な様子で言葉を選ぶ。
「生存者がいて、犯人の姿を目撃しているらしい」
「そうなんですか? なら、すぐに逮捕すれば……」
「その犯人は、別の容疑をかけられており、現在、逃走中で居場所がわからない」
「それは……」
「犯人は……元Aランクパーティー『漆黒の牙』のリーダー、トッグだ」
――――――――――
「ねえねえ、カイ君。そのトッグっていうドぐされ野郎がいるところ、あたしが爆撃しようか? 塵も灰も残さないよ?」
「それよりは、この街ごと吹き飛ばした方が早いのではないか?」
「いいね、それ。ルシフェル様の案、採用!」
「うむ。では、ちゃちゃっとやるか」
「ストップ! 二人共、冗談はそこまでにしよう」
「「え、本気だけど?」」
真顔で言わないでくれるかな?
普通に怖いから。
「とりあえず、情報を集めよう」
本当に犯人はトッグなのか?
だとしたら、なぜこんなことをしているのか?
事件の背景を調べることで、トッグの居場所も突き止められるかもしれない。
「それじゃ、分かれて聞き込みしよっか。その方が効率いいし」
「うむ、そうだな」
ルルとミリーは、まともに聞き込みできるのだろうか?
そんな疑問を抱いてしまうものの、口にはしないでおいた。
「いや、一緒に行動しよう」
「どうして?」
「それは……」
「ミカエルよ、それ以上、旦那様に言わせるでない」
「え? どゆこと?」
「旦那様は、我らと離れたくないのだ。すなわち、旦那様の愛!」
「愛!」
「なればこそ、嫁である我らは一緒に行動するべきだろう」
「オッケー! そういうことなら、まったく問題ないよ。もー、カイ君、可愛い♪」
「あはは……」
これ、本当のことは絶対に言えないな。
暴走しそうだから、なんて言ったら確実に拗ねてしまう。
笑ってごまかしておいた。
――――――――――
二時間ほど街で聞き込みをした。
得た情報を整理するため、一度、宿に戻る。
「情報をまとめると……」
色々な情報を整理すると、犯人はトッグで間違いないだろう。
他にも目撃情報があって、彼が犯人であることが示されていた。
ただ、わからないところも多い。
なぜ、無差別殺人を繰り返すのか?
騎士を退けるほどの力をどのようにして得たのか?
その答えには、まだ辿り着いていない。
「んー……情報が揃っているようで、肝心な部分はさっぱりなのだ」
「犯行目的とか、めっちゃ不明なんですけど。あと、強くなれた理由もよくわからないよねー。カイ君の話だと、そこまで、ってほどじゃなかったのに」
「妙な剣を持っているところを見た、という話があるが、それが関係しているのだろうか?」
「んー……どうなんだろ? さっぱり」
「旦那様よ、どうするのだ?」
ルルの視線を受けて、考える。
少しして答えを出した。
「この際、犯行目的などの事件の背景の調査は後回しにしよう。それよりも今は、これ以上の犠牲者を出さないようにしないと」
「そだね。でも、どうする? 相手は神出鬼没。夜、街のどこかに現れる、っていうところしかわかってないよ?」
「我が囮でもするか?」
「ルルはちょっと……」
「なぜだ!?」
ライオンが歩いているようなものだからな。
見る人が見れば、とんでもなく強いってことがわかる。
強者のオーラを完全に隠しきれていないんだよな。
そんなルルが囮になっても、果たしてトッグは釣れるだろうか?
「じゃあ、あたし……もレベル高いから無理か」
「そうなると、旦那様も厳しいぞ? ミカエルの半分くらいとはいえ、2500は、そうそうないからな」
「うーん」
みんなで良い方法を考える。
しかし、この日は良いアイディアは思い浮かばず、そのまま就寝となった。




